気持ちだけ
『気持ちだけ』
私は財閥の令嬢だ。17才の女子高生でもある。長女は結婚して後継ぎ問題は解消しているから、出来の悪い令嬢はただ、月に20万の仕送りを受けて、一人で適当に生きている。いつまでもこの生活でいたいけど、OLにもなれそうにない。やっぱパチプロになるかと思った。
土日はパチンコに入り浸る。だいぶコツを掴んだ気がする。出そうだなと思う所は確実に出せるようになり、どこにも無い時は違う店でパチンコをする。
屋上で煙草を吸っている。そこで、若い先生と一緒に煙草を吸う。私が心を許した唯一の人だ。秋になり寒くなってきた。
「先生ってさ。結婚しないの?」
「あんまりもてないんだよ」
「嘘つき」
私は彼女がいることぐらいは理解しているつもりだ。でも、こっちも彼氏がいるし、条件は一緒なのだけど。
「パチプロになろうと思ってさ」
「いいじゃん。君らしいよ。金が無くなったら?」
「身体で返そうと」
「そういう事は普通、仮にも教師に言うか?」
「私はただ家に帰る時がくれば、棺桶になってから行きますけどね」
「実家は嫌いなの?」
「多分」
そうして、煙草を吸っている。吸って吐いた煙が宙を舞う。綺麗で、とてもいい香りがする。煙草は、手放せないで、ずっと吸ってしまうだろう。特別格好つけている訳じゃない。ただ煙草の香りが好きなだけ。
彼氏とはただ部屋でやるだけ。それだけの関係だ。愛情があったのかどうかは忘れてしまった。でも、別れないというのは、きっと、女として魅力が多分にある事を自覚する。
「君って、進路決まっているの?」
「さあね」
「俺は大学進学をするつもりだよ」
「オメデタイね」
そう言いながら、煙草を吸う。灰皿には私の一部分が入っている気がする。私は決して、性格がいい女じゃない。だけど、身体が欲する。それだけで付き合いは続いている。多分卒業するまで付き合うだろう。
ナンパをされたら、ついていく。この彼氏との関係が終ればの話だ。
高校三年になった。冬に煙草を吸っている所に雨が降った。先生を誘いたくなった。雨に濡れながら、抱きしめ合いたかった。でも、理性が邪魔をする。
「私が同い年だったらね」
「うん?」
「何でもない。濡れるよ。先生」
そう言っていた事を思い出す。もう職業欄に高校生と書き込まなくても、「パチプロ」と書いてもいいぐらい自活できるようになった。暇も潰れるし、ある意味やっているよりも楽しいかもしれない。
女子高生らしからぬ一時かなと思った。でも、私服で行くから、年齢なんか分かるはずもない。
先生は来年になったら、学校を転勤する。場所を聞くまでもないと思った。どうせ彼女と結婚するつもりらしい。風の噂でそう聞いた。私は何も言えないまま、去ってしまうのを何故か素直に哀しむ事はできなかった。先生が選んだ道だ。だから、かもしれない。
きっと、いい父親になるだろう。それでいい。写真も一枚も撮らないようにした。まあ、男はすぐに出来るから。もう心を開く人はいない。構わない。そのうちどうでもよくなるから。
夏は過ぎ、また秋になった。去年もここで、先生と煙草を吸っていたのを、思い出す時が必ず来ると思う。だから、今は先生と二人で煙草を吸っていよう。
そして、別れの季節がやってきた。彼氏は遠い所へ行くようだ。まだ遊び足りないらしい。普通はそうかもねと思った。
高校卒業式。私は彼氏と別れの言葉を言って去って行った。そして、先生のもとに行った。唯一心開けた人に挨拶に行くためだ。心に口付けをするためだけに行こうと思った。もう二度と逢えないから。