3:事件は隣家で起こっている……?・1
義父母と義兄に甘やかされまくった十日間。いや、もっと短くても良かったよ? でもお父様もお母様も甘やかしてくるんだもん。甘えてみるよね! お兄様も七歳になったからもう少しお転婆からお淑やかになろうね、なんて口にしながらも甘やかしてくるし。甘えるよね。もう頭は痛くないし、医者も大丈夫! って言ってきたから、ベッドから起き上がったんだけど、嬉しくて飛び跳ねたんだよね。そして転んで顔面強打した。で、また頭というか顔が痛いってなりました。飛び跳ねたことが言えなかったので(叱られるのが分かってるからね)実は痛いのを我慢していた、と思い込まれてまたベッドに逆戻りしたよ! 危うくお医者さんをヤブ医者認定させるとこだったんで、結局嬉しくて飛び跳ねて顔面強打したことを家族に言ったよ! お兄様から残念な子を見る目で「お淑やかになろうって言ったよね」 なんて小言を言われたよ!
そんな十日間が過ぎて、ようやく部屋から出してもらい、さすがの私も、もう痛い思いはしたくないから階段を駆け下りることはしなくなった。で。お庭でお茶会……なんてことは、もちろんしない。お庭で花壇の手入れをしている庭師のおじいちゃんのお手伝いをしてましたよ。花の種を蒔いた。それくらいはいいと思うんだ。庭師のおじいちゃんはニコニコしてるし、侍女も私の後ろでニコニコしてる。ああ、これぞ古き良き時代の西洋推理小説っ……。庭師とか侍女とか洋館とかっ。推理小説のセ・カ・イ・カ・ンっ。
これで後はちょーっといいタイミングで「キャアア」 とか悲鳴が入ったら推理小説の世界バッチリ! なぁんて
「キャアアアアッ」
えっ。嘘っ、まさか!
「えっ、なに?」
私の願望による空耳⁉︎ それとも妄想癖を拗らせた⁉︎
「お嬢様はここでお待ちを! 何があったのか確認して参ります!」
私の側に居た侍女さん達のうちの一人が颯爽と駆け戻って行った。……という事は、今の悲鳴は、私の妄想でも空耳でもないってこと⁉︎
「ユリカ!」
「お兄様!」
お兄様が青い顔をして駆け寄って来ました。
「どうしたんだ、ユリカ⁉︎」
「えっ?」
「悲鳴を上げただろう? 虫でも出たか?」
どうやらお兄様は先程の悲鳴が私だと思ったようです。私を抱き上げるお兄様に私は首を振りました。
「私ではないです」
「えっ」
お兄様が目を丸くします。そんなお兄様に、私に付いていた侍女さん達が「悲鳴はお嬢様ではなく、今、何があったのか確認しております」 と説明してくれた。お兄様は私が悲鳴を上げたわけじゃなくてホッとしたみたいだけど、窓を開けて勉強をしていたとはいえ、庭に居た私ではない所から聞こえてきた悲鳴を訝しんでいるみたい。
そりゃそうだ。
外から聞こえてきた悲鳴が私じゃないのなら、じゃあ誰だ? ってことになる。
外に居たのは、私と侍女さん達。洗濯物を洗ったり干したりする使用人さん達は、洗濯場の位置が此処ではなく、お兄様の部屋とは反対方向だから聞こえるとは思えない。そして、悲鳴はどう聞いても女性のもの。庭師のおじいちゃんは有り得ない。後はお母様か洗濯担当の使用人さん達以外だけど、本日、お母様は商会長の妻としてお父様とお貴族さまのお茶会に参加中。他の使用人さん達は……分からないから、可能性は彼女達だけど。今回は男性の使用人さん達は違うからねぇ。
そうこうしている間に確認に行って来た侍女さんが青い顔をして戻って来た。
……何かあったとしか思えないんですけど。
「ユリシーズ様」
「どうした?」
お兄様の顔を見た侍女さんは、困ったようにお兄様に声をかける。お兄様から問われても、更にどうしようという顔でお兄様がもう一度、どうしたのかと尋ねようとしたところで、執事が現れた。執事、居るんだよね! 我が家! やっぱり古き良き時代の西洋推理小説っ!
「ユリシーズ様。旦那様と奥様に至急ご帰宅頂きますようにお願い致しましたが……少々問題が起こりました。ユリシーズ様とユリカ様の身に何かあるとは思えませんが、万が一のことを考えまして、屋敷内に戻られますよう」
「……何があった?」
執事の深刻な表情に、十二歳とはいえ、大きな商会の跡取りであるお兄様が顔を引き締めて問いかける姿は、大人顔負けです。お兄様、カッコイイ!
お読み頂きまして、ありがとうございました。