武器なし 防具なし 経験値ゼロの新米勇者です
次回は1月7日更新です!
トントン…トントン……トントントン!
…なんだ?誰かに叩かれている?
ああ…もうやめてくれ…!
俺はようやく眠りにつけようとしているんだ!!
この至福の時間を妨害しないでくれっ!
ハルキは誰からも邪魔されない自分だけの空間が欲しいと切実に思ってしまうほど彼の精神はボロボロに削られていたのだ。
−ん?
叩かれているって……ダレニ?
この場にハルキと同じニンゲンがいるはず無い事に気が付き、さっと血の気がひく。
「ガォォォォオオ……」
……。
…。
ガオォ?
え、今ガオォって…。
身体全体に寒気がする。
モンスター!?
お、俺の目の前に…モン…モンスターがいるのか!?
ど、ど、どうする!?……このまま寝たふりをしていた方がいいのか?いや、隙を探して…その時に逃げるか?
た、たしか!熊と鉢合わせした時は死んだフリをしておけば難を逃れられるって良く聞くじゃないか…!そうか…死んだフリだ!死んだフリをしていればこのモンスターも
「はぁ、なんだコイツ生きていないのか。俺は新鮮な肉にしか興味ない身でな。コイツはほっとくか」
って言う展開になってくれるんじゃ!?
いやいや…そんな都合のいい様に進む訳がないだろう?そうさきっと…
「はぁ、なんだコイツ生きていないのか………だったら遠慮なくいっただっきまぁーーす!!ガブリ」
いやだぁぁあー!!
「はぁ…はぁ…」
危ない危ない…まずは冷静になるんだ俺。
何か違う選択肢が…この窮地を突破する何かがあるはずなんだ。
ハルキは今、苦境に立たされていた。
突然自分の命がこの後の行動次第で無くなってしまうかもしれないと言う場面に遭遇し全身が震えおののいている。
ハルキは今も昔も変わらず怯懦な性格の持ち主だった。
自分が初めてみる光景、初めて触る物体、初めて話す人に対してびくびくしてしまう臆病者であった。
誰しもが通ってきた初めての経験にひどく恐怖してしまう。
ただ…そんな厚い殻の中に閉じこもっているハルキを変えたのが「恋心」だった。
ハルキは人を愛する気持ちは人一倍強く、向けられた相手をも魅了するものだった。
そうやって彼の成長の側にはいつだってその恋心があった。この地へ来る前までは。
彼女に振られた今、ハルキの恋心は歪んでしまっていた。俺は本当に彼女を愛していたのか…好きと言うのを口実に本当は彼女を自分のモノにしておきたかっただけなのではないか…と。
しかし、人が成長すると言うのは事前に告知される物でもなければ、段々と芽が出ていつしか大きな木に成長するものでもない。
そう−いつだって、突然に人はパッと開花する。
これから起こるハルキの様に。
「ガルルルゥゥ……」
…!?
もう…嫌だぁ…もう…もう!家に帰りたいっ!!
でもいい……もうっ!どうでもいいんだっ!
ここで俺がゲームオーバーになったとしても創造主様が痛い思いをするとは限らない。俺がダメなら他の人を使えばいいだけ。代わりはいる…俺も数ある残機の一つにしか過ぎない。
どうして…こうなっちゃったんだろうな…。
すみれちゃんとこれからも一緒にいたいと願ったから?
だから俺は命を賭けてまでここに来たって言うのに…何だよ!!こんなルーキー殺しの場所に転送しやがって!
最初から詰んでるじゃないか!創造主様もそれを分かった上で俺をっ…。
それに…そもそも…すみれちゃんが勝手に振ってきたって言うのにどうして俺は!ここまで執着してるんだよ!
俺は何も悪くない…そうだよ。俺が何悪い事したって言うんだよ!
だって何もすみれちゃんは言わなかったじゃないか……。ここが嫌いだとか直してほしいだとか…なにも…何もっ!!
俺は君の為に全てを捧げていたと言うのに、あなたの事が好きか分からなくなった?だと?何回あの文面を読み返した事か。
そんな曖昧な理由で俺を振って…本気の俺に対して失礼だと思わないのかっ!!
『私も春樹君の彼女で嬉しいよ』
ふと、ハルキの脳裏に蘇る一つの会話。
そう…死んだっていいと思えるくらい嬉しかったんだ…こんな状況でさえその気持ちは変わらないなんて馬鹿だな俺は。
もう自分でも分からない……この気持ちを純粋な恋心と一言で表すには何か違う…。それ以上か以下かも分からないけれど特別な意味を持っている様に思える。
「…はぁ……はぁ…」
「…はぁ…はぁ…誰かっ!!助けてっっ!!!」
人の声!?
遠くからこちらに向かって助けを求める声が聞こえた。
俺以外にもこんな奥地の場所に誰かいるというのか?それとも…幻聴?
どっちにしてもどこにいるのか確認したい…したいけれど、今ここで目を開ければ…目の前のモンスターに襲われてしまうかもしれない。
『春樹君って優しいね』
『俺が…?』
『そうだよ。大抵の人は皆見て見ぬフリして、私は関係ないって無意識に線を引いちゃうの。それは…私も同じで……でも春樹君は違うんだね。困っている人、助けを求めている人がいれば躊躇いもなく向かう事のできる…』
『英雄みたいだね!』
『俺が…英雄?すみれちゃんは冗談が上手だね〜』
すみれちゃんの友達がいじめに遭っていると相談を受けた俺は、すぐにいじめている奴らを特定した。その後はいじめている現場を盗撮し、教師達に見せると脅した結果そいつらのいじめは無くなった。
他人がこんな話を聞けば俺はいじめられっ子を救った英雄と称賛されるかもしれない。
けれどその実態は褒め称えられるものではなく、私利私欲に溢れた貪欲なものである。
そんな事を馬鹿正直に伝えても俺を英雄だとすみれちゃんは言ってくれるのだろうか…。
俺だってすみれちゃんの友達じゃなければ見て見ぬフリしていたに違いない。今こうして証明している。
俺には無関係な人間。命懸けで手を差し伸べたところでそれ相応のリターンがあるかも分からない。そんな配当の分からない賭けに俺は−。
『私も春樹君の隣に堂々と立てる人助けの出来る彼女になるね!』
そうだ…俺は約束したじゃないか。
『だったら俺も負けられないね』
あの時外は雪が降っていただろうか。けれど、不思議と寒さを感じなかった。身を揺らし湧き出る気持ちの高ぶりに麻痺していたんだと思う。
…ダメだな。
こんな所で怖気付いてるなんて格好悪いな。
創造主様の約束を果たし彼女に会おうとしてもこれじゃあ顔向け出来ないじゃないか。
人助けなんて結局は自分の為にしてる行為に過ぎない。相手から褒められる為?自分は人助けをして偉いと自己欲求を満たす為?
貪欲な人間は両方を得る為に人助けをする。
けれど…俺は違う。これは私利私欲にまみれた人助けなんかじゃない。助けを求める声が聞こえた…だからその叫びに応えるだけ。
武器なし、防具なし…経験値ゼロの新米勇者だからって舐めるなよ−
続く
最後まで読んでいただきありがとうございました!
キャラクターが増えてきたので次回以降からキャラクター紹介を軽くこの後書きで描こうと思います!!