●ほんの些細な罪悪感
第13話
たまたま会った宇來も加えて三人でゲームセンターを回ってしばらく経った頃だった。
「あっ、すみません...諸事情で少しばかり離脱させてもらってもよろしいでしょうか?」
「諸事情?まぁ、構わないよ。私と神城先輩はゲームセンターで待ってるからね。」
「はいっ!そう時間はかからないと思うのですぐに戻ります!万が一、戻れなければ輝星さんに携帯で連絡しますので!」
そう言うと宇來はゲームセンターの出口の方へと走っていった。
あとには俺と喜愛が残される。
「う~ん、ライナちゃんの諸事情って何でしょうか?神城先輩も気になりませんか?」
「正直、多少は気になるな...でも人には人の事情があるからな。無理に深入りする必要はないだろう。本人もすぐに戻ってくると言っていたしな。」
喜愛は残念そうにしていたが、俺からすれば宇來が離脱した事でかかる負担が多少減ったのはメリットでもある。
「そうかもしれませんね...さてと...じゃあ、私達は私達で引き続きゲームセンターで楽しむとしましょう。神城先輩もそれで良いですよね?」
「そうだな...仕方がないから付き合ってやるよ。」
「ちょっ!その言い方!私がしつこく告白したみたいになってるじゃないですか!訂正してください!」
「はいはい...うるせぇ...」
それからしばらくは俺と喜愛は二人でゲームセンターを満喫したのだった...
「う~ん、ライナちゃんは遅いですね...」
「確かにな...すぐに戻ってくると言っておきながら、もう大分時間が経ってるよな?」
あれから1時間以上の時間が過ぎても宇來がゲームセンターに戻ってくる気配はなかった。
「ライナちゃんは戻ってこれなくなったら私に連絡を入れると言ってましたよね?もしや連絡する余裕がないほどの危機に直面しているとか...」
「あり得るかもな。前にもナンパ野郎に絡まれていたくらいの美少女だからな...」
もしかすると、また厄介なトラブルに巻き込まれている可能性もゼロではないか...
「ちっ、仕方ないな...俺はちょっとゲームセンターの入口とその周辺を捜してくるから、喜愛はゲームセンターを引き続き満喫してくれても構わないぞ?」
「おやおや?私はてっきり、神城先輩は面倒くさがって私に押し付けると思っていたのですが...どんな風の吹き回しですかね?」
喜愛は心底驚いた様子で俺を見つめる。どうやら、俺がそんな事を言い出すとは思っていなかったようだ。
「勘違いするな。お前の子守りと宇來を捜索なら、後者の方がマシと思っただけだ。それにちょうど外の空気を吸っておきたかったからな。」
「あ~あ、ちょっとでも先輩に期待した私がバカでした~!」
「勝手に期待したのが悪いだろ...とにかくそういうわけだ。行ってくる!」
そう言い残すと俺はゲームセンターの入口を目指して走っていった。
ちなみに余談だが、俺が自分から宇來を捜しにいくと決意した理由には...
(宇來がナンパ野郎に絡まれた時、それを助けたのは喜愛だ。一方の俺は隠れているだけで何にもできなかったんだよな...そりゃ、当たりが強いのも当然だ...)
俺がこんな罪悪感を抱いていたからでもあるのだが、喜愛には恥ずかしくて言えるはずがなかった。
ゲームセンターを出たはいいものの、まずはどの辺りを捜すのかが問題だ。
(とりあえずは駐車場からだな...どうせいるわけないが、万が一の事もあるから確認しておくとするか...)
そんな感じで俺が駐車場内を捜して回っていると...
「......!!」
「ん?」
駐車場の左端の公衆電話がある方から男女の声が聞こえた。車に隠れて会話する二人の姿こそ見えないが俺は男の方が女に怒鳴っているような雰囲気を感じていた。
(何が...って!宇來!?)
俺が気づかれないように声がする方に向かうとそこには宇來と40歳くらいの男がいた。どうやら、この男が宇來を怒鳴りつけていたらしい。
おまけに宇來は頬を赤く腫らしており、目からは涙が浮かんでいる。とても平和的な話し合いには見えなかった。
「ねぇ、お父さん!あの人の事を悪く言うのはやめて!いくらお父さんでも流石に...」
「黙れ!口答えするな!」
「きゃっ!」
すると男...宇來の父親が宇來を思いっきり突き飛ばしたではないか。宇來は回避できずにその場で尻餅をついて座り込んでいる。
「ううっ...」
「分かったら、さっさとそいつのところに案内しろ!」
「ダメっ!お願いだから!」
俺はもう見ていられなかった。面倒事を避けるために音を立てずに静かにその場から去ろうとも考えていたが、どうしてもそれができなかった...
「ふん!最近になってからお前が反抗的になったのもそいつのせいに決まっている!ほらっ!案内しないか!」
「いやっ!」
父親に無理矢理手を引かれて連れていかれそうになる宇來に思うところがあったのかもしれない...
「おいっ!あんた、何をしているんだ!」
「あん?何だお前は...」
気づけば俺は二人の前に飛び出して宇來の父親の腕を宇來から引き剥がした。
「えっ?神城先輩...」
「宇來...」
突然現れた俺を見つめる宇來からは数時間前のような生意気さはすっかり消え失せており、そこにはただ怯えている年相応の少女の姿があった。