生死の天秤
今日から年3回行われる勇者査定期間に入る。
突然何を言い出したんだと怒りを露わにする読者もいるだろう。
しかし、ここは取り敢えず査定期間について話させていただく。
今いる異世界=タルトレット王国にはハルキ同様に現実世界から転送された勇者達が多数いる。
その勇者達はとある契約を結んで異世界に居続けていることを忘れてはならない。
例えばハルキの場合、創造主様と転送前に『互いの理想を叶える事』を条件とし契約が成立している。
つまり、ハルキが異世界の地で見事タルトレット王国の危機を防ぎ、英雄となった暁には見事ハルキはすみれちゃんと永久に幸せな関係を築き続ける事が出来るのだ!
しかし裏返しにして考えると契約を守れない場合には当然、順風満帆な未来など無くさらには契約違反として罰が与えられる。
契約を守れない場合って?何なの?と思った方が少なからずいるだろう。
その疑問は…この勇者査定期間が解決してくれる。
査定期間中、勇者一人一人のステータスを確認しこれまでの貢献度であったり成長率、意欲度などタルトレット王国にとって有益な存在であるか否か吟味する。
見事査定をクリアした勇者は次に来たる査定期間まで寿命が伸びる訳だ。
残酷な風に聞こえるかもしれないが、勇者達はのうのうと生活を送っている訳ではない。いくつでも残機がある様なイージーモードではないのだ。
残念だが…査定をクリア出来なかった者は…まぁ神のみぞ知る結末が待っているんだろう…。可哀想に…。
という訳で今から大事な勇者の運命を決める査定会議が始まろうとしていた。
暗闇の中、一本の蝋燭がほのかに室内を照らしている。
細長い木製の机を挟み合う様に6人が座っている。
決して宴会や祝いの宴の様な悦ばしいものでは無くお互い瞋恚の目で見つめ合っている。
その内の1人がゆっくりと立ち上がり周りを見渡す。
「皆さんお集まりいただきありがとうございます。さて、本日より勇者査定が始まります。私を含め皆さん自らが推薦し、異世界へ転送を行った勇者達が果たして有益な存在であるか否か…この期間を通して判断していただきたいと思います」
「無論承知している」
「私、めんどーな事きらーい」
「……」
「コホンッ……雰囲気を損なう発言は謹んでいただきたいのだけれど」
「まじめーな人はもっときらーい」
「…!?貴方!!感情に素直な事は良いけれど軽率な発言は控えなさいっ!」
「…ふんっ!!ねぇ…ミーソス私もう帰っていーい?」
「…レジーナ…泰然となせ。お飯事がお望みならこの場から消えてもらっても構わない」
駄々をこねるレジーナに対して厳格な父親の様に振る舞うミーソス。
「…ひどーい。ねぇ?ロマンザもそう思わない?」
「……」
レジーナの問いに反応を見せず無言を貫いている。
「…歳月人を待たず…」
「な、何訳の分からない事言ってんのよ」
「…知識のない未熟なお前には理解できないだろうな」
「何ですって!!失礼よ!」
幼気な少女は頬を膨らまし目の前の男性を睨んでいる。
「あ…あのぉ。話を進めたいので…話してもいいですかねー?」
この長机が無ければ今頃は血飛沫が舞っていたかもしれない。
「ああ。うちのレジーナが愚行を働いてしまいすまない。続けてくれ」
「ミーソス!?私が悪者みたいに言わないでくれる!?」
「…セバス・ラトレイヤー」
「っっ!!あんた…何…して…」
「言ったはずだろう?お飯事がしたいなら……消えてもらうと」
踠き苦しんでいるレジーナに対して周りは微動だにせず見つめている。
「わ…分かったから!!私が………悪かったから!!!」
先程までの威圧的な態度とは一変しむせながら赦しを求めている。
波乱の幕開けとなった査定会議がついに開かれた。
今年度は沢山の方に作品を読んでいただきありがとうございました。
来年度も猫屋の宿を宜しくお願い致します!!