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67話 ふざけるなっ!

 あの女生徒達と別れてから十分ほど経過しただろうか。

 俺は、あの少女達と雰囲気が似ている女生徒に何人か声をかけ、簡単にワールのことについて聞き込みを行った。

 まだ合わせて五人程度しかきいていないが、やはりワールはアリエーナと付き合っていたという噂があるようだ。


 そうなってくると必然、ある疑念がわいてくる。



 ――アリエーナの正体は『ヴェネドワ』なのではないだろうか。



 仮にそうだとすると、シエルと別行動をとったのはまずかったかもしれない。

 ヴェネドワが得体の知れない力でこの魔法学校の人達を操っていることは明白だ。

 もしもアリエーナが『ヴェネドワ』だとしたら、ワールのことで調査をしようとしている俺達のことを放置するはずがない。

 シエルを一人にしたことは、彼女を危険に晒したことになるのではないか。



 ――落ち着け、悲観的になるな。まだそうと決まったわけじゃない……



 とはいえ、ワールの言動についてここまで生徒の声が一致しているとなれば、リリィとナギも同じような言葉をきいていることだろう。

 ここは早めに情報を共有しておくか。

 もしも入口にリリィとナギがいなかったら、一度シエルの様子を見に最上階まで戻ってみることにしよう。



 †



 二人と別れた場所まで戻る途中、見慣れたツインテールの黒髪が目に入った。

 この鬱屈とした空間の中で、元気よく体を揺らして歩くリリィの姿はかなり目立つ。

 きょろきょろと周囲を見渡しながら声をかけられそうな生徒を探すその姿は、どこか小動物のようで可愛らしい。


「お、リリィ。俺がきいた話なんだけどさ――」

「あっー! ゼダさんじゃないですかーっ!」


 ふと、俺が声をかけた瞬間、リリィの明るい声が周囲に響いた。

 広間が吹き抜けになっていることもくわえ、周囲の生徒達は暗い表情のまま俯いて歩いていることもあって、その無邪気な姿は物凄く目立っている。

 だが、リリィはそんな自分のことに気づくそぶりもなく、満面の笑みで手を振りながら一人の青年に向って走っていった。


「っ――お前はっ!」


 ゼダと呼ばれた青年は、リリィの姿を見るや否や、まるで魔物でもみたかのように顔を強張らせた。

 そんなゼダの表情を見て、リリィは少し気まずそうに苦笑しながら言葉を続ける。


「あ……えっと、お久しぶりです。覚えていますか? リリィですっ。まさかここで会えるなんて思ってなかったのですが……」

「っ――! なんでお前がここにいるんだよっ!!」

「あ、はいっ! リリィ、学校長の許可を得て調査してます! ほら、このバッジ!」

「なっ――なんだとっ!!」


 リリィが胸につけたバッジを見せた瞬間、ゼダの表情はさらに歪んだ。


「なんでお前が……そんな魔力、お前には――」

「あのあのっ……ワールっていう人、知ってますよね? その人がここでどんなことしているのか、リリィ、調べてます。知ってることがあったら教えてほしいですっ!」


 ゼダの異様な雰囲気に焦っているのだろうか。

 リリィは、どこか焦っているかのようにあたふたと言葉を続けていく。


「ふっ――ふざけるなっ!」



 ――しん、と周囲が静まり返った。

 というより、もとの静けさに戻ったというべきか。

 リリィの澄んだ声がぴたりと止まり、気まずい沈黙が周囲を支配する。


「ゼダ……さん……?」


 一体何を怒っているのか――

 リリィとゼダがどんな関係なのかは分からないが、どうやらただごとではないようだ。

 ゼダの表情を見れば、リリィに対して相当な感情を抱いていることは誰でも分かるだろう。


「相変わらずヘラヘラしやがって……お前のそういうところ、マジでむかつくぜっ!」

「えと……どうしたんですか……? ゼダさん……」

「どうもこうもあるかっ! 所詮お前は貴族だからな――どんな手を使ったのかしらないが、俺は……!」

「っ――」


 敵対心をむき出しにするゼダを前に、リリィが今にも泣きだしそうな顔になりながら怯んでいる。

 ――さすがにもう様子を見ているだけにはいかなさそうだ。

 おそらく、ゼダはリリィの知り合いなのだろうが……俺が間に入った方が良いだろう。


「えっと……どうされましたか」

「っ――! 誰だお前――っ!?」


 声をかけた瞬間、ゼダが思いっきり俺のことを睨みつけてきた。

 だが、すぐに俺がつけていたバッジに気が付いたのだろう。

 ぐっと唇をかみしめた後、何かを堪えるように声を震わせて話を続けてきた。


「そのバッジ……何ですか。こんなところに来て、何か用でも?」

「……ワールっていう人のことを調べていたので。何か気に障ったことをしたなら申し訳ないです」

「…………」


 俺の言葉に対して、ゼダは軽く舌打ちをするだけで答えない。


「ゼダさん……その、私……」

「うるさいっ――お前なんか……貴族のコネでしか生きられないような女が俺を見るなっ!」

「そんな――」


 ゼダの言葉に、リリィは完全に涙目になってしまっている。

 事情は分からないが、ここまでリリィを傷つけるような言い方をされるのはさすがに気分が悪い。

 少し問い詰めてみようか。


「……リリィが何か貴方にしましたか」

「…………」

「貴方に何があったのか知らないけど、俺は――」

「ユウさん」


 ふと、リリィが俺の腕を掴み、わずかに頭を左右に振った。


「……大丈夫ですよ。リリィ、ちょっと……ドジしちゃったので」

「…………」


 苦笑いしながら俺を制止してくるリリィ。

 ゼダを問い詰めたところで、彼から有力な情報が得られるとも思えない。

 煮え切れないところはあるがシエルのこともある。

 ここは頭を冷やして、リリィと情報共有するのが重要だろう。



 ――そう考え、言葉をのみこんだ時のことだった。



「きゃああああああああああああああああっ!」


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