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自称悪者な俺と悪のお助けマンな後輩ちゃん  作者: たかくん
第2章 仲間を増やして次の悪事へ...
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●悪事その⑥ 慈父精神暴言狙撃?


第15話



宇來の過去の話が終わった後、しばらくの間は沈黙が続いていた。ひょっとすると俺も宇來もお互いに次に相手に何を話せばいいのかを迷っていたのかもしれない。


(とはいえ、いつまでも沈黙しているわけにはいかないよな...)


ここは年上として俺の方から話を再開してあげる心遣いが必要と判断した俺は口を開く事にした。


「なぁ、俺は改めてお前の父親と話しをしにいこうと思っているんだが...どうする?お前は一緒に来るか?」


「気持ちはありがたいのですが、お父さんはあなたの話を聞いてくれるとは思えませんよ。」


「それでもだ。父親がお前を縛りつけているのは娘を思い通りの道具にするためとかじゃなくて、奥さんに続いて娘までもを失いたくないからなんじゃないのか?だったら、まだ話は通じると俺は思っているんだ。」


「.........」


宇來の父親も戦争がなければ今頃はウクライナで平穏な日々を送れていたのかもしれない。そう考えるとあの人だって戦争によって運命を大きく狂わされた被害者なのだ。


「分かりました...では、私も同行させてもらいます。話の途中でお父さんがあなたに手を出さないとは限りませんから...その時は私が全力で止めに入るつもりです。」


「助かるぜ!さて、早速...と言いたいんだが、お前の父親はまだゲームセンターの駐車場に残ってるだろうか?それとも他の...」


「いいえ、それでしたら大丈夫です。お父さんは数日前に酒に酔った状態で自宅の階段から転げ落ちてしまって...それで足を痛めていますから。ですので、そう遠くへは行っていないと思います。」


「あぁ、なるほどな...」


あの時、俺が宇來をお姫様抱っこした状態で大の大人を振り切れた事に対しては少し疑問に思っていたがそれなら納得だ。


「とりあえず、駐車場に戻ってみるか?」


「まぁ、それが良いかもしれませんね...」


そんなわけで俺と宇來がゲームセンターの駐車場へと戻ろうとした時だった。


「はぁはぁ...見つけたぞ!ライナ!それと...娘を誑かしたお前!」


宇來の父親が俺達の姿を見つけてこちらへ近づいてきた。息を切らした様子から見てどうやら、相当疲れているのだろう。


(わざわざ探しに行く手間が省けてラッキーかもな...)


向こうの方からやって来てくれた事に内心で感謝しながら俺は宇來の父親と向き合っていた。念のために宇來を自らの後ろに下がらせた状態で...


「ちょうど良かったぜ。あんたに話があったところだからな...」


「生憎だが俺はお前と話す事なんてない!いいからさっさとそこをどけ!」


「まぁまぁ、そう焦らずに聞いてくれよ。」


俺は特に了承を得ないままの状態で勝手に話し始める事にした。今の宇來の父親の状態ではまともな了承を得る事自体が難しそうだからだ。


「宇來からあんた達の過去は聞かせてもらったぜ...なぁ、あんたは今でも娘を大切に思っているんだろ?」


「あぁ、そうだとも!同じ過ちを繰り返さないと決めたんだからな!ライナは俺の言う事だけを聞いていれば幸せになれるんだ!それでいい!」


「だったら、娘をその自分本意の考えで縛りつけるのはやめた方がいいと思うんだが...あんたのやり方は宇來を苦しめているってのが分からないのか?」


「ふん!そんな事...お前には関係ないだろうが!お前には大切な家族を失うという心の痛みが分からないからそんな事が言えるんだ!分かったなら部外者は引っ込んでろ!」


「ちょっ...お父さん...」


俺の言葉に乗せられる形で宇來の父親もヒートアップしている。まぁ、父親目線では『お前なんかに何が分かるんだ!』って言いたいんだろうな...


