ヒロイン登場っ!!!
目の前にいる可憐な少女が興味津々にこちらを見ている。
肩にかかるぐらいの紅葉色の髪に茜色のパッチリとした目。
髪色と同じベレー帽を浅く被りおとぎ話のお姫様が来てそうな可愛らしい衣装を身につけている少女が赤子を見つめる様な優しい表情をしながらこちらに寄ってきた。
「…おはようごさいます…?…っえ!?ちょ、ちょっと何を!?」
ここがどこで、今がいつなのか、あなたは誰なのか、俺は何をしていたのか、どうしてここにいるのか、何一つ理解出来ていなかった。
「…し、仕事ですのでっ!」
緊張しているのか顔を赤らめながら耳に響く高い声で言った。
「いやいや…だからって…」
少女はベットの上で横になっている俺の身体に四つん這いになってゆっくり近づいてきている。
ハルキもまた緊張かはたまた変な期待を抱いているのか特に抵抗する様子はない。
少女の方に目を向けると少しサイズの大きな服のせいか、胸元部分が見えそうになり反射的に目を背けた。
「あの…?どうかしましたか?」
「いえ!!ナンデモナイデス…」
…やばいやばい。危うく俺は犯罪者になってしまう所だった。
こんな俺より幾つも年が若いであろう少女の胸を見たなんてバレたらそれこそゲームオーバーだ……と言うか今の状況自体、第三者に見られでもすれば……
それとも…アニメや漫画でよくある朝起きたら目の前には美少女が主人公を襲いにかかるアレか!まぁ鉄板ネタではあるけれど?創造主様は俺のモチベを上げるコツが分かっている様だな。
けどなぁ…名前も顔も知らない少女に襲われる義理は無いんだよなぁ。
あんな誰もが羨ましがる女の子に襲われる?複数の女の子に好意を持たれる?そんな話は所詮夢物語にしか過ぎないんだよっ!!
頭の中で低レベルな葛藤を繰り広げていると少女は躊躇いもなくぷっくりと膨らんだ桃色の唇を近づけてきた。
ハルキは諦めたのか、やけくそになったのか分からないがそっと目を瞑った。
俺には全て分かってしまう。
少女が俺にキスをしたその瞬間に第三者が写真を撮る。それを材料に俺を脅し俺は少女達の言われるがままの操り人形に徹しこの地で生涯を終える…少女とのキスの代償がこれか…まぁ悪くはない。
「…ってあれ?」
「はぁ〜。元気そうで良かったですっ!!」
目の前の少女はハルキの胸辺りに引っ付くと安堵した表情を浮かべた。
下劣な妄想をしていたハルキにとっては直視出来ない眩しいものだった。
「っあ!ごめんなさい…私とした事が!!まだ万全の状態でないにも関わらず」
責任感が強い子なのか何度も申し訳なさそうに頭を下げている。
「いやいや別に俺は元気だから気にしないで!…それより、ここがどこなのか教えてほしいですけど」
「そうですよね!その前に昨日は助けていただきありがとうございました!あなた様は私の命の恩人です!!何か私にして欲しい事がありましたら何でもしますので!!」
「な、何でも!?いやいや…別にそんな大層なもんじゃ……」
後半の破壊力の高い発言に気を取られていたが、俺が昨日この子を助けたって今言わなかったか??
そんなありもしない事を言われ謎の優越感に浸っていたのも束の間、ジェットコースターが急降下する勢いで背筋が寒くなる。
俺がこんな可愛い子を助けた?そんな主人公っぽい事なんて出来るわけないだろう。
と、直接言いたい気持ちをグッと堪える事にする。
だって仮に俺がこの子を助けたという事になればこれから安泰な生活を送る事が出来るんだ。しかも、何でも言う事を聞いてくれる女の子もいる!
