●悪事その⑨ 聖夜阿鼻叫喚収納劇?前編
第21話
無事に体調が治った俺は翌日に登校した際、思わぬ事実を知ってしまった。
それは...
「そんな、嘘だろ...お前らは俺の悪事その⑧を都合良く作り変えたのか?しかもターゲットが俺って...」
「その...それに関してはすみません。ですが、これは成功としてカウントしていただいてもよろしいですよね?」
「全然よくねぇよ!俺が悪事を働いていない時点でダメだわ!よくそれで俺に【悪事は成功しました。】なんて連絡できたな...」
喜愛と笠武が俺が体調不良で不在なのを良い事に俺が考えていた悪事その⑧の内容を勝手に虚偽悪事内密計画なる悪事に変更して...さらによりにもよって俺をターゲットに悪事を働いていたのだ。
これは流石に文句を言いたくなるよな...
「えぇ?確かに神城君を騙してしまったのは事実ですが...せっかく、私と輝星ちゃんの初めての共同悪事が成功した上にお互いの絆も深める事ができたのですよ?これを成功と言わないで何と言うのですか?」
「だからな...」
「一応、多少の申し訳なさがあったのでこうやって今、神城君にもお伝えしたのですよ?それと今回の判断は私の独断ですので決して輝星ちゃんを責めないであげてくださいね?責められるべきなのは私ですから...本当にごめんなさい。」
「ううっ...」
笠武は表面上はペコリと頭を下げて謝る素振りを見せながらも発言の所々で開き直りの意図が読める。心底反省しているとは言い難いが俺からしても笠武をこれ以上責めるのはまずいのだ。
なぜなら、さっきから何やら俺達のやり取りを遠目で眺めている野次馬?みたいな奴らがいっぱいいるからだ。
(見慣れない顔も多いな...笠武のファンの隣のクラスの奴らか?だとするとあいつら目線は自分のクラスのマドンナが違うクラスの男子と話しているのが気になるってとこだろうな...)
遠目で聞いただけでは自らの非を誠心誠意謝っているようにしか見えない笠武に俺が怒ったりしたら、たちまち奴らに袋叩きに遭うだろう。つまり、ここは引き下がっておくべきか...
笠武の方もこれを計算した上で人目に着きやすい学校の廊下でこの事を打ち明けたとすればかなりの策士だろう。
「はぁ...俺の方こそ言葉がキツくなって悪かった。だけどな?次からはこんな事はしないでくれよ...」
「はい!頭の隅っこにしっかりと入れておきますね!」
いやいや!要するに守る気など一切ないと言っているようなものじゃねぇか...
「...これ以上、一緒にいると目立つから次からは誰もいない時に話しかけてくれ...」
「あっ、それもそうでしたね...私とした事がとんだうっかりをしてしまいました...」
とんだ奴を悪役同盟に迎え入れてしまったものだと俺は少しばかり後悔するのだった...
そんな事もあったりして1週間後...
「いよいよ本格的に寒くなってきたな...」
今日はクリスマス。子供達はサンタクロースとプレゼントを待ち望み、カップル達はデートを楽しむ...そんな日にどちらでもない俺は宛もなくただ歩き回って町中のクリスマス景色を眺めていた。
ある程度眺め終わったら帰って家で寘杏や梨華達とクリスマスパーティーを楽しむつもりだったのだが...
「あれっ?神城先輩ですよね?」
「宇來か...こんなところで奇遇だな。」
「えぇ、クリスマスですからね。特に行きたい場所はありませんが...こうやって町中のクリスマス景色を眺めるのも悪くないと思っています。大方、先輩もそのつもりでここに来たのでは?」
「まぁ、そうだな...」
まさか、こんなところで宇來と出くわすとはなぁ...これは予想できていなかったぜ...
「出歩いて良かったのか?お前の父親が...」
「それに関しては心配なさらないでください。あれ以来、お父さんは少し丸くなったというか...このぐらいの事には口を出さなくなりましたので!」
「なるほどな...」
俺との出会いで宇來の父親にも良い方向で変化をもたらしたみたいだな...それについて語る宇來も嬉しそうで何よりだ。
「さて、会ったばかりで申し訳ないが俺はそろそろ戻らないといけないからな...じゃあな、クリスマスを楽しめよ。」
「あっ、ちょっと待ってください!」
俺がそう言って別れようとした時、宇來から呼び止められてしまった。俺には心当たりはないが何か話でもあるのだろうか?
「どうした?俺に何かあるのか?」
「あの...もし良ければですが神城先輩、一緒に回りませんか?」
「はっ?お前、それって...」
おいおい!宇來からクリスマスデートに誘われてしまったんだが!?いったい、どういうつもりなんだ?
「先に言っておきますが神城先輩が一人で寂しく歩いていたのを可哀想だと感じたからです。それ以外の気持ちはありませんので勘違いなさらないでくださいね?」
「いやいや、別に無理に俺を誘わなくても...」
「無理なんかしてません!先輩は私のご好意を無駄にするのですか?」
よく分からないが俺が頷くまで帰してくれる雰囲気ではなさそうだな...
「仕方ないな...ただし、1時間だけだぞ?この後は家で幼馴染達とクリスマスパーティーの予定もあるんだからな?」
「良いですよ...ですが、仕方ないはこっちの台詞です!というか、その幼馴染さんって女の子ですか?」
「えっ?そうだが...それがどうかしたか?」
「なるほど、良いご身分ですね...」
了承したら了承したでコイツは何で不機嫌になってるんだ?これではどっちが頼んできたのか分からない。
「では、神城先輩!私の行きたいところへお供してくださいね?」
「おいおい...」
そう言うと宇來は俺の腕を引っ張りながら歩き始めた。ちなみに俺は無抵抗で引っ張られているがこれは決して親切心などではない。
(これも立派な悪事だ。聖夜阿鼻叫喚収納劇という名のな!俺と宇來が二人でデートする事でカップルと誤認させ、非リア充からの嫉妬を誘ってそれを俺は楽しんでせせら笑う...とんでもない悪事だろ?)
そんな悪どい事を考えながら、俺は宇來に引っ張られる形で歩き始めたのだった...




