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72話 大丈夫だよ

「シエル……大丈夫?」


 最上階の通路を塞ぐ謎の障害物を破壊しながら進むこと数分――

 シエルは辛そうに顔をしかめながら俺の後をついてきている。


「歩くことはできますので大丈夫です……でも、この黒い変なモノに近づくと……眩暈がします……」


 俺は全く感じないのだが――この脈動する黒い壁や物体には、近づくものを無力させる力があるのだろうか。

 とはいえ、辛そうにしてはいるもののシエルはしっかりと俺の後についてきている。

 ここはシエルの無事を確保するためにも、頑張ってついてきもらうしかない。


「ユウ様……多分、ここに……」


 ブランダルの部屋の前まで移動すると、シエルが少し低めの声で俺に警戒を促してきた。

 シエルの手をとり、覚悟を決めてその扉を蹴りとばす。

 その扉についていた黒い腫瘍のような物体は、派手な音と共に飛び散っていった。


「ブランダルさんっ、大丈夫ですかっ!!」


 中にいたのは二人だった。

 一人は、何かぶつぶつとつぶやくような仕草をしているアリエーナ。

 そして、その横には虚ろな目をしたブランダルがいた。


「おやおや……このフロアにいながら動ける人族がいるとは……人封じの結界は失敗でしたか?」


 言葉とは裏腹に、余裕に満ちた表情で微笑むアリエーナ。

 一見すると妖艶な美女なのだが――その雰囲気はあまりに禍々しく、もはや人の放つそれとは思えない。


「随分と派手なことをしましたね……」

「そうですね。本当はこんなことはしたくなかった。もっと穏やかに――水面下で。じわじわと、完璧に人族の力を得るつもりだったのに。いやはや、まったくもって予想外でした。まさか人族の中にここまでの実力を持つ者がいようとは。こんなところで切札を切らされたのは痛手ですが……まぁいいでしょう。ここで貴方達を始末した後、ゆっくりと研究を再開すればいい」


 何を言っているのかよく分からないところもあるが、ろくでもない企みをしているのはたしかだ。

 ここでアリエーナを倒さなければ、シャララドが――というか、人族が大変なことになることは間違いない。


「さぁ――愚かな人族よ。光栄に思いなさい。今度こそ、我が全力をもって、貴方達を始末します」


 そう彼女が言った瞬間、その背中から黒い翼が生えた。

 いや――翼といっていいのだろうか。形こそそれに近いものの、その質感はドロドロの粘液でスライムのそれに近い。


「はぁ……分かってたけど、やっぱ話は通じないよな……」


 それでも、彼女の見た目は限りなく人に近く、その姿は美しいと形容するに値するものだった。

 ――だからだろうか。そんなことはありえないと分かっていても、話で解決できるなんて甘い期待をどこかでしてしまっていたのは。



「おやおや、どうされました? もしや、私を殺すことを躊躇っているわけではないですよね?」



 当たらずとも遠からず。

 今では俺のヒールによって全快しているが――シエルにあんな傷を負わせた彼女を許すわけにはいかない。

 だが、だからといってこの女の命を奪うことまでしていいかと言われると自信が持てない。

 そこまでやることが本当に正しいことなのか。そんなことをして、今回の事件は解決したといえるのか。


「ユウ様、嫌なことはする必要ありません。汚れ役は私にお任せください」


 そんな俺の内心を見透かしたのだろう。

 シエルが、ぎゅっと剣を握りしめながら俺の隣に出る。


 ――そんなふらふらの状態で出来るはずもないのに。

 シエルの切迫した表情を見ていると本当にやってのけてしまうのではないかと思ってしまう。



「……大丈夫だよ、シエル」



 だが、ここでシエルに任せているようではダメだ。

 自分がやりたくないことを恋人に任せているような男になんて、俺はなりたくない。


「そんなこと……もうシエルにはさせない。シエルは優しいからな。もうこれ以上――やりたくないことをやる必要はない」


 それはシエルに語るものというより、自分自身に語り掛ける言葉でもあった。

 ここは異世界――命のやり取りが平気で行われる滅びゆく世界。

 エルナから貰ったあまりにも強すぎると力と、シエルの精一杯の愛情で、気を抜くと忘れそうになるけれど、ここはそういうところなのだ。


 だから――



「これから先、誰かを殺す必要があるならば……俺がちゃんと向き合うよ。シエルのためなら、いくらだって血濡れてみせる」

「そんな――そんなこと、私はユウ様に――」

「いいから。それぐらい、俺にもさせろって。一応、これでもシエルの彼氏なんだぞ。一人で背負おうとするな」

「…………」


 ――自分で言ってて恥ずかしくなるぐらいの台詞だが、シエルにはこのぐらい言わないと伝わらないだろう。

 少し涙目になりながら、シエルは無言で俺のことを見つめていた。


 そのすがるような瞳を見ていると、闘志が湧いてくる。


 そう――

 もう人を殺したくないと思っているのは――それを一番強く思っているのはシエルの方だ。



「二人そろって似たようなことをほざきますねぇっ! では、まずはそこの女から逝かせてさしあげましょうっ! 先ほどの借りもありますからねぇっ!!」

「っ――!?」


 びくりとシエルが肩を震わせる。

 風を切る音が背後から聞こえてきた。



「カースブラッドイジェクション!」


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