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69話 自由……?

「あっ――ユウさん! ナギさんは!?」


 地上階に出ると、リリィが慌てた様子で俺の方に駆けつけてきた。

 周囲には、地下階ほどではないものの、何匹ものワームが出現し人々を混乱させている。


「地下階を任せてきた。生徒達は無事?」

「リリィが見た感じだと犠牲者はないです……でも、地下階ほどじゃないですけど、ここにもワームが出現していて……」


 そう言いながら周囲を心配そうに見渡すリリィ。

 ――とはいえ、この魔法学校にいる者は魔術を使う者達だ。

 出現したワームに対し、それぞれが魔法で対抗している。

 今のリリィなら、十分に余裕をもって勝つことができるだろう。


「ごめん……リリィ、この場は任せていいか。俺はシエルのところにいく」

「はいっ――! 任せて下さいっ!」


 俺の言葉に、力強く答えるリリィ。

 急がなければ――シエルが無事であればいいのだが。



 †



 最上階に向かう装置に向って走り去っていくユウを見て、リリィは杖を握る力を強めた。

 周囲の人々もワームに抵抗しているが――数の多さに徐々に劣勢になっているようだ。

 このまま彼らに戦闘を任せていてはじり貧になるのは明らかだ。


「皆さんっ! 落ち着いてくださいっ!! リリィが皆さんを護ります! ワームの対応をしますからっ!」


 リリィが大声で周囲に呼びかけるものの、誰もリリィのことを見ようとしない。

 リリィが適切に扱うことのできるスキルはレベル100以上のものに限られる。それらは全て、うかつに使うと周囲の人々を巻き込んでしまう危険がある強力なものだ。

 だからリリィがそう呼びかけることは正しい判断なのだが――それを周囲に伝えるには、リリィの容姿はあまりに愛らしかった。


「また出たぞー!!」

「うわああああああああああっ!」


 悲鳴が飛び交う中、リリィが目を鋭くさせて深呼吸をする。

 ただこうして叫んでいても、自分のことを何も知らない彼らがこの場を任せてくれるはずがない。

 それならば――今ここで力を示すしかない。


「てやあああああっ!!」


 叫び声と共に前へ。

 なんのスキルも使わないただの通常攻撃だ。

 しかし、エターナルフォースの影響を受けたリリィの体は、驚異的なスピードとパワーをもって、ワームを一撃で粉砕する。


「え、ちょっ――」

「ここはリリィに任せて下さい! 皆さんがここにいると、強い魔法が使えませんっ!!」


 そう言いながら次々とワームを倒していくリリィ。

 その様子を見て、さすがに周囲の人々もリリィに注目せざるを得なくなったのだろう。


「凄い……あの子は何者……?」

「まだ少女なのに……生徒じゃないよな?」

「強すぎる……」


 混乱から動揺へ。悲嘆から希望へ。

 周囲の雰囲気が明るいものへと変わっていく。


「っ――」


 そんな中、一人歪んだ表情でリリィを睨む青年がいた。


 ――ゼダだ。

 恐怖で震えた体を腕でおさえ、歯を食いしばりながらリリィのことを見つめている。


「なんで……なんでリリィが……あんな、何もできなかったヤツが……」


 一見するとか弱い少女が、自分よりも遥かに力強く、自分よりも遥かに鮮やかに魔法を使い、数多のワームを駆逐していく。

 そんな光景を見つめ続けることは、ゼダにとっては耐え難い苦痛だった。


「俺は……俺だって……くそっ……!!」

「危ないっ!!」


 ふと、リリィの声で我に返る。

 いつの間にか、ゼダのすぐそばにワームが這い寄っていた。


「ゼダさん! 無理しないでっ!! ここはリリィに任せて下さいっ!」

「ぐっ……」

「てやあああああああっ!!」


 自分が手も足も出ない相手を瞬殺するリリィ。

 そんな彼女の姿を見ることは、ゼダにとって耐えがたい屈辱だった。



「なんで……なんでこんな……」



 ――おやおや、こんなところに、美味しそうな器がいますね。



 その時だった。

 ゼダの頭に、とある女性の声が響く。


「え――?」


 ――その感情、実に私好みの味をしている。どうでしょう? 強くなりたくはありませんか?


「誰だ……?」


 それは人のそれとは思えないような、歪で不快な声。

 しかし、その言葉にゼダは強い興味を惹かれた。

 慌てて周囲を見渡すが、声の主と思えるような者は見つからない。


 ――誰でもよろしい。貴方は強くなりたいのでしょう? 少なくとも……あの少女より弱い自分なんて許せない。そうですよね?


「…………」


 沈黙するゼダに対し、その声は挑発するように笑う。


 ――それなら私と契約しましょう。貴方が力を得て自由になるために。


「自由……?」


 不安と希望の混ざった瞳で、上を見上げるゼダ。

 その瞬間――



 ――さぁ、受け取りなさい……『カースブラッドエンゲージ』



「っ――!?」



 ゼダの体を黒いオーラが包み込んだ。

 そのオーラはゼダの体のあちこちを刻み、うっすらと血を垂らしていく。



 ――フフフ、貴方の悪意は素晴らしい。ワールより具体的で、明確で、強い『嫉妬』が生み出すそのマナ……存分に使わせてもらいますよ。



「ぐっ――おおおおおおおおおおおおおおおおっ!」



 自分に何が起こっているのか考える間もなく――



 ゼダはその姿を異形へ変えた。


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