○世界一の悪のお助けマンになると決めた日
●が豪牙、◯が輝星目線です。
第2話
私の名前は喜愛輝星。一見すると見た目はどこにでもいそうな中学3年生だけど私は全然普通じゃない。
えっ?私の名前の事かって?それは違...わないけどね...確かに『きあ』ってただでさえ変わった名字なのにそこに『きらら』なんてキラキラネームを娘に名付けるうちの両親のネーミングセンスは結構独特というか...
とはいえ、『輝星』という名前には輝く星のような存在になってほしいという両親からの強い願いが込められているのでそこまで嫌だとは思ってはいない。むしろ、言葉にはしないけど密かに気に入っているくらいなんだよ?
だったら、私のどこが普通じゃないのかだって?それはね...ズバリ、悪のお助けマンに憧れているってところ!
実は私のお父さんは弁護士という職についているのだ。そんなお父さんの影響か私も幼い頃から将来は弁護士という職を目指すようになった。
その予行練習?みたいな感じで小学生時代からは周囲から責められている子を私なりの理論で擁護してあげるなんて事もしており、その子達からは感謝される事もあった。ただ、昔の私は分別を弁えずに時には明らかに非があったり、悪い事をしている生徒の事も擁護する事もあったため、同級生からは疎まれる事もあったっけ...
小学校高学年の頃にお父さんがとある連続殺人事件の被告の弁護を担当する事になったのがきっかけで学校内では私の事を『人殺しの仲間の娘』だのと悪口を言われる事が増え、私の周囲からは人が離れていったが私はお父さんの仕事を誇りに思っていたので特に気にはしていなかった。むしろ、孤高というものを仕方ないと受け入れつつあった。
一方でそれまでの私は弁護士になりたいという思いが強かったとはいえ、『正義』というものを否定するなんて気持ちはなく、逆に正義感から他人の擁護に動いていたのだから...決して悪人に対して積極的に同情するような性格ではなかった。
そう...あの日まではね。
私が中学3年生になった夏、お父さんは何者かの手によって殺されているのが発見された...
私の同級生達はその話を聞くなり、『人殺しの味方をしたのだから死んで自業自得』と私とお父さんを罵倒したのだ。私の事をバカにするのはいいけどお父さんの事をバカにするのは許せなかった私は同級生達に本気で殴りかかって習っていた武道の技を使って大ケガをさせてしまい、大問題になってしまった。
その結果、私は周囲から完全に孤立してしまったがそれ以上に私を苦しめた事実が...
(何で警察はお父さんの事件を揉み消そうとするの!?)
何と警察がお父さんの死を事件性なしとして【誹謗中傷に耐えかねた自殺】と処理してしまった事だ。私とお母さんから見たお父さんはどれだけ誹謗中傷の声を浴びようとも挫けずに弁護士を続ける立派な人間だった。そんなお父さんが自ら命を絶つなんてあり得ないはずなのに...
一部では弁護士としてお父さんが警察と対立関係にあったがために警察が捜査に乗り気ではないという噂が流れる始末だった。
それを聞いた私は吹っ切れてしまった。
(ははっ...皆はそんなに私とお父さんを悪者扱いしたいんだね...なら、上等だよ!私はお望み通りになってやるんだから!)
この日、私はそんな決意を固めたのだった。
とは言っても私は完全なる悪になるなんてつもりはなかった。どれだけ警察が許せなかったとしても『正義』そのものを否定する理由にはならなかったからね...
(でも...だからといって、このまま今まで通りの日常を過ごすっていうのは...何か私が諦めたみたいじゃん!)
そこで私は決めた。『完全悪』ではなく、『悪のお助けマン』になる事に。これなら正義を否定しないのと同時に自分を妬む人間達にも一泡吹かせられるはずだもの...それに将来は弁護士を目指す者として悪人側の気持ちに今まで以上に寄り添えるとも判断したんだから...
「よし、目指せ!悪のお助けマンだね!」
しかし、ここで問題が発生した。それはもちろん、誰のお助けマンなればいいのか?である。
私のような中学生が悪のお助けマンをやるといっても完全なる悪人からは門前払いか、いやらしい事に使われるかの二択なのは明らか。
(だから、悪は悪でも常識を持っている人をえらびたいんだけど...)
そんな感じで休日になる度にいろんな人に声をかけていったけど、当たり前だがそんな都合が良すぎる人物は簡単には見つからない。
(あぁ...やっぱり、私には無理なのかな?)
私が諦めかけたある日の下校中の時だった...
(えっ?)
急に下半身に風を感じた...数秒が経って初めて私は自身がスカート捲りの被害にあったのだと悟った。
「いやあぁぁ!」
「ぐはっ...」
私が羞恥心のあまりに犯人を蹴飛ばすと当たりどころが悪かったのか犯人はそのまま気絶してしまった。
「うっ...何なの?この変態さんは...」
見たところ、高校生の男の人だろうか?このまま警察に突き出しても良いけど今の私は完全なる警察不信だ。もしかしたら私の一方的な暴力と見なされてしまうのでは?という不安が募っていた。
...それよりもだよ?
「そうだ。この人と交渉...してみようかな?」
逆にこの事を脅しに私が彼のお助けマンになるのも悪くはない。人気のない道という絶好の場所でこの人は私に対してエッチな事ではなく、スカート捲りなんて幼稚な悪事を働いているくらいだから多少は『完全なる悪にはなれない』タイプの人間の可能性もある。
(とりあえず、皆にバレない場所にこの人を運ばないと...)
後から思い返してみれば、これが私と先輩...神城豪牙さんの出会いだった。