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「貴女がチフユ様ですね。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。カイサルと申します」


「はあ。チフユです」


 ややわざとらしさを感じるくらいに恭しく頭を下げた男。この人が、昨日レオルカさんが言っていた初日に会ったアルフィとかいう王子の兄。

 えっと、王子様には殿下って言うんだっけ? 難しい。

 私の返し、周りの人が少しざわついたけど、多分失礼な返しをしちゃったんだろうなぁ。そこまでは何とか察したけれども具体的にはわからない。

しかし、このカ、カイサル……? とか言う王子様はどこかアルフィ王子よりも感じる胡散臭さがある。よくわからないけれど。

そんな事を考えていたら、目を細めて私を見下ろす。観察するような視線に居心地の悪さを感じた。


「ふむ。地味ななりだが、魔力は高いようだ」


それは何だか、見定めたみたいな口調。ちょっと、礼儀作法崩すの早くない?

敬語は一瞬だけですか。そうですか。いいけどさ! 私も大概失礼だし敬語もあんまり使いこなせてないから。


「それにしたってちょい失礼だよね……。地味とか、私の事石ころと言ってんのと変わらんじゃんね」


隣にいたレオルカさんにこそりと耳打ちした。


「それは被害妄想が過ぎるのでは……。てかチフユもトリスに大分失礼だったろ? カメムシとか言ったらしいじゃん」


「だってその時はおばあちゃん侮辱しているし私なんて顔面ぶん殴られて吹っ飛んでますよ」


こしょこしょと内緒話をしてる私達を咎めるようにカイサル殿下が咳払いをする。何だろう、俺を無視してんじゃねーぞ的な感じなのだろうか。


「弟から聞いている。何でも、アイツの捕縛術を力づくで破ったとか。レオルカ殿も認めている逸材、だとか」


「いやぁ、本当にチフユの素質には目を見張るものがありますよ〜。スタミナだったらオレより上かもしれませんねぇ。ははは」


「いやぁ、そんなぁ。褒められて悪い気はしませんけどぉ。なはは」


 レオルカさんと一緒に笑ってたら、またカイサル王子の目がすぅっと細められる。その視線の冷たさに、ぞくりと悪寒が走った。


「レオルカ殿がそこまで仰るのなら相当な物なのでしょう。楽しみにしておりますよ」


「え、あ。はい」


 あまり期待されてもな……と思いつつ、下手な事を言って不敬やらなんだと言われても面倒なので返事を返す。カイサル王子は軽く会釈をすると、何やら話があるのか、そこそこの年齢の騎士の人の元へと歩いて行った。


「やば〜。期待してると言われても困りますけど……」


「大丈夫大丈夫。何とかなるって。チトセさん出来たんでしょ? チフユも出来るさ!」


「きっ気楽〜!」


「気負いすぎたって良い事ないよ。自信持って、チフユ」


 う、うおお。大人な感じする。そういえばこの人大人だった。やはり場数が違うのかな。


「……まぁ、魔物とかはおれ達がやる。お前は歪みを正す事だけ考えりゃ良い。よくわかんねぇけど凄く疲れるんだろ」


「あ、うん。らしい、んだよね」


「殿下はあぁ言ってたけど、レオルカ様の言う通りそんな気負うなよ。初めてなんだ、出来なくても仕方ねぇ」


「え、あ、おう?」


 な、なんだよ、そんな気遣いの言葉とか、気持ち悪いな。そう思ったらフレドがフッと笑った。


「お前が出来なくてもお前のばあさんが出来る事はわかってるしな!」


 は。はぁ!?

 フレドの言葉に私は顎が外れるくらいに口を開けた。ちょっと待てよ、という事はよ。

 私が出来ない分はおばあちゃんが負担するって事!? 昨日の疲れた顔のおばあちゃんが頭を過った。いやいやいや。


「何言ってんの? ぜってーやるし。なんならおばあちゃんがやらなくても良いくらいやるし。私スタミナ無尽蔵だってレオルカさん言ってたもんね。やったるわい」


「(無尽蔵とまでは言ってないけどやる気出たみたいで何より。フレド、チフユの扱いわかってきたじゃん)」


「(思ってた三倍ちょろかったっす)」


 そうだよ。あんなに疲れてたし、おばあちゃんにはさせたくない。私がやるのが一番じゃないか!


「取り敢えずおばあちゃんをばあさん呼ばわりしたフレドは後で処します」


「はいはい」


 いよいよフレドに適当に流され始めた。絶対だから。ほんと。


 


 

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