●世界一の悪になると決めた日
第1話
俺の名前は神城豪牙。自他ともに認める意外とカッコいい名前をしているが、肝心の俺は大人しくて友達もそれなりにいるという、どこにでもいそうな普通の男子高校1年生だ。
そんな俺の長所は...強いて言うなら、お人好しな性格だろうか?だが、それのせいで友人達からも『明らかな名前負け』だのと陰で言われる事もあり、俺も内心ではその事は気にしていたがお人好しゆえかやはり何も言い返す事はできなかった。
(全く...俺にこんな名前をつけた母さんを恨みたいぜ...)
名前をつけたのは母さんだが俺が小さい頃に病気で亡くなってしまっているので、今となってはもう文句は言えない。現在では親父と二人暮らしだ。
とはいえ、そのお人好しのおかげで俺に感謝しているような同級生もいるので俺はそんな自分の長所を誇りに思っていた。
そう...あの日まではな。
「ごめんなさい。私はちょっとワルっぽい人が好きなの。それに比べてあなたは地味でお人好し過ぎるし...」
その日、俺の人生で初めての告白は見事に玉砕されてしまった。相手は北雲瑠莉というクラスのマドンナ的な存在の女子で俺も密かに彼女に好意を寄せていたのだが...
「そんな...なぁ、待ってくれよ!俺は君のためならなんだってするからさぁ!」
「いや、本当に無理だから。あっ!そうだ!かわいそうだし、せっかくだから神城君に良いことを教えてあげるね!私からのせめてもの慈悲ってやつ!」
そんな上から目線の物言いで瑠莉は俺に話し始めた。
「あのね?ここだけの話だけど...実は神城君はこの学校皆からはお人好しの奴隷としか見られてないんだよ?」
「はっ?」
瑠莉が言い放った言葉を俺はすぐには理解できなかった。俺がお人好しの奴隷?
(いや、嘘だろ...皆は俺に感謝してたじゃないか!嘘だよな?嘘だと言ってくれよぉ!)
だが、そんな俺の気持ちを知ってか知らずか無情にも瑠莉は話を続ける。
「この学校の皆は神城君のいないところで『奴隷』だの『都合が良い使いっ走り』みたいにいろんな悪口を言ってるんだよ?あっ!実際に私もそうだと思ってたんだよね~?」
「そんな...」
おまけに瑠莉の奴も俺の事を見下していたという事が分かって俺は動揺していた...
そして、トドメの一言として去り際に瑠莉はこう言い放ったのだ。
「もし、どうしても私と付き合いたいって言うならさぁ?ワルな奴になってみなよ!まぁ、神城君には絶対に無理だろうけどね!バイバ~イ!」
後に残されたのはあまりの衝撃で唖然としている俺だけだった。
それから数分が経っただろうか?
「ちっくしょ...」
気づけば俺の口から自然にそんな言葉が出てしまっていた。
人生で初めての告白が無惨な形に終わった事もそうだが、何よりも自分の事を陰で見下していた瑠莉や他の奴らへの怒りで頭の中がいっぱいだったのだ。
(ははっ...あいつらは陰で俺の事をあんなふうになぁ...これじゃ、今までの俺がバカだったみたいじゃねぇか...)
そして、この時...俺は一つの決意をした。
「お人好しの奴隷だぁ?私と付き合いたいならワルになれだぁ?ふん、上等だよ!誰も見た事がないような悪者になって俺をバカにしていた奴らを見返してやるからな!」
こうして、この日から俺の悪者としての日々がスタートする...
...はずだった。
「あっ...とりあえず、最初は...身の回りの小さな事からだな。流石にいきなり強盗や殺人みたいな重罪を犯しても、そこら辺の高校生が逮捕されたってだけでちっとも話題にならないもんな。」
お人好しついでに小心者の俺にはすぐに悪者になるのは難しかったらしい。そこでまずは身の回りの小さな悪事から始める事にした。
(えっと、記念すべき最初のターゲットは...おっ!そうだ!あの子にするか!)
俺の視界に入ったのはポニーテールが似合う中学生くらいの制服を着た女の子だった。
ちなみにどんな悪事をするのかというと、単なる『スカート捲り』だ。普通の悪者ならもっと派手に残酷な事を思い浮かべそうなものだが、あいにく今の俺にはこれが精一杯の悪だろう。
(ささっと捲って、ダッシュで逃亡だ!いくぞ!)
そんなわけで俺は女の子が一人になるタイミングを窺い続けた。そして、遂にその時が訪れた。
(よし、いまだ!)
俺は女の子に素早く近づくと言葉を交わす間もなく、彼女のスカートを捲った。途端に可愛らしい水色の下着があらわになる。
(へぇ...これが女子中学生の下着か...すげぇな...さて、後は逃げるだけだな...)
たっぷりと目のご馳走を満喫させてもらった俺がそそくさとその場から撤収しようとしたその時だった。予想外の事が起こったのは...
「いやあぁぁ!」
「ぐはっ...」
羞恥心のあまりか、女の子が俺の顔面に強烈なキックをお見舞いしてきたのだ。
(うっ...痛てぇ...でもパンツ見れたから結果オーライかもな...あはは...)
そんなちょっといやらしい事を考えながら俺はその場で意識を失ったのだった。
後から思い返してみれば、これが俺とあの少女...喜愛輝星の出会いだった...