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1:洋館って滾るよね!

春の推理企画出品。テーマは隣人。

コメディなのでミステリー好きな方は回れ右を推奨します。本格派の方だけでなくミステリー好きの方全般回れ右推奨。期待しない方がいいです。えっ?コレで終わり?ってくらいの話です。

なんでも許せる方対象です。12時から1時間ごとに更新。17時完結。

 柔らかな羽毛布団に挟まれて気持ち良さそうに眠っていた少女が目を開けた。


 その目はもう少しで雨上がりを思わせる明るいグレーで、チョコレート色した柔らかな髪の毛と共に愛くるしく思える。あまり高くない鼻と小さめの耳と唇が更に愛くるしさを表現しているよう。


 きっと笑えば可愛らしい少女は、だが。


「えっ⁉︎ 此処どこ⁉︎」


 と、叫び声を上げた。


「ユリカ⁉︎ どうしたんだい⁉︎」


 少女の叫び声はかなり大きく、隣室の義兄にまで届いて、義兄がドアをノックするという最低限のマナーは守りつつ、返答を待たずに開けて入る辺りは、マナー違反、ということを突っ込む人は居なかった。


「えええええっ⁉︎ あなたダレ⁉︎」


「はっ? ユリカ! 兄様が分からないのか⁉︎ アレか! 昨日、階段から足を滑らせて落っこちてやっぱり頭を打ったんだな⁉︎ だから三段程とはいえ、怪我がないか医者を呼ぼうと言ったのに! 誰かっ! 医者を呼んでくれっ!」


 若い男性に言われ、ユリカと呼ばれた少女は痛む頭を押さえながら目を閉じて記憶の奔流に身を任せた。ーー終わった時には義兄が先程まで寝ていたベッドに(上半身が起き上がっていただけだった)横たわらせ、頭を撫でていた。


「お兄様……心配かけてすみません」


「ああ、ユリカ。兄様が分かるんだな? 良かった良かった」


 彼の名は、ユリシーズ。商会の長を務める父を持つ子息。ユリカはユリシーズの本来なら再従兄妹(はとこ)にあたる。

 ユリカの亡き父とユリシーズの父が従兄弟でユリカの両親と兄は二年前に事故で亡くなっている。その日は熱を出したユリカのために医者を呼んだ後で、三人が教会へユリカの病が治るように祈りに出かけた帰りだった。


 急に天涯孤独の身になったユリカ。しかし両親の兄弟姉妹や両家の祖父母の誰もが、ユリカを引き取る気がなくて揉めていた。それもそのはずでユリカが熱を出して治ることを祈りに出かけた事故なのだから、ユリカが病にならなければ……と親と兄を不幸にした禍い者と思われたからだ。そんな不幸者を引き取る気がなく、孤児院へやってしまおうとしていた寸前に、ユリカの父の従兄弟である商会長が「病に罹りたくて罹ったわけでもない小さな女の子を相手に、何をいっているんだ! ユリカを引き取る!」 と親戚を叱った上に引き取ってくれたのである。


 尚、ユリシーズは現在十二歳。ユリカは七歳。ユリカの名前は父が親しく付き合っていた従兄弟の息子がユリシーズという良い名前だったことに肖って(あやかって)付けられた。そういうことを商会長もその妻である夫人も息子であるユリシーズも知っていたので、喜んで娘として迎え入れた経緯がある。尚、夫人はユリシーズを産んだ後の産後の肥立が悪くて病弱になってしまい、子がユリシーズ一人だった。娘が欲しかった夫人は、ユリカが家族を喪ったことに胸を痛めつつ、娘が出来たことを喜んだので、一家とユリカの関係は良好である。


 さすがに家族を一度に失い、更に親戚から厄介者扱いされかけたユリカは、当初、生きているのか死んでいるのか分からないような表情で日々を過ごしていた。そんなユリカを何呉れと気に掛けたのがユリシーズで、一年経つ頃にはようやくユリカも持ち前の明るい性格で笑顔を浮かべるようになっていた。それもこれもユリシーズのお陰であり、ユリカもきちんと理解しているので、ユリシーズには特に懐いていた。


 さて。少しずつ打ち解け、家族になっていった四人。

 そんな中でユリカは昨日、商品買い出しで長期に渡り他国に行っていた義父……ユリシーズの父である商会長が家に帰って来たことに浮かれて階段を駆け下りた際に足を滑らせ、前からベシャアッと派手に転んだ。額や鼻に擦り傷は出来るし、顔面強打で痛いし、身体も打ったわけだから相当に痛い。ギャアギャア泣きながらも、医者嫌いなユリカは、寝てれば大丈夫、と義父にお願いして義父に抱っこされてベッドに寝かされた。


 尚、彼女が医者嫌いなのは、家族が事故に遭った際、三人を一目見て「もう助からない」 と放置したことが原因である。かなり大きな事故だったため、他にも救助者がいてそちらは助かると判断され、ユリカの家族は見捨てられた。両家の祖父母が恨み言を言っていたのを聞いて以来、彼女は医者嫌いだ。かなり悲惨な人生をユリカは既に送っている。


 そのままグッスリと眠っていたが、その間に、彼女は所謂前世の記憶を思い出していた。


 ブラック企業勤めでおそらく過労死した三十二歳独身OLだった前世を。

 そして、彼女は自身が推理小説オタクだった前世も思い出し……興奮していた。

 ユリカが暮らす商会長の家は、洋館だったからである。


 ユリカの記憶と日本人だった時の記憶が融合した結果。彼女は悲惨な五年間の記憶が変に作用したのか、その性格は残念な方向に進むのである。その第一歩。


 ーー洋館。それは西洋の推理小説好きには堪らなく魅惑的。パイプを燻らせバイオリンを奏でるあの名探偵や、灰色の脳細胞を持つと言われる髭がトレードマークの名探偵とかっ! 洋館って……滾るよね!

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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