79話 いい加減にしてくださいっ!!
「では……次の目的はマーガドレドということで良いのだな?」
ブランダルの部屋を出てエレベーターの中に入ると、ナギがそう言いながら俺のことを見上げてきた。
「そのつもりだけど……先にローダンに戻った方がいいのかな?」
「それは大丈夫だ。セレンだってユウ殿を管理下におきたいわけじゃない。魔王の討伐に向けて行動するユウ殿を縛るはずがない」
「そっか。それならいいんだけど……魔王って一人じゃないんだよな?」
「あぁ。同じ魔族同士でも、覇権を奪うため争いが絶えないときく。魔界の中では今でも熾烈な生存競争が行われていることだろう」
「なるほどな……」
ということは、バロバスーラを倒したとしても、さらに魔王と呼ばれる存在と戦うことになる可能性は十分にあるわけか。
あっさりと倒せてしまったが――エルドラーリアの強さは、たしかに他の魔物とは格が違っており、チートを持たない人間が立ち向かっていたら勝ち目はなかったことは間違いない。
あんなのが何人もいるとなったら、そりゃあ滅びゆく世界なんて女神にも言われるだろう。
「――なら、かたっぱしから魔王を倒していこう。ここが滅びる世界だなんて言わせないからな……」
少なくとも、今俺の傍にいる三人には平和に暮らせるようになってほしい。
それに、エルナのことも気がかりだ。
エターいわく、エルナがこの世界に降りてくる時には俺に伝わるように目印が用意されるとのことだが――今のところ心当たりはないし。
「ユウ様……? どうされました?」
怪訝に見つめてくるシエル。
とっくにエレベーターの扉が開いているのに俺が動かないから怪訝に思われたようだ。
なんでもないよ、と伝えて外に出る。
どうあれ、今はマーガドレドに向かうことが先決だ。
「――出ていけっ! 化け物がっ!!」
と、考えていた時だった。
遠くの方から怒鳴り声が聞こえたきたのは。
「……物騒な言葉がきこえてきたな」
「あっちですっ!」
真っ先に走りだすリリィ。
急いで彼女についていくと、学校の入り口付近で人だかりができているのが確認できた。
「寄るなっ! 消えろっ!!」
「出ていけっ! 帰れっ!!」
「化け物っ! 化け物っ!!」
人々が過激な罵倒の言葉を放っている。
誰かが戦闘を行っている様子はない。昨日出現したワームの残党がいるというわけではなさそうだ。
どうあれ、俺達がこの学校から出るためには、その人だかりを避けては通れない。
一体何が起きているのか確かめることも含めて先に進んでいくと――
「――ゼダさんっ!?」
張り裂けそうなリリィの声が響く。
人だかりの奥の方には、倒れ込んでいる青年――ゼダの姿があった。
ぐったりとしたまま動かず抵抗の様子はない。
それなのに、人だかりの中心部分にいる人達は、倒れた彼を蹴り続けながら罵倒を続けている。
「なんだあれは――! 一人を寄ってたかって……」
「ユウ様っ!」
「…………」
詳しい状況は分からないが、これではただのリンチだ。
シエルとナギは急いで武器に手をかけ、倒れているゼダのもとへ駆け寄ろうとする。
だが――
「……いや、ここはリリィに任せてみよう」
「え……?」
「どうしようもなければ、俺が護る。――全員な」
俺の言葉に、シエルとナギは何も答えなかったが、とりあえず武器にかけた手はおろしてくれた。
もちろん、どんな理由があろうとこれだけの人数で無抵抗な一人を攻撃することなんて許すわけにはいかない。
それでも、この状況はリリィに任せてみるべきだと感じた。
「皆さんっ、なんてことしてるんですかっ! こんなひどいことっ――なんでっ!」
ゼダの前に立ち、両手を広げてリリィが周囲に訴えかける。
すると、意外にもあっさりと周囲の人々は静かになった。
「貴方は……昨日の英雄様っ!?」
ゼダを蹴っていたうちの一人が声をあげると、その動揺は周囲にも伝染していく。
「一人でワームを倒してた……あの子だよな……」
「学校長から認められてた子が……なんで……」
「英雄なのに魔物をかばうのか……?」
罵倒の声は止まったものの、怪訝にざわつく人々の声が響いていく。
どこか気まずい雰囲気の中、リリィは必死に訴え続ける。
「なんでこんなひどいことしてるんですかっ――! ゼダさん、ボロボロじゃないですかっ!!」
「英雄様っ! 忘れたんですかっ! そいつは化け物ですっ! 貴方に襲い掛かった男なんですよっ!!」
「っ――!」
言葉を詰まらせるリリィ。
だが、すぐに息を吸い込んで言い返す。
「でも、もう大丈夫ですよっ! 事件の黒幕は倒されたんですっ! だから、ゼダさんにこんなことする意味なんてありませんっ!」
「そんなわけないでしょうっ! そいつが異形に姿を変えたのを見た人が何人もいるんですっ!」
「殺すべきだっ! さもなければ、この魔法学校の信頼に関わる!」
「そうだ! そうだっ! 学校を貶めた男に罰をっ!」
「罰をっ! 罰をっ!!」
興奮した周囲の人々が一斉に叫び始める。
大勢の罵倒の言葉が重なり、もはや何を言っているのか分からなくなってきた。
「ユウ殿、これではリリィ殿まで……」
ナギが心配そうにするのも無理はない。
だが――なぜだろう。
はっきりとした根拠はないのだが、ここは俺の出番じゃないと感じた。
「――大丈夫だよ。ナギ」
「しかし――」
「信じてあげて。リリィは強い子だから」
そう言ってリリィのことを見つめる。
ふと、リリィと視線が合った。
いつもの無邪気なものとは一味違う凛とした表情。
リリィとアイコンタクトをした後、頷き合う。
そして――
「――いい加減にしてくださいっ!!」




