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66話 ワール先生……

 魔法学校の地下は、生徒達が居住し、学ぶためのフロアとなっている。

 そうきいていたのだが――


「え……な、なんですかここ……学校……??」


 地下階に入った瞬間、リリィが顔を強張らせた。

 それもそのはず。俺達の眼前に広がる光景は、まさに監獄そのものだったから。


「……凄いな」


 一点透視図法の絵画でも見ているのかと錯覚するような、なんの飾り気もない通路。

 その横にあるのは生徒達の居住する部屋なのだろう。しかし、なぜかその扉は鉄格子になっていて中の様子が丸わかりだ。

 一応、中に仕切りカーテンがあるので最低限のプライバシーはあるのだろうが――それにしてもこの牢獄みたいな雰囲気はいかがなものか。


「この魔法学校は大きく分けて五つのフロアがあるという話はしたな」


 通路を歩きながら、ナギが淡々とした声色で話しかけてくる。


「生徒達が学び……そして居住するフロアは、成績に応じて三つに区分されている。多くの一般生徒はこの地下階にいるらしい」

「で、でも……こんな……」

「ここは私が過ごしていた時代よりもさらに昔――監獄として使われていた過去があるらしい。この雰囲気はその名残だな」

「…………」


 もともと監獄だったところが今では学校として使われている……

 それだけこの建物の歴史は長いということか。


「過酷な競争に打ち勝った者が地上階のフロアに行ける。その中でも特に優秀な者は、塔の高層部分のフロアで修行をするそうだ」

「随分と詳しいな……」

「セレンからきいただけだがな」

「えと……じゃあ、セレンさんもこんな環境から……?」

「どうだろう。セレンと会ったときは十の時だったが……その時には既に、彼女は魔法学校を卒業し結界師となっていた。前代未聞の天才だと言われていたな……」

「なるほど……」


 ナギはさらりと言っているがそれって結構凄いことなのではないだろうか。

 ここにいる生徒たちは、殆どが十代後半で、中には二十代と思われるような者もいる。

 しかし、年齢に似合わないこのおどおどとした空気。

 まるで人生に絶望しきった中年が集まっているかのような雰囲気だ。


 ――しばらく進むと、通路が終わり吹き抜けの広間に出た。

 地下のフロアは多くの生徒がいるだけあって、地上階よりも広くつくられているらしい。

 広間といっても本棚が多くあり、その様は図書室のようになっていた。

 その中で多くの生徒達が動いている。


「えと……あ、あの。これ、聞き込みとか……本当にできるのでしょうか……?」


 苦笑しながら俺のことを見上げてくるリリィ。

 たしかに、この広さでこれだけ多くの生徒達から情報を得るのはなかなか骨が折れるだろう。

 これは一日で終わらせることは難しそうだ。


「……やるしかない。彼らの邪魔になってしまうのは心苦しいけどな」

「っ……そうですよね。リリィも、頑張ってきいてみます。えっと……手分けした方がよさそうですよね?」

「そうだな。ある程度情報が聞き出せたら、またここに集まろうか」




 †




 二人と別れ、一人で地下フロアを模索していくこと十分弱。

 俺は、未だに誰にも声をかけられないでいた。


 別に誰から話しかけてもいいのだが、どうも歩いている生徒達の目が虚ろなのが気になる。

 直感的に、ヴェネドワに操られていなさそうな生徒に話をきいていきたいのだが。


 しかし、すれ違う生徒達は皆、鬱屈とした表情で俯いており、目があうことすらない。

 たしかに、ヴェネドワとか関係なく、こんなところで生活していたら虚ろな目になるのも仕方ないか。

 いつまでもこうして歩いているだけではらちが明かない。

 ここはトライアンドエラーを重ねていくしかなさそうだ。


「えっと……すみません、少しお時間いいですか?」


 とりあえず、近くで本を読んでいた青年に声をかけてみる。


「えっ……なんですか? って、そのバッジは――!!」


 俺を見た瞬間、その青年はまるで幽霊でも見たかのように顔を青ざめさせた。

 大げさとも思えたが――このバッジがそれだけの権威をもっていることは既に分かっている。

 あまりかしこまられても話にならないので、俺はなるべく平穏にきこえるよう声を出していく。


「大丈夫、たいした者じゃないのでかしこまらないでください。率直な意見がききたいので」

「意見……?」

「はい。ワールという男のことです。彼がここで何をしていたのか、知りたくて」

「ワール先生のこと……えっと……」


 ワールの名前を出すと、その青年は表情を曇らせた。

