63話 無駄ですよっ!
「ブラッドエッジ」
一気に距離を詰めてくるアリエーナ。
ローブの中から一瞬で剣を抜き私に振り下ろしてくる。
「っ――」
見た目は魔術師そのものなのに繰り出される攻撃は物理攻撃。
そのギャップに驚きはしたが、紙一重で回避することができた。
赤と黒のオーラを纏った剣が黒焦げになったベッドを切り裂く。
中の羽毛が部屋全体に飛び散り視界を塞いできた。
「ラウンドスレイッ!」
それを払う意味も込めて、私は蛇腹剣を円に薙ぐ。
何度も体を回転させ、鞭のように剣をしならせ、刃をアリエーナの首へ。
「甘いわっ! 小娘がっ!!」
私の連撃を完璧に受け流しつつ、距離を詰めてくるアリエーナ。
蛇腹剣を伸ばした隙をついてきたということか。
でも、自分のスキルのどこに隙があるかぐらい自分が一番よく知っている。
「やあああああああっ!!」
自分に迫ってきたアリエーナの顔面を左の拳で打つ。
多少無理して攻撃を放ったせいで剣を手放してしまったが、それに値する攻撃を与えられただろう。
「せぇえええええええええっ!!」
でも、相手もただでは終わらない。
のけぞりながらも私の頭に執念深く蹴りを放ちカウンターを狙ってくる。
互いに体術を打ち合い倒れ込んだ。
素早く武器を取り直して追撃へ。
「クロスプレッシャー!」
アリエーナと距離をとりながら十字に剣をきる。
その軌跡に黒い光が現れ、十字架となってアリエーナに襲い掛かった。
「エナジーバリア」
アリエーナが手を前にかざすと、透明がかった黒い壁がその前に展開された。
私のクロスプレッシャーを防ぎ不敵な笑みを浮かべている。
「ふむ……意外になかなかやりますね。私の強さは竜族に匹敵するのですが」
竜族は魔物の中でも最強種と呼ばれる存在だ。
でも、アリエーナの言葉は嘘ではないことは分かる。
なぜなら――今の私も、ユウ様のおかげで竜族に匹敵するレベルを持っているから。
「ブレイドロンド!!」
蛇腹剣を躍らせアリエーナに連撃を仕掛ける。
部屋の壁を切り裂きながらアリエーナの急所を狙う。
「ブラッディブレード!」
アリエーナが私の剣に、禍々しい赤のオーラを纏う剣をあわせてきた。
名前の通り、アリエーナの剣はオーラのせいで血濡れた刃に見える。
一撃、二撃、三撃――
中距離を保ちながら私の間合いをとりつづけることを意識する。
でも――
「くっ――っ!」
「ふふ……」
アリエーナは、私のスキルの威力が出る間合いを絶妙にずらし、剣のしなりに合わせて詰めてくるタイミングを変えてきている。
技術で負けているとは思えない。……でも、場所が悪かった。
ここは部屋としては十分な広さだが、戦闘のためのスペースとなると話は別だ。
私の蛇腹剣が得意とする中距離を維持し続けるための退路が確保できない。
それが分かっているからアリエーナは一気に距離を詰めてこない。
私が嫌がるタイミングで、じわじわと距離を詰めてきている。
「くっ……まだまだっ!!」
このまま蛇腹剣を伸ばし続けて戦っていても隙をつかれる距離まで詰められたらじり貧だ。
こうなったら、蛇腹剣の特性を押し付けるのではなく、真っ向から剣技で勝負するしかない。
「ソードアサルト!」
「っ――!?」
蛇腹剣を伸ばした攻撃と見せかけて瞬時に剣を戻し、こちらから相手へ接近。
テンポを乱されアリエーナの剣が空を切ったところへ突撃を仕掛ける。
渾身の力を込めてその脇腹に刃をねじり込ませた。
「ふふふ……随分と猛々しい表情をなさりますね」
「え――!?」
たしかな手ごたえを感じたのだが――アリエーナの表情は全く変わらない。
私が斬りつけた彼女の体からは、血ではなく異質なオーラが漏れ出していた。
「無駄ですよ。貴方が人である限り、私に勝つことはできない」
「どういうこ――!」
「相手が悪かったということです」
「かっ――」
アリエーナの手が私の首をつかむ。
攻撃は直撃したはずなのに――アリエーナは傷を負うどころか、衝撃すら感知していないようだ。
「我が王のため、ここで貴方には死んでもらう」
「王ですって――!?」
アリエーナが一瞬浮かべた恍惚の表情。
それにどんな意味があるのか考えるより前に――
「其に刻むは否定の烙印。消滅を命ずる呪いの証――」
「づっ――!? な、なにを――」
「ディナイアルスティグマ!」
アリエーナの詠唱と共にその手から雷が放たれた。
「うっ――うああああああああああああっ!!」
その雷は私の首を焼き焦がし激痛を与えてくる。
この痛みは、ゴンベルドンの前で逆らったときに奴隷紋が与えてきたそれと酷似していた。
――間違いない。この攻撃を受け続けていたら、私は死ぬ。
「ふははははははははははっ! これぞ我が王から預かりし宝具の力っ! 人族を滅し、人族を支配するための力の結晶!!」
私の悲鳴をききながら高らかに笑うアリエーナ。
あまりの激痛で意識が朦朧としてきた。
でもそれは、この戦いを諦めて良い理由にはならない――!
「ペインインデュアァアアアアアアア!!」
意識が闇に落とされないように、苦痛耐性のスキルを使う。
まずは首をつかまれたこの状態から逃れなくては。
こちらもアリエーナの首をつかみ、剣を胸に突き刺す。
「ハハハハハハハハッ、無駄ですよっ! 私の衣には、写しとはいえ我が王の力――『不破の鎧』のマナがこめられているっ! ゆえに人族の攻撃は無意味となるっ!」
「づっ――!?」
なんのスキルも使っていないこの攻撃が、相手のマナを貫いて心臓を刺せるなんて思っていない。
でも、アリエーナの体には傷一つつけられない。
ユウ様のエターナルフォースの影響で私の身体能力は上がっているはずなのに――
「さぁ、絶望しながら死に絶えなさい。下等生物があああああっ!!」




