59話 素晴らしいわ
塔の中は、全体的に蒼を基調とした開けた空間になっていた。
多くの人々が歩く中、ナギが俺達の前に立ち歩いていく。
ナギいわく、塔の中の光景は百年前とさほど変わらないらしい。
学校長がいる場所にも彼女は行ったことがあるようなので、ナギに続いて進むことにする。
「ユウ殿、こっちだ」
しばらくすると、アンティークな外観の装置の前にきた。
あまり見慣れないものだが、どうやらエレベーターになっているらしい。
「うわぁ……リリィ、こんな装置見たことないです……」
「無理はないさ。これは世界でも有数の魔術師が作成した魔道具だからな」
「へー……すっごいですねー……」
感嘆のため息を漏らすリリィ。
そのまま数分ほど待つと、エレベーターの扉が開いた。
中には誰もいない。
というか、ここまで大きなエレベーターがあるのに周囲には人気が全くない。
塔の入り口付近はあんなに人が集まっていたのだが――学校長に用がある者は数少ないということなのか。
――妙に違和感を覚えるのは考えすぎであってほしいのだが。
「ユウ殿、学校長がいるのは最上階だ。ボタンを押していただけないか」
「ん、あぁ……悪い悪い」
ふと、ナギの声で我に返る。
エレベーターのボタンの傍に立っていたナギが、俺に譲るように隣にどいた。
刻まれているルーン文字のようなものの意味は分からないが、一番上に金に輝く一見明らかに特別なボタンがあった。
それを押すと、ゆっくりと扉が閉まりエレベーターが動いていく。
「お、おぉー!? ぐぐーって……ぐぐーって!」
「あれ……?」
リリィとシエルはエレベーターに乗ったことがないのだろうか。
驚く様子を見せる二人は可愛らしくもあるのだが、シエルは耳を抑えていて辛そうにもみえる。
「シエル、大丈夫か?」
「えぇ、ちょっと違和感があっただけです。あはは……大げさですよ」
「それならいいんだけど……」
「本当に大丈夫です。ありがとうございます」
そう言いながら耳をピクリと動かして微笑んで見せるシエル。
――んー……やっぱりこの子、可愛い。
やっぱり猫耳って王道で絶対正義なんだよなぁ……
「コホンッ……そろそろだぞ」
なんてことを考えて呆けていたら、ナギが咳払いをして注意を促してきた。
ガタリという音とともに、ゆっくりとエレベーターの扉が開く。
大きな広間に出た。
その中央部分にある大きなソファに一人、二十代後半と見える女性が腰かけている。
艶やかな紫の長い髪。
大人びた顔つきによく似合う黒いローブ。
リラックスしたように姿勢を崩して本を読んでいるのに、目の前にいると自然と萎縮してしまいそうな高貴な雰囲気を放つその女性を前にして、俺だけではなく皆も自然と立ち尽くしてしまっていた。
「あら……貴方達、どちら様?」
そんな俺達に気づくと、その女性はひとつ会釈をして本を閉じる。
こちらに近づいてくる歩き方はファッションショーのスターモデルを彷彿とさせるようだ。
「ローダンの領主にて結界師であるセレンの使いだ。学校長との面会を求めたい」
「ご丁寧にどうも。私はアリエーナ。魔法学校の副校長をしています。それにしても、よくこの階まであがってこれたわね。素晴らしいわ」
そう言いながら、アリエーナはリリィを見てにこりと微笑んだ。
「……ふぇ? リリィ、何もしてないですよ?」
「でも現に貴方はここにいるじゃない」
「……???」
「まぁいいわ。謙遜につっこむのも野暮よね。ご案内いたします。ついていらっしゃい」
手招きをしながら歩き出すアリエーナ。
やたらと艶めかしく感じるその仕草も、彼女がするととても自然に見えてしまう。
「えっと……謙遜ってなんですかー……?」
彼女についていきながら、リリィがぼそりと話しかけてきた。
たしかに、さっきの彼女の言動は俺もよく分からない。
「あの装置はボタンを押した者の魔力を測る機能がついている。十分な魔力がなければ、この階にたどり着くことはできない」
「そうだったんだ……」
なるほど。たしか、エレベーターを動かす時、ボタンの近くにいたナギがわざわざ俺にボタンを押させていたっけ。
あの時は特に何も思っていなかったのだが、そういう理由があったのか。
「こちらですよ。どうぞ」
しばらく歩くと、アリエーナがこちらにそう言いながらこちらへ振り返ってきた。
オフィスビルでも見ないような大窓に、人が十人ぐらい並んで座りそうな大きな机。
その向こう側に、白髭を生やした老年の男性が座っている。
「おや……何かね……」




