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2:あくまでも推理小説オタクなだけ。

 ああっ! 生まれ変わって良かった! まさか、生で洋館が見られるなんてっ。しかも侍女さん達のお仕着せが古き良き時代のヨーロピアンを彷彿させるのです! 首元まできっちりと隠されたハイネックの紺ワンピースに白いエプロンを着ている姿、最高ですっ。ありがとう、ありがとう転生っ! ただ惜しむらくは……エプロンにフリルがないっ! 裾にフリルはエプロンの醍醐味じゃないっ。くっ……そこは残念っ。いやでも、これはこれで禁欲的でいいのかもしれない。表情を崩さず、何を見ても見ないフリが出来る、正しくこれぞ推理小説に出て来る使用人っ……。


 そういえば、私まだ七歳だったっけ。あんまり大人びたことを言うと不審感を持たれるし、エプロンにフリルが無いとか醍醐味とか禁欲的とか口にしない方がいいよね。あと、なんだかんだで未だお兄様がいたわ。うん、口に出していなかったのはセーフ。


「お兄様」


「ユリカ? どうした? 頭がまだ痛い?」


「はい。痛いです。それで、あの、撫でて下さい」


「いいよ」


 日本人の記憶を思い出してしまったので、髪の色がキラキラしているお兄様は違和感だけど、顔自体は整っている。イケメン大好きってわけではないけど、まぁ鑑賞する分にはいいよね。そして、ユリカの記憶を思い出すに、私はかなりお兄様大好きだ。甘えておく方がいいとみた。急に素っ気ない態度を取って、不審感を持たれるのは厄介だもんね。


「ユリカ……お父様が帰って来て嬉しいのは分かったけど、もう七歳になったから階段を駆け下りてはダメだよ? また痛いことになるからね?」


「はぁい。お兄様、お父様とお母様は?」


「お父様もお母様も心配していたけれど、お父様はお仕事の続き。お母様はそのお手伝い」


「そっか……。心配かけてごめんなさい」


「うん。謝れて偉い偉い」


 ちょっとしょぼくれて見せたらお兄様は更にニコニコとして頭を撫でてくる。その手触りがすごく心地良くて、私は再び夢へと旅立ちそうになる。


「ユリカ、眠いの?」


「うん……、でも、お父様とお母様に……会いたい」


「次にユリカが目覚めたら二人も居るよ」


 その声に頷けたのか分からないまま、私はまた眠りの世界へと旅立った。


***


「寝たか……。七歳にもなって、階段を駆け下りるなんて……まぁでも、それだけ明るくなってくれたのは良かったけれど。それで怪我をしては、こちらも心配なんだけどね」


 眠るユリカの頭を撫でるユリシーズは苦笑しつつ、執務室で仕事をしながらもユリカを心配しているだろう両親の元へ一度目覚めてまた眠ってしまったことを報告することと、ユリカが会いたがっていることを告げるべく向かう。

 ユリカがやっと明るくなってきたことを喜ぶ両親と自分。小さな身体で悲劇を受け止め切れなかったあの頃、ユリカが両親よ元へ行きたい、と泣いていたことを思い出せば、多少お転婆でもついつい甘やかしてしまっていたが……それで怪我をして心配ごとが増えるのは、どうなのだろう。そろそろ落ち着くように諭すべきなのか、両親と相談しようかとも考える。


***


 そんな義兄の気持ちなど露知らず、眠りの世界に旅立っているユリカは、前世に読みまくった推理小説を読んでいる夢を見てクフクフと寝ながら笑っていた。ついでに夢なので都合良くその舞台が現在の自分の家に変換されている。まぁ要するに、自分が主人公となって推理小説を体現しているような夢を見ている、ということ。これ以上ない幸せな夢である。

 実際に体現したいわけではない。夢の中だからこそ幸せなのである。

 ……彼女は、ただの推理小説オタクなので、現実に起こっても名探偵よろしく事件を解決など出来はしないので。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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