「いいや、俺には分かるとも。あんたの気持ちがな...」


「何が言いたい...」


だがな?俺には理解できるからこそ、こうやって向き合って話をしているのだ。


「俺は...生まれてすぐに母を亡くしているからな。」


「なっ!?」


「嘘...」


予期していなかったであろう俺の暴露に宇來親子は驚いたのか言葉を失っていた。父親の方はさっきまでの怒りがどこかに飛んでいった様子で唖然としていた。


「家族としての思い出があるだけ、あんた達はまだ恵まれていた方だ。でもな?俺にはそれすらもないんだ!俺が物心ついた頃には母さんは死んでいた!本当に孤独だったんだぞ!?逆に聞くがあんた達にそれが分かるか?」


「それは...」


実際に母親の話題になると俺はついていけずに事情を教えると憐れんでもらったりと...そんな複雑なやり取りをして悲しい気持ちになったのは一度や二度ではない。


「でもよ?そんな環境の中でも俺が心を壊さずに真っ当に生きていけたのは何でだと思う?親父のおかげだよ!アイツは普段はろくでもないけど...いざという時は父親らしく、俺を支えてくれた!少なくとも、あんたみたいに自分本意に縛りつけようなんて事は一度もなかったんだよ!何より、辛いのはあんただけじゃない!ライナだって最愛の母親を亡くしてるのを忘れたのか!?それでもあんたと違って立ち直ろうとしてるんだぞ!あんたも父親ならいつまでも過去を後悔していないで未来へ進む事を選んだ娘の支えになってやれよ!」


「「.........」」


昔を思いながら話している内に俺は涙が出そうになるくらいに感情移入していた。


俺のそんな様子を見て宇來親子はしばらくは黙っていたが、やがて娘の方から口を開いた。


「...お父さん、私はね。今でもお父さんが大好きなんだよ?だって、私を怒るお父さんからは怒りは感じても憎悪は感じなかった...つまり、私の事を大切にしているって...愛してるって分かっているんだもん!」


「.........」


「その上でお願い!昔のお父さんに戻って!私は昔みたいにお父さんと笑い合えるような日常を過ごしたいの...私達よりも悲惨な境遇の神城先輩だってこうやって親の愛を受けて育ったんだよ?私だってお父さんからの愛が欲しいよ!」


「ライナ...」


俺や宇來からの言葉に何か思うところがあったのか、父親からは怒りの色は完全に消え失せ、下を向いてブツブツと何やら呟いている。


そして、宇來の父親は何かを決意したかのようにおもむろに立ち上がった。


「ライナ、夜の7時までには帰ってきなさい...それまではそこの彼とゲームセンターで楽しむといい。」


「お父さん...」


宇來にこう告げてその場を去...ろうとして思い出したかのように俺に向き直る。


「もし、良ければ君の名前を聞かせてもらえないか?」


「えっ?神城豪牙ですけど...」


「神城豪牙...覚えておこう。君のような人間と出会えた事が娘の何かを変えるきっかけになったと...」


いやいや!それは俺じゃなくて喜愛だからな?後で厄介な事になりそうだから、流石に訂正しておかないと...


「いや、ちょっと待ってくださいよ!それは俺じゃ...」


「無理に謙遜する事はない。君がやった事はある意味、私がすべきだった事かもしれない...それを教えてくれた礼と数々の暴言を吐いた詫びをさせてもらいたい。」


「いえいえ!俺は気にしてませんよ!」?


「そうかい...じゃあ、私はこの辺で失礼させてもらう。二人の楽しみを邪魔するわけにはいかないからな。」


「いや、だから!」


そう言い残すと宇來の父親はその場を立ち去っていった。


あとには俺と宇來が残されるわけで...


(気まずい...宇來に何て話しかければいいんだ?)


必然的にそんな感情になっちゃうよな...あんな立ち回りしちゃったからにはなぁ...


「あの...神城先輩...」


「あっ、宇來...」


俺が頭をフル回転させて必死で会話内容を考えていると今度は宇來の方から話しかけてきた。


「色々と謝らせてください。戻るのが遅れてしまった事...私達の問題にあなたを巻き込んでしまった事...あなたの口から辛い過去を言わせてしまった事を...本当に申し訳ございませんでした!」


宇來はそう言って俺に頭を下げてきた。


「気にするなって。勝手に割って入ってきたのは俺なんだから...」


「そうですか...あっ、それとお礼も言わないといけませんね。私を助けてくれて本当にありがとうございました!」


「おいおい、そんなに固くならなくてもいいんだぜ?」


前までは俺に対して当たりが強い宇來に何とかして頭を下げさせてやる!みたいな気持ちもあったが、実際にやられると何かこっちが申し訳ない気持ちになってしまうとはな...


