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てンてー異世界です――コスプレキャラ能力全開  作者: 門松一里
第1章 てンてー異世界です
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24.調査(2)/ゴーレム

24.調査/ゴーレム


 上空の気球からイヴァンが観察したが、デカい双眼鏡の数値に異常はなかった。


「何だ? あれは?」


 肉眼で再度みたが、疑問に思うのも無理はない。コロニアル様式スタイルそのままの館が地面に埋まっていたのだから。


『ラッフルズだ』


 下の作戦本部に有線で送られた映像を見たスヴェトラーナの音声が気球に届いた。


「ラッフルズ? こんなイイところに泊まってたのか姉御?」


『役得だ。接待接待』


 スヴェトラーナの笑いには品がある。


 イヴァンの隣で、八戒が両手を動かしていた。眼下の土のゴーレムがそれに合わせて移動していた。


 カッツが夜中に泥をこねて創造したドローンだ。額の羊皮紙には例の文字が書かれている。背中に貼ってもそちらが顔になるらしく、欠点は解消されていない。


 もっとも有線光ファイバーで接続されているので、無線が途切れて土に戻ることはないし、紐でつながっているようなものだから引っぱって回収できる。


 近づくと、数日前の馬の骨がすでに風化していた。


 イヴァンが気球から伸びた二本の線を再度確かめた。ゴーレムの線とは別に、もう一本は真下に固定されている。


 気球の運転はかなり運任せというか天候任せなところがある。上空の空気はいくつかの層になっており、それぞれ気温や風向き、風速が異なる。それらを観測しながらバーナーを使って上下の垂直方向だけで、行きたい方角の風が吹くまで階層を移動する。目的の風に乗れば、優雅に飛ぶことができる。水流の中で流れを感じないように、気球が風に乗ると無風状態に感じる。


 ただ今回のように観察する時には地上から一定の高さに固定するしかない。そのため風が強く安定していない。


 気球の材料はバーナー以外、子爵令嬢の負担だった。中尉が推察するまでもなく、宇宙飛行士という設定の二人の荷物は他にも深夜バスに残っているらしい。


「……」


 イヴァンが八戒を見るが、いつものお調子はなく黙って操縦していた。悟空と同じく八戒も『空を飛べる』設定だが、飛んでいるあいだにゴーレムを操れないので気球を自作することになった。バルタザールの知人に佐賀県出身の熱気球好きがいるらしく、生地の助言をしていた。なお、バルタザールは留守番をしている。有り体に言えば人質だ。


 上空は当然のことながら空気が薄い。八戒が黙っているのも気分がすぐれないことによる。第一食べ物がない。水もない。巨乳の八戒はラクダのように脂肪を分解して水分を補給していた。


 馬の骨に近づくと、ゴーレムの歩む振動で崩れ落ちていく。馬具も砂のように消えていく。


「死の世界だな」


 スヴェトラーナが正確に表現した。


「あの遺跡に何がある? 一蓮托生だ。話せ」


 スヴェトラーナの強い言葉に、カサリアが重い口を開いた。


「……我が公国の秘宝だ」


「それで世界を征服するのか?」


「そうではない。争いのない世界を作るだけだ」


「それを征服という。物理的解決は、力による侵略と弾圧でしかない。――で、その秘宝はどんな働きがあるんだ?」


 スヴェトラーナの質問にカサリアが沈黙した。


「今さらだろうに。話せよ」


「知らない」


「はあ?」


「知らされていないんだ。我が公国にもこの王国にも。しかし、確かにあることは事実だ。現に今そこに我が公国の離宮が埋まっているのだから」


「……どんな物理現象だよ。――というか地震とか?」


『それをいうなら重力では?』


「それもあるか……」


 ミーシャの意見が腑に落ちる熊使い(テイム・ベアー)だった。


 素粒子の相互作用は四つあるが、重力相互作用だけが極端に値が小さい。相対的な強さを比較すると、重力相互作用を一とすると、強い相互作用は十の四十乗、電磁相互作用は十の三十八乗、弱い相互作用でも十の十五乗もある。


 他の力が強すぎて「古典物理学の世界では均衡しているように見えている」ため、その力を感じることは少ない。適切な例ではないが、新幹線で最高速度の時速三二〇キロメートルで移動していたとして、窓を見たり計測したりしないかぎり車内の人間はその速度を実感することはできない。いきなり停止すれば時速三二〇キロメートルでブッ飛んでいくが、それを体感できるのは事故が発生したときだけだろう。


「では、時間の感覚も重力に関与しているのでは?」


 ドローンが進むが、前回のような違和感はなかった。


(結界が機能していない?)


「きちんと口に出せ。協力しているのに隠匿するな。カザリー! 仲間だろう!」


 スヴェトラーナがカサリアの襟を掴んだ。ガダンもタミヨラも助けない。力を自ら示さねば主人足りえないと考えているからだ。


「カザリー」


 ライブカが昔からの友人を愛称で呼んだ。


「慣れていないのだ……すまない」


 科学者の叱咤と友人の声に貴族が襟を正し、謝罪した。


「で?」


「結界が機能していない」


「私たちだと反応しない?」


「いや、猫が反応していた。その可能性はない」


「前と何が違う? 人員は増えているから、相殺されたのか?」


「オッカムの剃刀かみそり


 私立探偵の助手である箏が助言した。


「『事象の説明に、必要以上に仮定すべきではない』――確かにそうだな」


「どういうことだ?」


「『仮定する条件は少ないほど、真実に近い。もっともその真実が事実だと限らないがね』」


 カサリアの求めに、筝が主人の口調で答えた。


「増加した何かによって相殺されたと考えるより、前回から減少したものが何かを調べろということだ。カザリー、前と違うのは何だ?」


「旗手のラクドン・パナイヤがいない……」


 ガダンがカサリアの悲しみを見て、ゆっくりまばたきした。


「! そうか! そういうことか! なんてバカなんだ私は!」


「カザリー?」


 スヴェトラーナが強い口調で新しい友人の名を言った。


「ああ、スヴェータ分かったわ!」


 歓喜のカサリアを見て、ライブカがタミヨラの肘をつつくと、あさっての方角を見ながら「はいはい」と答えた。



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