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祖母と一緒に異世界へ

「よく聞いてくださいよ。おばあちゃんになんかしたら、そのお綺麗な顔をぶん殴りますから」


「こっ、こいつ……! 王子に向かってなんて無礼な」


「だって私この国……いやそれどころか世界の住民じゃないですし……」


 顔を真っ赤にして怒ってる騎士様はもう血管が切れそうだ。隣にいるおばあちゃんが溜息をついたのがわかった。


「千冬……」


 少し諦めたような声だった。女の子らしからぬこと言っちゃったからなぁ。でも緊急事態だから、仕方ない。ごめん、おばあちゃん。

 何でこんなことになったんだろうか。別段変わった日でも、なかったのに。




***




「ごめんね、あなた、千冬。焦がしちゃった。こんなの、食べれないわよね」


「そんなことないよ小春。君が作ったものなら何でも美味いよ。千冬、それはお父さんが食べるからこっちに。千冬の分は俺が作ってくるから」


「……お、おう」


 朝っぱらからこれですよ。いつもの事ながら本当勘弁してほしい。

 真っ黒な物体が乗った皿を父の方へと寄せる。父はそれを見てから席を立ち、冷蔵庫から卵を取り出していた。恐らく目玉焼きかなんかを作るんだろう。

 私は取り敢えず文明の利器、炊飯器で炊けた白ごはんを一口食べた。美味しい。


「あぁっ、はりついた! あ、まだ黄身が……あ、もう炒り卵に……あっ」


 父の焦る声が聞こえる。こりゃ多分駄目だな。私は戸棚をがさごそと漁って、お茶漬けの素を引っ張り出す。


「ごめんな千冬。俺も焦がした」


「うん。知ってた」


 さらさらさら、とお茶漬けの素をご飯にかけながら答える。お湯を注いで、私はお茶漬けをかき込み始めた。


「じゃあお父さんの作ったのは私が食べるわね。ごめんね千冬。料理も出来ない駄目なお母さんで」


「俺からも千冬に謝るよ。ごめんな。俺が出来ればまだ良かったんだが。でも、お母さんを責めないでやってくれ。俺にとっては最高の奥さんだからな」


 別に責めてません。てか最後の惚気はいらん。


「な、夏緒君っ」


 母がうるりと涙を溜めた。そしてひっしと父にしがみつく。


「小春!」


 いやもう……本当に勘弁してほしい。



***



 私の名前は九条千冬。高校一年生になったばかりの女子高生だ。目の前で抱き合っているのが、未だラブラブの両親である。わかるだろうか。年頃の娘など気にせずいちゃつく両親への私の思いを。決して嫌いではないのだけれど、いかんせんこの調子なので割と鬱陶しさを感じている。いや、好きよ。ただ目のやり場に困るのよ。焦げ臭い食卓で、私は黙々とお茶漬けを平らげた。


「じゃあ私学校行ってくるね。お父さんも仕事遅れないように」


「わかってるよ。いってらっしゃい、千冬」

「いってらっしゃい」


 鞄を引っ掴み、私は家を出た。

 いやもう、朝から虚無だわ。なんとなく両親のああいうのは見たくない。母も父も昔からあんな感じで、加えて2人とも料理が出来ない夫婦だった。

 母はよく炭を製造していたし、幼少期にはお弁当の日はよく男子に「お前の母ちゃん炭製造者〜!」とからかわれた。腹が立ったので、その男子のおかずと私のおかずを取り替えて食べてやった。その男子には泣かれたし先生には怒られた。あの頃は私も尖っていたので致し方ない。

 そんな幼少を思い出していたら、ぽんと肩を叩かれる。


「よ、千冬」


「おはよう……」


 振り向くとそこには同級生であり腐れ縁でもある男、長峯がいた。幼少期におかずを奪い泣かしてしまった男子でもある。小学校中学校を共にし、まさかの高校まで一緒。気づけばずっと一緒にいる。不思議なご縁ですなぁ。あの時すんごい泣かしたのに。


「今日もテンション低いなー。何、今日も料理失敗したん?」


「成功した日なんかほぼないわ。そして何故その後にいちゃつけるのか不明……娘がお茶漬け食べてる横で……」


「まあまあ、今更だろ。一緒に購買買おうぜ」


「うぅ……」


 がくりと項垂れた私をばしばしと長峯が叩いた。痛いぞやめろ。


「ちょ、やめて。痛い」


「励ましてんのに」


 長峯の手を払い除けた時、ふと携帯が鳴った。マナーモードにしとらんかった、とマナーモードにしてから確認すると、メールが来ている。差出人は、大好きな母方の祖母、おばあちゃんからだった。


「あ、おばあちゃんからだ。ちょい待ち」


 立ち止まってメールを開く。そこには、今日こちらにやってくる旨が書かれていた。迎えに来るから一緒に帰ろうとも。


「やったぁ、おばあちゃん今日来るんだって! 放課後迎えに来てくれる!」


「おお。良かったじゃん」


 隣町で一人暮らしをしている祖母はたまにこちらに遊びに来ては美味しいご飯を作ってくれる。母の料理については毎回ちゃんと教えておけばと後悔していて、遊びに来た日は何日か分の作り置きを作ってくれるし、料理を教えてくれるのだ。

 私としてはおばあちゃんと一緒に暮らしたいのだけれど、亡くなったおじいちゃんとの思い出の詰まった家から出たくないのだって。


「放課後の楽しみできた! よし長峯、先に学校着いた方がお昼奢り!」


「は!? ちょっずりいぞ!」


 男女だからフライングくらいのハンデはもらうぜ! 私は後ろで文句を言う長峯に笑いながら走った。

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