突然の来客
秋の終わりのような寒さの中、新国家樹立を発表したカミヤ国では入国の手続きに追われていた。スグルとその部下たち通称スグル組は主に国へ訪れた人たちの審査とその先で行われる入国手続きの案内を担った。冒険者や商人、または町や村を離れ移住する人たちで長い列をなした。
「寒くなってきましたね、スグルさんこれいつまで続くんですか」
「ジル、今日は寝れないんじゃないか」
「そんなぁ、、、」
スグルとジルたちは頭を抱えた。しかし、入国手続きのほうはマリとレナが主な責任者である。また、マリが経営するニーホンの職員たちも総出で書類を作成しまとめている。ライン王国が魔王カザリスに勝利したことでライン王国はキラウス国の領土を獲得し支配を広げた。そのためでライン王国は一部の無法地帯を制圧し、道を整備した。元キラウス領に流れ込んだ人々は続いて新国家のカミヤ国へと足を運んだのだ。
「でも戦争を回避できたのはよかったすね、俺ひやひやしましたよ。」
ジルはライン王国とカミヤ国が戦争を始めるのではないかと危機感を持っていた。それもそのはずほんの数週間前、まだ受け入れ態勢を整えていない時期に剣聖アリウス・クラリスがカミヤ国を訪れたのだ。そして、真っ先に対応したのはアリスだった。
「お久しぶりです。剣聖さん。王国の図書館ぶりだったかな」
アリスはにこっと笑いアリウスに挨拶する。
「あの時のお嬢さんですよね。改めて初めまして私はライン王国の剣聖アリウス・クラリスです。」
アリスと同様に剣聖もそれ相応の挨拶を行う
「あの、、、さっきから後ろの方で殺気が、、、」
アリスを除いた他のみんなは急の来客、それも剣聖の訪問に驚き、そして殺気立っている。マリとレナはともに小銃を構えスグルは腰に掛けた剣のさやに触れている。ジルたちスグル組も負けじと睨んでいるが、剣聖を前に足が震えていた。ルミナは剣聖を知らないのか少し離れたところから物珍しそうに見守っていた。
「当たり前だろ、なんの脈絡もなく押し掛けてくるとは常識知らずめ」
短い沈黙を破るようにスグルが言い出すと同時にそうだそうだとスグル組のメンバーが小声で応戦する。
「あの、、、」
剣聖は何やら胸ポケットから書状のようなものを取り出す。どうやらカミヤ国の押印と招待の文面を提示してきた。
「え、、、」
アリス以外の全員が思考停止し沈黙する。
「実はね、アリスが呼び出したの。」
「「「「「「なああああああ!」」」」」」
「今日は国としてではなく個人としてカミヤ国に参上しました。そのため変な気遣いは無用です」
アリスに続いて剣聖は言葉を発した。自身が戦争を回避したいこと、一日も早くライン王国とカミヤ国の間に王国との間に国交を成立させたい事が目的だった。ライン王国は領土を広げたものの魔族領土に踏み入ることになり、またカミヤ国、そしてエルフの国、環濠都市ベクトリアとも隣接することになった。カザリスとの戦争に勝ち領土を広げたものの、国は疲弊しており続けて戦争を行うことは難しかった。そんな中、隣国に中立を保つ国が現れたことで剣聖はアリスの誘いに乗ることにしたようだ。
マリは国交のためにと作った新しい会議室へ剣聖を案内する。外部に漏れないようアリスと一対一で話し合いが行われた。スグルは密室に剣聖とかいうよく分からないやつを一緒にいさせるのは危険だと言ったがアリスはその意見を押し切り一時間ほどで会議を済ませた。
「まあ、あの時はみんなで驚いたよな」
スグルはあの時のことを思い出す。政治やお金、建国やら自分の処理が追いつかないほど強大なことをやってのけるアリスに驚きつつ、呆れてもいた。自分が口を出すと上手くいかないのではないかと感じ、アリスがどうしてもいう時は見逃してきたが、あの剣聖というやつは何か気に食わなかった。
「この世界に来てからもう一年くらいたつのかな、、、」
陽が徐々に沈み始め寒さがいっそう強くなった。ボソッと呟いたが周りには聞こえず白い息だけが宙に浮かんだ。
陽が完全に沈んだ後、アリスが発明した魔道具のランプがいたるところでカミヤ国を照らし始めた。この世界には電気がない。そのため魔力を込めた魔道具で元の世界にあった家電から精密機械まで発明してしまったのだ。しかもこの技術を外部に漏洩することなくニーホンで道具の一部を売って金儲けをしているらしい。
「やっと終わりましたね。スグルさんお疲れ様です」
「ジルもみんなもお疲れ様。みんなで出来立ての温泉でも行くか」
スグルの温泉へ行こうという提案とともに一同ガッツポーズを決め、作業の片づけを始める。温泉以外にもサウナや岩盤浴などもうやりたい放題だ。こうして着々と入国手続きは終わり国家としての機能が備わってきた。そして、アリスは次のフェーズへの準備を整え始めた。




