●悪事その⑤ 麺料理捕食魔逃亡劇?前編
第10話
とある休日。俺は喜愛と共に適当なラーメン店にて昼食並びにこれまで悪事についての反省会をしていた。
「はぁ...次はどうするっかなぁ...」
「そう焦らずとも...今はラーメンの味を思いっきり堪能しましょう~!もぐもぐ...」
「お前はよく落ち着いてラーメン食えるよな...」
俺がこう思ってしまうのも無理はない。活動資金通り魔徴収策が失敗に終わった後、新たに二度に渡る悪事を実行したのだが...
「もぐもぐ...ですが、合法幼児略奪術は結構惜しいところまで来てたではありませんか。」
「ちっ、あのタイミングで親が来なかったならな...」
「おまけにその子と本気で遊んでくれてると勘違いされて感謝されてしまうくらいですからね。」
「うっ...もうそれを言うな。というか、お前もそいつと割と楽しそうに遊んでたじゃねぇか!そのせいで拐うタイミングがつかめなかったんだぞ?忘れたとは言わせないからな。」
悪事その③合法幼児略奪術はその名の通り、目に入った幼児を誘拐してその子の親を恐怖に陥れるというものだったが見事に失敗に終わった。俺達(特に喜愛)が不覚にも本来の目的を忘れてその子と遊び過ぎたせいで誘拐のタイミングがつかめなかったのが原因だ。
「いやぁ、もう知ってると思いますけど...私って友達がいなくてですね?あぁやって遊ぶのは小学校低学年...いや、幼稚園以来ですかね?つい楽しくなってしまったんですよ...」
「あっ、その...何かすまん...」
まぁ、俺だって喜愛の気持ちが分からなくもないから悪事その③についてはもう語るのはやめておくとするか...
「まぁ、密室破廉恥偽装工作に比べれば遥かにマシですけどね。」
「あれは実行以前の問題だったからな...」
「まさか、神城先輩があんな悪事を考案するとは信じられませんでしたね...ますます軽蔑しましたよ。」
「言わないでくれ...俺のライフはもうゼロなんだ!」
悪事その④密室破廉恥偽装工作に至っては発案したはいいものの、実行すらされずに失敗に終わった。どうしてこうなったのかは悪事の名称の時点で察してほしい。
「ふふっ、冗談ですよ。神城先輩に以前からそういう素質があったので気にしてません。ですよね?変態めくり魔さん?」
「いや、それはそれで複雑なん...痛てぇ!」
「左腕はまだ痛むんですか?」
「誰かさんのせいでな!まぁ、俺が責める権利はないんだが...」
おまけにこの悪事で俺は左腕を負傷する羽目になったりと踏んだり蹴ったりだった。実際に今も俺の左腕には包帯が巻かれている。
「あの時は嫌な予感がして包帯を持参していたのですが、それがまさかの大正解でした。」
「全くだな。それにしてもお前は包帯の巻き方が上手いんだな...」
「あぁ、それは母が元看護師でして。小さい頃から教えてもらっていたんですよ。」
「親譲りってやつか...なら納得だな。」
そんな感じで喜愛との会話が弾む内にラーメンを食べ終えた俺は会計の準備をするべく、財布を取り出そうとした。
...ところがだ。ここで予想外のアクシデントが発生する。
「やべっ...嘘だろ?財布がねぇ...」
「は?」
何故だか財布が見当たらない...まさか、持ってきていたつもりが実はうっかり持ってきていなかったパターンか!?俺は案外抜けているところもあるから不思議ではないんだよ...
「財布を持ってきてないのにラーメンをご馳走になるなんて神城先輩は随分とご偉い身分なんですね~!」
「ちげえよ!なぁ、今日のところは奢ってくれないか?金は後日必ず返すからさぁ!」
「嫌ですよ~。今日はラーメンを食べた後、残ったお金で買い物をしようとしてるんですから。それに私はただでさえおこづかいが少ないのに...」
喜愛は俺の悲痛な頼みをキッパリと断ってきた。だが、俺もここで諦めるわけにはいかない。
「そこを何とか頼む!」
「しつ~こい男はノンノンですよ?私のスカートをめくった挙げ句に今度はお金まで取る気ですか?」
「くそっ...」
俺は本気で焦っていた。親父に連絡して払ってもらうという手も...いや、ダメだ。実を言うと以前にも外食先で財布を忘れて親父に払ってもらった事があったがその時にすげえ怒られて『次はないからな』と宣言されてしまっているからな...
(どうすればいいんだ!?このままだと本当に食い逃げになっちま...ん?待てよ?食い逃げ?)
「喜愛、この店でできる新たな悪事を思いついた。悪のお助けマンとして協力してくれ!」
「えっ?この店でできる悪事...ですか?」
俺の咄嗟の発言に喜愛も興味を持ってくれたようだ。これなら都合が良い。
「そうだ!その名は麺料理捕食魔逃亡劇だ!いいだろ?」
「その...神城先輩、普段は私のネーミングセンスがどうのこうのって突っ込んでますけどあなたも私と大差ないのでは?」
「いや、それはだな...とにかく!今はそれはどうでもいいんだ!悪事の内容を小声で説明するからちゃんと聞いてくれよ?」
こうして、唐突すぎる形で俺と喜愛の5回目となる悪事が始まったのだった...