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74話 疲れてるよね?

 アリエーナとの戦闘が終わった後、俺達はとにかく慌ただしく動くこととなった。

 意識を失ったブランダルを保護し、皆と合流し情報を共有した。


 シエルがアリエーナと戦っていたこと。

 リリィが地上階で暴走したゼダを抑えたこと。

 ナギが地下階を護り続けていたこと。

 ワールとアリエーナの繋がり――そして、アリエーナと俺との戦いの全てを。


 その後、リリィとナギは各フロアをまわってワームの存在が消えたことを確認しに向かい、俺とシエルは、最上階の休憩室に戻り荒れた部屋を整理することになった。

 すでに夜はかなり更けている。今日はここで寝泊まりするしかない。



「はぁ、色々あったなぁ……」



 とりあえず、一通りの整理が終わったのを確認しため息をつく。

 ベッドはもう使い物にならなくなっているが、奥の方にあったタンスの中に使えそうな毛布がいくつかあったのでそれを敷いてみた。

 傷だらけの壁は治すことはできなかったが――まぁ、とりあえず一泊するのに不都合がない程度には整理が終わったといえるだろう。


「お疲れ様です、ユウ様。もうお休みになられますか?」

「いや、二人が帰ってくるまで待つよ」

「そうですか。では、しばらく休憩いたしましょう」


 そう言いながら、シエルは近くにあったソファに座り込む。

 切り刻まれてボロボロになっていたが使用するには問題なさそうだ。

 俺もシエルの隣に座ってみると――なるほど、見た目とは裏腹にかなり座り心地がよく、気を抜くとすぐに眠ってしまいそうだ。

 だが、まだ気がかりなことが残っている。



「……ところで、シエルの報告だと『不意を突かれてアリエーナに負けた』ってことだったよな」

「え?」

「それ、本当なの?」


 俺の言葉に、きょとんとした顔を見せるシエル。

 だが、その顔にはたしかに焦りの色が混じっている。


 シエルは、自分がアリエーナに負けたような言い方で報告をしていた。

 だが、俺はアリエーナの言葉で頭に残っているものがある。



『では、まずはそこの女から逝かせてさしあげましょうっ! 先ほどの借りもありますからねぇっ!!』



 ――『借り』とは一体なんのことだろう。



 シエルは本当に不意を突かれて負けたのだろうか。

 そもそも、こんなにも大がかりな仕掛けをしていた黒幕が――そして、最期に相手を殺さなければ決着はありえないと叫び自爆したアリエーナが、シエルを生かしたまま放置するだろうか。



「本当は……シエル、君はアリエーナに勝ったんじゃないか?」

「……ユウ様」


 シエルが気まずそうに視線を泳がす。

 普通なら、敢えて自分が負けたなんて報告する理由がない。

 だが――


「シエル――なんで君は、あの時一人で残ったの?」

「…………」


 俺の問いかけに、シエルは黙ったまま答えない。

 それは俺の疑問が的外れでないことを肯定することと同義だ。

そして、シエルがそんなことをする理由なんて一つしかない。


「シエルは、アリエーナがヴェネドワだと最初から気づいていたんだな」

「それは……」

「囮になったのか? あの時……俺達に何も言わずに」

「…………」


 少し泣きそうな顔で俺のことを見つめてくるシエル。

 ――シエルのことだ。俺達のことを想いやって自分なりに行動したのだろう。

 だから彼女を責めることなんてできない。

 むしろ、俺が許せないのは――



「――ごめん。シエル。気づけなくて……」

「え――」



 ――悔しかった。

 今思い返してみると、手掛かりはたしかにあった。



 アリエーナと最初に会った時――アリエーナがリリィを見ながら『よくこの階まであがってこれたわね』と言ったこと。



 アリエーナがヴェネドワであることを前提に考えれば、たしかにこの行動には違和感がある。

 あの時――俺はアリエーナの行動の意味をちゃんと考えていなかった。

 でも、シエルは気づいていたんだ。だからシエルは、アリエーナの行動を誘うためにわざとあんな行動をとった。

 地下階で、ナギが冷静に俺を落ち着かせてくれたことを考えると――もしかしたら、ナギもその意図に気づいていたのかもしれない。


 どうあれ、シエルは、アリエーナの行動を看過した俺の代わりに危険を冒してくれたんだ。




「……あの、ユウ様? なぜ貴方が謝るのですか……?」

「…………」



 困惑した表情で俺のことを見つめてくるシエル。



「シエルには死んでほしくないから……俺は……」

「分かっています。……今度からはちゃんとお話しするようにします。本当に……ごめんなさい……」


 そう言いながら、俺の頬に手を振れてくるシエル。

 まるで幼い子供をあやすかのような優しい手つきだ。

 そんな心地良いことをされると、俺は――



「おぉ……ここも随分と荒れたものだな」



 ――ふと、ナギの声で我に返る。

 どうやら、シエルとのいちゃいちゃタイムはお預けのようだ。



「あ、ナギさん。お疲れ様です。大丈夫そうでしたか?」

「あぁ。派手に暴れられた割には被害も少なく済んだらしい。魔法学校が完全に復興するまではいくらかかかるだろうが……それでも、明日にはブランダルと話ができるようになるだろう」

「そっか。それならよかった」


 ふと、リリィに視線を移す。

 ナギの報告内容は明るいものととらえていいのだろうが――リリィの表情は見たこともないほどに暗い。


「二人ともお疲れ。一応、今日寝る準備は整えておいたから。リリィ……疲れてるよね?」

「え……別にリリィ、そんなことないですよ」


 そう言いながらリリィは微笑んでみせるものの――どこかとりつくろったような雰囲気は隠せていない。

 もしかして、あのゼダという男と何かあったのだろうか。


「まぁ、考えていても仕方ないさ。俺達が今日できることは全部やったんだ。後はゆっくり休もう」

「……そうですね。リリィ、疲れました……もう寝ようかな……シャワー、先いいですか?」

「あ、うん……」

「じゃあお先失礼します……」


 よろよろとシャワールームに入っていくリリィ。

 中はガラス張りで丸見えなのだが特に気にするそぶりも見せずに脱ぎ始め……



 ――いやいやいや!! 俺まだ丸見えのところにいるんですけどっ!!



 急いで部屋を移り寝室に移動し、リリィの姿が見えないようにする。

 そんな俺を見て、シエルとナギが苦笑しながらついてきた。


「……リリィさん、どうしたんでしょう? 元気がないですね」

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