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56話 もっと知りたい

 ――日が完全に落ち、月が周囲を照らすようになった頃。

 俺達は、馬車を停め、道中で休むことになった。

 シャララドには、馬車を使っても明日の夕方以降に着くことになるらしい。


 ずっと御者台で手綱を握っていたナギと魔法を使って魔物を撃退していたリリィは疲れていそうだったので、見張りは俺が行うことにした。

 一人で馬車の外にある適当な岩に座り、心地の良い夜風に当たりながら背伸びをする。


「なんか、色々あったなぁ……」


 ついこの間まで、会社で無能な社会人として働いていたのに今ではゲームみたいなファンタジー世界で美少女たちと旅をしている。

 今でも夢なのではないかと思ってしまうが――この現実感がそれを明確に否定してくる。



 ――これから、どうなるのかなぁ……



 シャララドに行って、ヴェネドワの存在を突き止めたとして――

 また何か戦いに巻き込まれることになるのだろうか。


 それに、俺をこの世界に転生させたエルナという女神も気になる。

 エターの言葉によれば、この世界で会うこともあり得るとのことだが――



「……ユウ様」



 と、一人であれこれ考えていると、シエルの声が後ろから聞こえてきた。

 ネグリジェにローブをはおった格好で俺のことを見つめている。


「あれ、シエル……どうしたの?」

「えと……」


 せっかく俺が見張りをしているのだから気にせず眠ればいいのに。

 シエルの複雑そうな表情をみると、そうはいかないのだろうと簡単に察しがつく。


「眠れない?」

「……正直に申し上げますと、そうですね……ユウ様をおいて眠るなんて、ちょっとできなかったです」

「本当にいいのに。シエルにはゆっくり休んでほしいよ」

「……分かっています。でも、私も同じ気持ちです。ユウ様にこそ、ゆっくり休んでほしいです」


 そう言いながら苦笑いを浮かべるシエル。

 そこまでいじらしい台詞を真っ向から言われると、こっちも気恥ずかしくなってくる。

 うまく言葉を返すことができないでいると、シエルがくすりと笑って俺が座っている岩を指さしてきた。


「横、いいですか?」

「ん……もちろん。きて」


 少し体をずらしてシエルが座れるスペースを作る。

 そっと俺に体を預けるように座ってくるシエル。

 そのまま、もふもふの白い尾を俺の腰に巻きつけながらそっと俺の肩に顔を寄せてきた。


「……えと、どうしたの?」

「いえ、その……特になにもないのですが……お嫌でしたか……?」

「そんなわけないけどさ」

「えへへ……」


 ぎゅっとシエルが俺の腕を抱きしめてくる。

 ――可愛い。思わず押し倒したくなるぐらいの愛らしさだ。


「ユウ様……」


 だが、しばらくするとシエルの表情がシリアスなものに変化する。

 俺のことをじっと見つめるシエル。――何か俺のことを洞察してくるような表情だ。


「ん? どうしたの」

「私……ユウ様が……ユウ様のこと……」


 シエルの小さな手が、俺の胸にそっと触れる。


「その……もっと知りたい、です……」

「え?」

「貴方は――何者なのか。本当のことが知りたい……」


 ――その言葉は、シエルの中で本当に悩んで出されたものなのだろう。

 眉をひそめて、本当に申し訳なさそうにシエルが言葉を続ける。


「……ごめんなさい。でも、私……過去の貴方のことも、ちゃんと知りたくて……」

「えっと……」

「詮索になることは分かっているんです……でも、でも……私は、貴方のことを知らないといけない気がするんです……」

「……なんで?」

「ごめんなさい……うまく言葉にはできないです。でも、なんだか――」


 言葉を詰まらせながら、シエルが俺の頬に触れてくる。


「その……貴方が孤独そうに見えたので……」


 ――シエルは、本当に俺を想ってくれているのだろう。

 そうでなければ、こんなにも心配そうな――不安げな表情ができるはずがない。


「……ごめんなさい。私もなんでそんなこと思ったのか分からないのですが……でも……」


 しばらくすると、シエルは苦笑いをみせながら手を離す。

 だが、シエルは俺から目を逸らさない。

 俺の中に入り込んでくるかのように、シエルの視線は俺をじっととらえている。


「どうしてもひっかかるんです。ユウ様が昨日、自分のことを『何の取り柄もない人間だった』と仰っていたことが。ユウ様の昨日の……あの表情が」

「シエル……」

「その……昨日は、ちょっと、私が我を失っちゃったので……聞きそびれちゃったんですけど……」


 顔を赤くして恥ずかしそうにどもりだすシエル。

 ――まぁ、シエルは……Sのようだから。

 スイッチが入ってしまうとどうなってしまうのかは昨日思い知らされたので深堀はしない。


「なんで……なんでユウ様がそんなことを言ったのですか? その力がありながら、なんで……!」


 シエルが、強く俺の手を握りしめてきた。

 何か悲壮感に満ちたような、シエルの必死な表情。

 そんな彼女を前にしたら――俺ができることなんて一つしかない。


「……こんな力なんてなかったからだよ」


 それはもう、正直に俺のことを話すことだろう。


「なかったんだ。ちょっと前の俺には」

「どういうこと……ですか……」


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