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こいつはやばいぞ!

 目が覚めたら、いつもの私のお部屋でした、なんて都合の良い展開にはならず、普通に馴染みのない天井でした。


「現実か……」


 がくりと項垂れた私だったが、不意に鼻腔をくすぐる匂いに気づいて勢いよくベッドを飛び出した。

 この美味しそうな良い匂いは、まさか!

 どたどたと慌ただしく走ってキッチンへと飛び込むと、案の定おばあちゃんが朝ご飯を作っていた。


「おばあちゃんおはよう!」


「おはよう、千冬。元気なのはいいけど朝からドタバタ走らないの」


「ごめんなさい!」


 謝ってから手元を覗き込む。洋食の朝ごはんだ! 目玉焼きにトースト、ウインナー。そしてサラダ。あ、スープもある!

 つい昨日まで、真っ黒な目玉焼きやだいたい焦げた目玉焼きを見ていた私には、おばあちゃんの目玉焼きは高級ホテルの朝ごはんみたいだ。


「うわあ、美味しそ〜! こんなに綺麗な目玉焼き久々に見たよ〜」


 普通の人ならそんな大袈裟な、と思うかもしれないが、私にとってはまあ普通の日常だ。


「千冬にももっと料理教えるからね……。もう高校生だし……」


 ああ、そんな遠い顔をしないで……。

 昨日は、この国の料理をいただいた。まあ普通かな? おばあちゃんの手料理と比べてしまうと霞んでしまうけど、食べる分には不味いとかはなかった。まあお母さんお父さんの料理があれなのでね……。


「美味しい! めちゃ美味しい!」


「食材が似たようなものが多くて助かったわ。知らない材料は怖いから……」


「美味しいよ〜! 美味しい手料理を食べているよ〜!」


 有り難さを噛み締めながら朝ごはんを食べた。おばあちゃんはすごく申し訳なさそうな顔してた。そんな顔しないで……。私の心も痛くなる……。


「えっと、今日は私とおばあちゃんの能力を調べるんだっけ」


「そうね。この国で一番の実力の魔術師の方が来るって言ってたわ」


「ふうん。私達を喚びだした人達で偉そうな人いたけどあの人違うの?」


「偉いのは偉いわね。魔術師の最高責任者なんですって。今日来るのは、その最高責任者の肩書きを蹴って気ままに暮らしてる、魔術師の中でも随一の力を持つ人だって」


「すごー。おばあちゃんよく知ってんね」


「あなたも一緒に聞いた話なのだけどね」


 あれ、そうだっけ。

 まあいいや。


 美味しい朝ごはんを食べて、食休みと洒落込もうよと優雅に紅茶を飲む。

 おばあちゃんが淹れてくれた紅茶美味しい〜!

 そんな良い気分を中断させる様にちりんちりんと呼び鈴が鳴った。立とうとしたおばあちゃんを制止して私はすっと扉へと向かうと、少しだけ扉を開ける。隙間から緑色の髪の毛が覗いている。カメムシ……じゃなくて。


「かっ……えふん。トリス……さんですか」


「何言いかけたお前」


 一気に眉間に皺が寄る。


「イエ、ナンニモ。こんな朝からなんの御用で」


「レオルカ様がいらっしゃった。すぐに城へ」

 

「こんな朝から?」


「そうだ。もうお待ちになっている」


 昼過ぎにして欲しい私の気持ちを察してはくれない……。紅茶を飲み終わったらと思ったけれど既におばあちゃんが片付けていた。準備万端じゃないですか……。

 仕方ない。


「ほら、行くわよ千冬」


「はあい」


 いっその事さ、力なんてなければさ。役に立たないから帰れたり、しないのかね。

 そんなことを考えながら、私はトリスさん達の後に続いた。いやぁこんな仰々しい騎士さんに囲まれてると何かやらかした気分になるわ。


「……おい」


 レオルカ、様とかいう人がめちゃくちゃ強い魔術師なんだっけ。天才という奴だろうか。おじいさんかおばあさんかな? お年寄りが魔法使いとかでは最強なイメージがある、私は。


「おい」


 私、魔法使えるのかな。全然イメージ湧かない。あれ、魔術って言うんだっけ? 忘れた。


「おい! 聞いてんのか小娘!」


「ん?」


 大声を上げたトリスにちょっとびっくりして、視線を向けたらすっごい見てた。


「さっきから呼んでるだろ!」


「えっ私だったんですか?」


「はあ!?」


「いやだって、名前も呼ばないからわからんですよ。ここには色んな人がいるんだから」


 おい、で通じ合うには長年の付き合いと信頼がいるんじゃないかな。少なくとも私は初対面の印象悪いので無理ですね。

 トリスさんはぐぬぬという顔をして私が視線を逸らす。何だったんだ一体。


「あー……その、あれだ。チ……フ、ユ」


 私の名前覚えてたんだ。知らないかと思ってた。おばあちゃんがよく呼ぶからかな。


「なんすか」


「……か、お。顔は、大丈夫、か?」


「かお?」


 なんのこっちゃと首を傾げる。

 

「昨日! 殴った、だろう。大丈夫かと、聞いてる」


「えっそんなわけないじゃん……あんなに私の体吹っ飛んだし……口ん中切ったし……鼻血も出たし……めちゃ腫れたし……自分でわからんの……? と思ったけど、なんか、治ってるな。やっぱ大丈夫です」


 いや、本当に。くどくど言って申し訳ないんだけど、治ってたわ。そういや朝普通に食べたわ。あんな派手に吹っ飛んでたし、口も切ったし鼻血も出したんだけど、それを言いながら特に腫れてもないし痛くないのに気づきました。

 鈍くてごめん。


「何だそりゃ」


 いやもうごめんて。


「何か寝たら治った……」


 それしか言えない。いつ治ったんだろ。


「あ、それ多分私だわ」


 あまりにもさらりと言うもんだから聞き逃すところだった。おばあちゃんたら。

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