 既にヴェネドワに操られているのか――それとも、ただ言いにくいだけなのか。その表情だけでは判断ができない。


「僕は学校長から好きに調査してくれと許可を得ています。このバッジがその証だと思っていたのですが」

「……そうですね」

「じゃあ話してくれませんか。当然、秘密にしますから」

「…………」


 俺の言葉に、青年は少しの間沈黙を続け考え込んでいた。

 しばらくすると、どこか諦めたようにため息をつき、言葉を返してくる。


「ワール先生は……凄く暴力的な人でした。特に、僕みたいな男子学生には冷たくて……よく殴られました……」

「他にも殴られた人はいますか?」

「……皆ですよ。機嫌が悪くなると急に殴りだして……でも、逆らうわけにもいかないんです……僕達は落ちこぼれだから……」


 この魔法学校の生徒達は成績によってフロアが区分されている――

 そして、この地下階の雰囲気からすれば、地下階に区分される生徒達が殆ど結結界師になる見込みのない者なのだろうということはなんとなく察しがつく。

 落ちこぼれというその言葉は、ただの謙遜というわけではないのだろう。

 悲壮感に満ちたその表情が、ひしひしとそのことを訴えてくる。


「あの……ワール先生が、何か……?」


 ふと、俺が言葉を詰まらせていると、青年がおそるおそるといった様子で俺に質問を投げかけてきた。

 ――逆に気を遣わせてしまったのだろうか。


「すいません。今の段階では何も言えません。ワールと強い接点を持っていた生徒を知りませんか」

「接点……それなら、あの子たちとか……ですかね。ワール先生……あぁいう女の子にはべたべたしてたから……」


 その青年が指をさした方向には、たしかに彼の言う通り大人しそう少女が三人いた。

 机に向かい勉強をしているが――傍から見ても集中しているようにはみえない。何かに悩んでいることがすぐに分かる暗い表情だ。


「……分かりました。ありがとう」

「いえ……」


 青年に軽く会釈して会話を切り上げる。

 ひどく恐縮した様子で青年は何度も頭を下げていた。

 そんなにびくびくされると、次に話しかける女生徒達にも申し訳なく思ってしまう。


「すいません、いいですか」

「……え? ひっ――!?」


 案の定というべきか。

 俺が声をかけると、警戒心と驚きに満ちた表情で俺を見上げてくる少女達。


「少しお話しをしたいのですが……大丈夫ですか?」

「な、なんで……私、悪いことしてないです……!」

「…………」

「ぁ……」


 ――どうやら大丈夫じゃなさそうだ。

 だが、遠慮ばかりしていても調査は進まない。

 彼女達には悪いが、多少強引に質問を続けてみるとしよう。


「僕は今、ワールのことについて調べています。彼がこの学校でどんな言動をしていたのか貴方達は知っていますか」

「ワール先生……」

「っ――」


 ワールの名前を出すと、少女達の顔色が変わった。

 やはり、さっきの青年が言っていたことは正しかったのだろう。

 なるべく怖がらせないように、声が穏やかになるように注意して、ゆっくりと言葉を続ける。


「……学校長から許可は得ています。絶対に秘密にしますから、ワールがどんな人だったか教えてくれますか」

「っ……う、うっ……」

「ぐすっ……」


 ふと、俺が詰め寄ると、女生徒達の目から涙がこぼれてきた。

 ――内心、物凄く動揺する。

 だが、こういう時に俺まで取り乱してしまっては何も話ができないまま終わってしまう。

 なんとか平静を装って、冷静に言葉を紡いでいく。


「……何か嫌なことをされたんですか?」

「うぐっ……うっ……」

「うっ……」


 俺の質問に対して、さらに表情を曇らせる少女達。

 ――これ以上きくのは野暮だろう。

 ワールのあの態度だ。何をされたかぐらい察しがつく。


「……分かりました。では、ワールと仲の良かった人物について心当たりがありますか」

「アリエーナ……さん……」

「え?」


 意外にも即答する少女を前に、思わず頓狂な声が出た。


「ワール先生……アリエーナさんと……よく一緒にいて……多分、付き合ってるって噂が……」

「アリエーナって……副校長の人ですよね……?」


 俺の言葉に、首を縦に振る少女達。


「でも……私達……ワール先生が遊びたいからって……無理矢理……」

「……そうですか。もう大丈夫ですよ。ありがとう」


 ワールとアリエーナが付き合っていたかどうかは分からない。

 だが、少なくとも噂になるぐらい一緒にいたということは――



 ――嫌な予感がする。



 俺は、とんでもない隙を『ヴェネドワ』に与えてしまったのではないか――?

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