「あっ、そういえば喜愛を待たせていたんだっけな。早くゲームセンターに戻らないか?」


「そうでしたね...輝星さんにも謝っておかないと...」


そんなわけで俺達が公園を出てゲームセンターの入口まで戻った時だった。


「そうだ...神城先輩、あなたに受け取ってほしいものがあります。」


宇來がそう言って小さなカバンに中から何かを取り出したかと思うと、それを俺に差し出した。


「これって...キーホルダーか?」


「はい、本当は輝星さんにこの間のお礼として次に会った時に渡すつもりだったのをすっかり忘れていました...でもゲームセンターで遊んでいる内に思い出して取りにいったんです。ですが、そこをお父さんに見つかってしまってというわけだったんです...そんなわけでして神城先輩に何のお礼もしないのは悪いなと思いまして...」


「いや、ちょっと待て!それは喜愛のために用意したものなんだろ?だったら、喜愛にあげるべきだろ。俺は別に見返りなんて求めないからよ!」


俺は別に見返りを求めて宇來を助けたわけではない。初対面時に何もできなかった申し訳なさから助けに入ったのだ。だから...


「...このキーホルダーは生前のお母さんに二つ貰った物なんです。一つは私の物として...そして、もう一つは私が信頼できる人に渡すように言われたんです。つまり、あなたは私からの信頼が得られたという事なんですよ。嬉しくないんですかね?」


「やれやれ、さっきまでの憎まれ口が戻るくらいには元気になったようだな...いいぜ!そこまで言うなら貰っておいてやる!その代わり、返品は受け付けないからな!」


宇來の軽い挑発に乗る形で俺も精一杯の強がりを見せながらキーホルダーを受け取る。


「ふふっ、神城先輩の事...ちょっとだけ見直しましたよ...」


「お前からの褒め言葉としてありがたく受け取っておくぜ。」


「勘違いしないでくださいね!ちょっと...ほんのちょっとだけですから!」


「そんなにムキにならなくてもいいだろ...」



俺の反応に怒っているのか、顔も赤くなってるようだし...やっぱり、宇來は俺の事が嫌いなのか?













「なるほど、そういう理由だったんですね...」


「あぁ、待たせて済まなかったな...」


あの後、ゲームセンターに戻った俺達は喜愛に待たせてしまった事を謝罪した後、三人でゲームセンター巡りを再開した。


そして、宇來がトイレで抜けたタイミングで俺は遅れてしまった理由を説明していた。


「でも良かったんですか?ライナちゃんは救われましたけど...悪になりたい人が良い事をしちゃってますよね?」


「あっ...いや、違うな!これはその...アレだ!悪事その⑥慈父精神(じふせいしん)暴言狙撃(ぼうげんそげき)だ!」


「はい?」


そうだとも!俺が100%の善意で宇來を助けるはずが...ないもんな!


「娘思いの父親と娘の会話にに無理やり割って入って父親に暴言を浴びせて精神的に痛めつける...どうだ?とんでもない悪事だろ?」


「残念ながら神城先輩個人からすれば成功かもしれませんが、お助けマンの私が何もしていないので悪役同盟としては失敗です。」


「うぐっ...だが、ある意味では宇來がお助けマンみたいな役割だったんだよ!だから、成功にカウントしても...」


「いつからライナちゃんが悪役同盟に加わっているんですか?あの子を巻き込むのはやめてくださいよ!」


「いや、だがな...」



こうして、宇來がトイレから戻ってくるまでの間...俺と喜愛は今回の悪事?の反省会を開いていたのだった...




いい終わり方ですが、第2章はまだ終わりではありませんよ?10月からはミラピュアの執筆を再開するのでこの小説の方はいつ次の話を投稿するかは未定ですが楽しみにしていてください!(ついでにミラピュアの方も見てね!)

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