64話 こんなものっ――!!
「うああぁあああああっ!!」
アリエーナの放つ雷がさらに強くなってきた。
閃光が視界を埋めていく。
痛みはさらに強くなり、ペインインデュアをもってしても意識を保つのがやっとだ。
「くぅううううっ――づぁああああああああっ!!」
「はははははは! 無駄な足掻きをっ!!」
「あああああああああああああっ!!」
何度もアリエーナの体を剣で刺す。
「こんなもので――私はぁあああああっ!!」
「ん……? まだ動くのですか?」
それは動揺というより呆れに近いアリエーナの表情。
自分でも思う。なんて惨めで、なんて憐れに足掻いているんだろうって。
――でも、だからなに?
「こんなものっ――! 全然苦しくない、全然怖くないっ!!」
「っ――!?」
まだまだ――声が出せる程度には私の体は無事だ。
それならば、私のやることは一つ。
「ユウ様から貰ったものがあるんですっ!! もう私の命は、私だけのものじゃなく――ユウ様のものでもあるっ!! だから……こんなところで諦めて、死ぬわけにはいかないんですっ!!」
「なっ――ばかなっ――!?」
渾身の力を込めてアリエーナの胸に剣を立てる。
その瞬間、私の体の中から何かが溢れてくるような感覚がはしった。
直後、私の剣が虹色のオーラを纏う。
「なんだそのマナ……お前、まさか、人族じゃ――」
「やあああああああああああっ!!」
無我夢中で体を動かすと、私の体を虹色の光が包み込んだ。
まるで拳闘士が纏う気の鎧――練気のような光だ。
その光に導かれるようにアリエーナの腕を拳で打つと、あっけなく彼女の腕が私から払われた。
――ここだ。
「フォースペネトレーションッ!!」
なぜそう叫んだのかは分からない。
知らないスキルの名前。
でも、たしかに頭に浮かんできたそれを叫び、剣を前に突き刺す。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
ほぼ同時に聞こえてきたのはアリエーナの淀んだ声だった。
虹色のオーラを纏った私の蛇腹剣が一直線に伸び、アリエーナの体を壁に叩きつける。
その衝撃で壁が破壊され、アリエーナの体は遥か先まで吹っ飛んで行った。
「はー……はー……こ、このスキルは……一体……?」
剣士のスキルには、フォースピアーシングという剣を突くスキルがある。
今のスキルは、そのスキルを進化させたような――そんなスキルだ。
でも、こんなスキル――見たことも聞いたこともない。
なんでこれを自分が使えたのかもわからない。
「コ……ォオオオオオオオオオッ……」
ふと、不気味なアリエーナのうめき声で我に返る。
壁に空いた穴の向こう――広間のあたりで、アリエーナが黒い液体を吐いていた。
「バカな……不破の鎧が……我が王の……ウゲェエエエエエエエエ」
アリエーナの顔や腕が、ドロドロと溶けている。
だが、その溶けた体はゆっくりと再生しているように見えた。
――確信する。
やはり、アリエーナは人ではない。
ここでトドメをささなければ大変なことになる。
「さぁ……観念してください。私はまだやれますよ……」
首と胸は先のアリエーナの攻撃で焼き焦げ、大変なことになっているが……
こんな傷、戦闘奴隷として仕えていた頃に比べればまだマシだ。
「ンギィイイイイ――! そ、そウはイクカ……もはや、こうなッタラ手段は選バヌ……あのジジィをシメアゲテ、結界ノ……」
何やらぶつぶつと呟きながらアリエーナが歩き出していく。
急いで私も壁の穴に向けて走り出すと――
「待ちなさいっ! ヴェネ――」
「ウルさイっ!!!」
アリエーナがこちらに手をかざしてきた。
その瞬間、壁にあいた穴が塞がれた。
「な、なにこれ……うっ……!?」
壁の穴を埋めているのは、禍々しく脈をうつ黒い肉のようなものだった。
それに近づくと、物凄い疲労感と脱力感に襲われる。
「ウヘヘ……! やはりお前はヒトゾクに過ぎナイ……さっキのはイレギュラー……その力、完全にハ習得デキていないとみタ……ならバ、ここに閉じ込メるぐらいはデキル……ウヒェヒェ……」
「待ちなさいっ! 私はっ……貴方をっ……!!」
壁の向こうから彼女の勝ち誇った声が聞こえてくる。
「調子にノッタ人族ガ……! 魔の力ハ、いつもキサマラの先にある……!! お前は死ぬマデ、そこにいろ!! ウヒェヒェヒェヒェアヒィ!!」
「アリエーナッ!! くっ――」
――ダメだ。
意識が薄らいでいくのが分かる。
この穴を塞いでいる黒い壁が原因だろうか。
「このっ……」
壁の向こう側のアリエーナの気配が薄くなっていく。
急いで休憩室の入り口に移動し外に出ようとしたが――ダメだった。
扉を開けると、同じように黒い肉のような壁がみっちりと入口を塞いでいた。
……どうやら完全に閉じ込められたらしい。
「逃げられましたか……ユウ様……ごめんなさい……」
がっくりとその場で膝をつく。
敵には逃げられ、剣を握る力も全く湧いてこない。
でも……少なくとも、今すぐにアリエーナに殺されることはなさそうだ。
アリエーナも相当な傷を負ったに違いない。
それなら――
「ごめんなさい……でも……ここから先は……ユウ様にお任せしてもいいですか……? 私、本当に疲れちゃって……これじゃ、ただの足で……まと……」
意識が消えていく。
本当はもっと役に立ちたかったけど……
でも……ユウ様なら、きっと……




