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◯面影と思い出に少女は涙する


第25話



せっかく、楽しみにしていた正月祭りに向かおうとしていたのに私は自らの不注意によるアクシデントでお母さんのお下がりだった着物を汚してしまい、おまけに足を挫いてしまった。


(私とした事が浮かれすぎたのかな...いや、神城先輩の言う事をちゃんと聞いていれば...)


私の頭の中は後悔の気持ちでいっぱいだったけどもう手遅れだ。もちろん、こんな状態で正月祭を楽しむのは困難だったため、私と神城先輩は神社を目前にして帰路に着く羽目になったのだ。


ちなみに今の私は足の痛みのせいで歩くのが辛く、神城先輩におんぶしてもらっている状態だ。


「お前も案外ドジっ子な部分もあるんだな。」


「ううっ...」


今の私には神城先輩に何か言い返す気力も残ってなかった。むしろ、自分をおんぶしてくれる神城先輩に感謝の気持ちが芽生えていたくらいだ。


「その...そんなに落ち込むなよ。早くいつもの生意気なお前に戻ってくれないとこっちの調子も狂うんだぜ?」


「落ち込みますよ...私がどれだけ正月祭を楽しみにしていたか...おまけに怪我をした挙げ句にお母さんのお下がりの着物を汚してしまったんですよ?」


「怪我は安静にしていればすぐに治るし、お前の母親は着物汚したぐらいで怒ったりはしないだろ?それと正月祭は来年だってある。その時はその...俺が今日みたいに付き合ってやるからさ。約束する...ほら、元気出せって。」


「神城先輩...」



私の頭を優しく撫でながら必死で励まそうとする神城先輩の姿を見て私は昔の事を思い出していた。













『やーだ!やだっ!もっと公園で遊ぶのっ!今日は1日中、輝星と遊ぶって約束したのにっ!パパの嘘つき!』


『輝星、本当に済まない。今日に限って急に仕事が入ってくるなんて思ってもいなかったんだ。』


小学生になる直前の頃だろうか?確かお父さんと近所の公園で楽しく遊んでいたのにお父さんに急な仕事が入ったせいで遊びを中断して帰宅する羽目になったのは...


もちろん、私は遊び足りなかったようで泣き喚いてお父さんを困らせた末、最終的にはお父さんにおんぶされて帰路に着いていた。


『騙してしまう形になってしまった事は何度でも謝るよ...』


『パパは輝星の事が大事だって言ってたじゃん!あれも嘘だったの!?』


『いいや、本当だよ。パパにとって輝星は大切な宝物だと思っている。そして、輝星と同じくらい絶対に守らなければならない人達がパパを待っているんだ。その人達は輝星とは違ってパパとずっと一緒にいられるわけじゃないんだ。もしかするとパパが助けがなかったら人生そのものが終わってしまうかもしれない...そう考えると輝星は恵まれているんだよ...輝星は幸せを独り占めするような子じゃないだろ?自分でよく言っているじゃないか...パパみたいにたくさんの人達を助けたいとね。』


『ううっ...そうだけど...』


昔から私はお父さんを応援していたし、自分もお父さんのような立派な弁護士になって人を守れるような...そんな存在になりたいと思っていたわけだがこの時ばかりはお父さんの職業を恨んでいたのを覚えている。


『ごめんな...だけど約束する。また今度公園に連れていってやるからな。ほら、元気を出しなさい。』


『パパ...』



そう言いながら、お父さんは優しく私の頭を撫でていたっけ...













(あの時と同じだ...)


そんな思い出を振り返っている内に何故だか私の視界が少しずつぼやけていくような...


「喜愛?おい、どうしたん...あぁ、そんなに辛かったんだな。俺に構わなくていいから泣きたい時は好きなだけ泣いたっていいんだぜ...」


「えっ...」


神城先輩にそう言われて私は自分が初めて泣いているのだと気づいた。視界がぼやけていたのは涙のせいだったんだね...


「あっ...あのっ!ごっ...ごめんなさいっ...!ですが...先輩が優しいのがいけないんですっ...!ううっ!ぐすっ...」


「いやいや、どういう意味なんだよ...」


「それはっ...!そのっ...!ぐすっ...えっと...」


「言いたくなかったら無理に言わなくてもいいからな。」



うん、言えるわけがないよ...私を優しく励ましてくれた神城先輩に今は亡きお父さんの面影を感じちゃったなんて...













「神城先輩、色々と本当にすみませんでした...」


「もう謝らなくていいってのに...」


その後、私は神城先輩におんぶされて何とか家に到着できた。


「いいか?次に会う時はいつも通りのお前に戻っておくんだぞ?今のお前が相手じゃこっちが調子狂うんだからな。」


「私はてっきり、普段はうざい女子の思わぬギャップが見れてからかうと思っていたのですが意外です...」


「自分がうざい奴という自覚があるなら足の怪我と同じように少しずつ直しておけよ?じゃあ、俺はこの辺で帰らせてもらうぜ。」


「あっ、待ってください!」


私を送り届けるなり、さっさと帰ろうとする神城先輩を思わず呼び止めてしまった。


(あれっ?どうして...)


どうしてだろう?自分でも呼び止めるつもりなんてなかったのに...無意識に神城先輩とまだ一緒にいたいなんて思っちゃったのかな?


「...ん?まだ何かあるのか?」


「あっ、いいえ...」


「そうか、じゃあな。」


結局、神城先輩はそのまま帰ってしまった。


「私、どうしたんだろ...意味もなく神城先輩を呼び止めちゃって...」


よく分からないけど色々あったせいか、今日の私は何だかおかしくなっているようだ。とりあえず、今日は早めに寝て心身共に治療に専念しようかな...



「今日はありがとうございました...()()()()。」



今の言葉は神城先輩を呼び止めてしまった私が伝えたかった言葉なのか...単に心が正常じゃなかったせいで出てしまった言葉なのか...それはまだ分からない。




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