楽しい〜!!俺ってやっぱり世界一の幸せ者じゃん!!いやぁ〜ざまぁねぇな〜。他の誰かがこの子を救ったと言うのにその恩恵を無関係な俺が貰う事になるんだからなぁ〜!!
やっぱり……って、まるで以前もそうだったみたいな言い方して…。
「大丈夫です…か??」
シュンとしたか細い声で心配してくれている少女はハルキの黒く染まった道徳心を傷つけた。
「あ、うん、大丈夫」
こんな俺の為に気遣ってくれるのは君を助けた命の恩人だから…でも、違う。俺は君を助けたりなんかしていない。
「昨日助けたって、俺が君を助けたって事?」
「はい……もしかして…覚えてませんか?」
「覚えてないって言うか…いや、うん。実のところ昨日の記憶がすっぽり抜けているみたいで」
驚く様子を見せず少女はベレー帽を脱いだ。
少女は目を瞑りハルキの額に手を向けるとブツブツと小声で唱えながら目を開いた。
青く染まった瞳の少女と目が合う。その瞳に飲み込まれる感覚に陥った途端に意識が薄くなりそのまま真っ暗闇に吸い込まれた。
「…っは!!ここは!?」
「もう…寝すぎですよ。おはようございます…ハルキ君」
「君は…昨日の…!!そうだ!昨日のあのデカいモンスターはどうなったんだっ!ちゃんと倒しきれたのかっ!」
起きるや否や声を荒げ冷や汗をかきながら幼い少女に向かって言う。
「はい…ハルキ君が全て倒してくれましたよ」
未完成だったパズル……あと1ピース埋まらないもどかしさを感じていたこの気持ちが綺麗さっぱりに消え失せたのだった。
「良かった……それにしても君は何者なんだ?」
「忘れていた…いや意図的に隠されていた様なこの記憶をどうやって」
頭を掻きながら疑いの瞳を少女に向けてハルキが聞く。
「私の名前はモミジって言います。ただの精霊使いです」
「精霊使いって…よくアニメや漫画で出てくる異世界ファンタジーに一人はいるあの精霊使い?」
「ごめんなさい…ハルキ君が何を仰りたいのか分かりませんが、先程使ったものも精霊術の一つなんです」
淡々とした口調で説明をしているモミジに全く現実味の無い単語ばかりで頭が混乱していた。
「昨日ハルキ君が倒してくれたモンスターはブラック・ドッグと言い私たちに害を与える悪い妖精の一種なんです。ハルキ君がブラック・ドッグと戦った記憶が無くなっていたのもそいつから湧き出る呼気を吸ってしまったのが原因だと思います」
「あんなデカいモンスターが妖精なのか?信じられねぇ…」
「勿論妖精にも無害な妖精もいればその逆も存在します。『目には目を歯には歯を』という言い伝えがあるのですが私達精霊使いも悪い妖精には妖精術をと言う言葉がありますので」
何とも語呂の悪い言葉だろうか。けれど、目には目を歯には歯をという言葉はここ異世界の地にも存在しているのだな。
「モミジが俺の記憶を回復してくれたのも相手が妖精だったから可能だったって事なのか?」
視線を落とし自信なさげな声で答える。
「…はい。けれど全てのモンスターが記憶忘却波を出す訳ではないので…」
「…ありがとう」
「え?」
キョトンとした目つきでこちらを見つめている姿は餌を欲しがる子犬の様だった。
「あ、いやー。モミジがいなければ俺はこのまま記憶を取り戻せなかったからありがとう」
「そんな、感謝するのは私の方です!!ハルキ君があの場にいなければ私の命はもう…」
「あ、そう言えばどうして俺の名前知ってるの?」
「エ?」
続く。
キャラクター紹介②
創造主様・別名ソフィア…異世界を創り出した創造主。しかし、異世界に送るものに対して必ず『彼女の願いを叶える』契約を結ばなければならない。その願いの本当の意味とは一体何なのか。ソフィアとは一体何者なのか。まだまだ謎深い人物である。