6.異世界人との遭遇(2)
6.異世界人との遭遇(2)
使者の騎士を先頭に、カッツを乗せた馬を引く若い騎士が続いた。
少し距離をおいて、中尉とディアドラとスヴェトラーナが一列に並んで向かった。右翼にイヴァン、左に筝。
一〇〇メートルほど進むと、視線を感じた箏が『竹光』の鯉口を切った。イヴァンの『右義手の連射ブラスター』の表示はグリーンだ。
(ざっと三〇〇メーターか。とすると相手さんの有効射程は二〇〇か?)
筝の反応に、中尉が目算した。小隊の飛び道具が何であれ、その倍の距離で停止していたらしい。
(筝ちゃんの技量なら矢を落とすぐらい難なくするだろう。いや、その前に宇宙飛行士が薙ぎ払っているか……)
旗は二種類。
翼を大きく広げ、顔を右に向けたワイバーンらしき動物と薔薇のような植物が五組。それが左右に描かれていた。
もう一つは、馬車に掲げられており、同じ意匠だがワイバーンが左を向いており、片翼しかなかった。
(兵は正規軍で、馬車の主人はその傍系か? いやあるいは兵が自前で、馬車を傍系に借りた?)
どちらにせよ。交渉相手が二人以上いると考えたほうが妥当だった。
馬車の手前、二十メートルで騎士が馬の首を引いた。
「――!」
十二騎兵が一同を威圧した。カッツを乗せた馬が奥に運ばれていく。
中尉が会釈すると、使者役の騎士が伝令に一言伝えた。
馬車に伝言が伝わると、扉が開かれた。
「――!」
号令と共に、騎士が槍を掲げた。それでいて視線は中尉のほうに向けていた。
(よく練られた兵だ)
歩兵がフットマンがわりに階段用の台をすげた。
フリルのついたスカートの女官が優雅に降りたった。
慣れていないのか、つまずきそうになる。歩兵が手を差しのべるが、それを扇子で払いのけた。その反動で前に立つ。
羽毛が揺れるように扇子を広げ、前に差しだした。
中尉が軽く頭を下げた。一同が真似をするが、練習をしていないのでバラバラだった。
次に降りたのはメイド服の若い女性だった。切れ長の目が涼しい。
歩兵が律した。次の三人目が主人なのだろう。
(これはまた……)
愛らしい少女がそこに立っていた。中尉の胸ほどの背丈だから一五〇センチメートルもないだろう。しかし、それでいて眼光は強く、口元に笑みを浮かべる余裕さえあった。
(もう一人は?)
奥を見やると、白い物体が中尉の肩に跳びのった。
(何!)
白猫だった。紅と青のオッドアイで、ルビーとサファイアといった宝石を思わせた。
耳をなめられた中尉がのけぞるのを見て、幼い主人の緊張をほころばせた。
「――!」
次の瞬間、少女が叫んだ。言葉になっていない。
それでも兵から「ヤクト」や「バイ」という単語が聞きとれた。
中尉と少女が対峙するその地面から白い粉が吹きでてきた。
「ヤクトバイ!」
粉体から結晶体に形成され、白い柱になったと思うとカニもどきが辺りに散らばった。
「撃つな!」
中尉の制止に、スヴェトラーナがイヴァンの右手を掴んだ。
カニもどきが塩のような結晶から霧に消えたあとには、血に染まった片腕のアッシュが立っていた。
その顔を見た幼い主人が目を開いた。
少女が倒れる。アッシュも。
少女は女官が、アッシュは中尉が支えた。
「来るな!」
近づこうとするディアドラの腕を、声に従った筝が掴んだ。