第六話 春の秘密
「てか、教えてくれ。組織についてよく知らないんだ。お前は何者なんだ?」
「……」
春は少し考えた後、「それは本当に言わなきゃならないのですか」そう、静かに告げた。
「私は……過去を話すのが怖いんです。過去の記憶を掘り返したくないですし……」
過去の記憶を掘り返したくない……よほどつらい目にでもあったのか。
確かに拘束されていることだし、過去には相当な壮絶なことがあったと考えるのは自然だ。
「だから今私幸せなのですよね。お姉ちゃんと、大輝君がいてくれて」
「そうか……」
そういって春の頭をなでる。
奈々がお姉ちゃんで、俺がただの大輝という部分は若干もやもやするが。
「まあ、とりあえず。そこはいいとして組織の概要を知りたい。何が目的なのかとかな」
「えーと」
春は考え込む。記憶をたどっているのか、それとも言いたくない情報を避けようとしているのだろうか。
そして、春は息を吐く。
「目的は……よくは知らないのですけど、確か戦争を起こすと言ってました」
「戦争……」
「はい。説宇藤にとってはアメリカが主権を握っているこの世界は気に入らないらしく、日本が主権を握ろうとしたいと言っているのです。それだけだったら、まだいいのです。……ただ、そのあとの未来図は最悪です。滅ぼした国の人たちの人権を凍結するつもりらしいです。つまり奴隷です」
「世界を日本人の手にというわけか」
「白人至上主義の世界を終わらせ、日本人だけの国を作る」
「それが奴らの目的というわけか」
簡単に言えば世界征服というわけか。
もし今言ったことが本当だとしたら、大量の血が流れる。
そもそも今の世界に奴隷制度を復活させる事自体、無理がある話だ。
「反発が出るだろ」
「それは覚悟しているらしいです、ただ、その場合は力で押し潰すらしいです。
「とんだ、独裁政治だな」
民主主義のかけらもねえ。
「つーか、世共党と、全然政策が違うじゃねえか」
世共党は、世界の人たちと繋がる政治。
難民を受け入れて、世界との距離を縮める政策のはず。
そして最終的には国籍の壁をぶち破ると言っていた。
ただ、この組織の目的から言うと、仲良くなるというよりも物として扱うみたいな物だし。
真逆だ。
「で、お前はどういう役割なんだ?」
「私はそのために必要な物なのです」
「それはどういう……」
「………………それは私にもわかりません。ただ、必要としか知らないのです」
流石にそこまでは本人にも伝えられていないのか。
いや、この貯めの長さ的に言いたくないのかもしれない。
まあ、それならそれでいいか。
結局わからないことばっかりだ。おそらくこの謎は詳しく調べなきゃならないな。
「そう言えばさっきの投稿は?」
「たぶん消されてますね」
「あ、本当だ」
本当にそこには何もなかった。
「まあ別のやつを見るか。これなんてどうだ、漫画があるぞ」
「漫画?」
「ああ、SNSに投稿されている漫画だ。面白いぞ」
「そうですか?」
「ああ、たぶんな。少なくとも俺がフォローしてる奴は面白いと思う」
「なるほど」
そして俺は春に漫画を読ませる。春がいいよと言ったらページをめくるといった感じで。
そうすると時間がたつのは早く、すぐに奈々の料理は完成した。
「さあ召し上がれ」
奈々が作ってくれたのは、タコライスだった。
「大輝さん。お姉ちゃんの膝に座らせてください」
「なんでだ?」
「大輝さんの膝飽きました」
「なら仕方ないか。ほら菜々」
「うん!」
「しかしこうしてみると二人夫婦みたいですね」
やめろ。気にしていることを言いやがって。
「やめてよもー」
あれ、満更でも無いのか?
「それより食べなよ。あーん」
菜々が春に食べさせる。
「美味しいです。大輝さんの作ったご飯よりも」
「最後の余計だろ」
SIDE春
今日も楽しかったな。今日もお姉ちゃん優しかったし、お兄ちゃんも不器用なりに頑張ってた。
でも、嘘をついちゃった。
私のウソがばれたくなかったから。
何もかも嘘。
私は知ってるんだ。私の正体を。私の役割を。
だからこそ、お母さんが逃がしてくれたのだ。
本当の目的は、そんなたいそうな物じゃなく、お父さんの個人的な事。
でも、それを言ったら、私は……。
それはおいとこう。ばれたらばれたでその時だ。
それよりも、夫婦みたいって言ったらお姉ちゃん満更でもなかったな……。
どうしよう。付き合ってたら。
ううん、私の立場的に、お姉ちゃんに譲るのが一番いい形であることは知ってるのだけど……。
でも、私は諦めたくない。もっとアピールしなきゃ!