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55話 任せて下さいっ

「獰猛たる炎よ。我が命をきけ。我こそは万象を操りし主の力の代行者――」


 シャララドに向かう道――

 草原を進む中、リリィの可愛らしくも冷たい声が響く。


「其の姿は灼熱の輪。弱者を伏せる無慈悲の刃。荒れるその身に魔力を宿し――いざ、薙ぎ払え!」


 小さな体に似合わない大きな杖を天に掲げる。

 そして――


「プロミネンスリング!!」


 リリィの声と共に、巨大な炎のリングが前方にいくつも放出される。

 その炎は、俺達の馬車に向かってくる魔物達を一瞬の間に飲み込み、その姿を消失させた。


 ――まさに一撃必殺。

 御者台にいるナギが苦笑いを浮かべながらリリィを見上げる。


「凄まじい……ここまでの威力を持つ魔法は……見たことがないな……」

「えへへ……ユウさんの魔法の方が強いですけどね。でも、リリィもこんな魔法みたことないですっ!」


 照れ笑いをみせながら振り返ってくるリリィ。

 あざといと思えるほど可愛らしい表情だ。


「ユウさんっ! 見てくれましたか!? リリィ、皆やっつけましたー!」

「あぁ、ちゃんと見てたよ。凄いな、リリィ」

「えへへー……ユウさんに褒められるの、すっごく嬉しいですっ!! えへへーっ!」


 しかし、ここまで無邪気に喜ばれると、ついつい頬が緩んでしまう。

 気が付くと、俺は引き寄せられるようにリリィの頭を撫でていた。


「あっ――」


 その瞬間。

 リリィの顔がまるで沸騰でもしたかのように一気に赤くなった。

 そして――


「うっ、うわあああああああっ!!」


 それはきいたことのないような奇声だった。

 裏返った声のままリリィがわたわたと慌てだす。


「ユ、ユウさんっ! 大変ですぅっ!!」

「えっ――ど、どうした?」

「体が……なんか体が熱くなって……熱く……うわぁあああっ!?」


 そう言いながら、俺から距離をとって頭を抱え込むリリィ。

 大げさとも思ったが、その様子を見て、俺はある情報を思い出した。


 潜在的に頭に撫でられることに対する強い憧憬あり――前にリリィに使ったオールアナライズで得られた情報だ。

 おそらく、リリィは誰かに褒められるということが極端に少なかったのだろう。だからこういったことに対して免疫がないのかもしれない。


「……くすっ、面白い方ですね。リリィさんは」


 そんなリリィに対して、シエルが穏やかな笑みを浮かべている。

 どこか余裕のある――まるで、リリィの姉のような表情だ。

 見た目はまだまだあどけない少女なのに、それに似合わない大人びた表情に、思わず見とれてしまう。


 ――まぁ、といっても俺も女の子の頭をいきなり撫でるのはやりすぎたかな。


 シエルとのイチャラブ経験が俺の感覚を麻痺させているのかも……


「……シエル殿、少し雰囲気が変わったようだな」


 と、ナギが怪訝な表情で話しかけてきた。

 それに対し、頓狂な声で答えるシエル。


「え、そうですか?」

「あぁ。どこか余裕があるように見える」

「ふふっ――ナギさんにそう言われるのは光栄です」

「ふむ……ユウ殿、進んだな?」

「え――えぇ……え? え???」


 余裕があると言われた矢先――シエルの顔が一気に赤くなる。

 それは年相応の、子供っぽい表情でみているとおかしくなってしまった。

 それはナギも同じだったのか、苦笑しながら話を逸らす。


「まぁいい。深くはきかないのが礼儀だろう。それよりもシャララドのことなのだが――」

「あ、そういえば! これからのこと全然話してなかったですよね!」


 ふと、リリィがはっと息を呑んだ。

 そう――ローダンを出てからというものの、馬車に揺らされる感覚が気持ちよくて眠ってしまったり、遭遇した魔物を倒したりの繰り返しで、シャララドについてからのことを俺達は全く話していなかった。


「シャララドってどういうところなのか、リリィよく知らないんです。皆さんは知っていますかー?」

「私は奴隷だったので行ったことはないですね……」

「俺もないな……ナギは?」

「行ったことはあるが……私の時代は百年前だからな。ただ、セレンから話はきいているから安心してくれ。シャララドの役割自体は昔から変わっていないようだしな」

「役割っていうと……ガルダーザ山脈の結界のこと?」

「それもあるが、結界師の養成学校があるのだ。セレンも数年前まではその魔法学校の特別講師をしていたらしい。あのワールという男は、もともとシャララドの魔法学校に通っていてセレンから懲戒退学されたようだ」

「なるほど。でも、なぜ今になってワールがローダンに来たのですか?」

「事情は分からないがワールは魔法学校の講師になっていたらしいな」

「えー!? 退学になった学校の先生になったんですか?」

「あぁ……理由は分からないがな。ワールは自分の力が認められたからだと頑なに主張していたようだが……」

「――ヴェネドワが絡んでいる可能性があるってことか」


 可能性がある――とは言ったものの、状況的にその疑いはかなり強いといえるだろう。

 ナギの表情にはやや緊張があらわれている。


「じゃあ、シャララドの魔法学校を調べれば何か手がかりがあるかもしれないですね」

「あぁ。魔法学校の校長に対して調査の委任状も預かっている。聞き込みぐらいなら自由にできるだろう」

「わぁー! 聞き込みですか! なんだか正義の騎士団みたいですね!!」

「ははは、リリィはやる気だな。頼もしいよ」

「任せて下さいっ! リリィ、ユウさんがくれた力がありますから! 絶対お役に立ってみせますよー!」


 意気込みを見せるリリィの表情はとても愛らしく見ていると和む。

 だが、その反対に俺は少し緊張していた。


 ヴェネドワのことを突き止めたとしたら何が起こるか分からない。

 でも。戦闘になることはほぼ間違いないだろう。



 つまり――俺達は人が住む安全地帯に行くのではなく。

 得体の知れない者が姿を隠している、敵の本拠地にいくことになるということだ。


「……あぁ、頑張ろうな」


 さて、エルドラーリアの次は、どんな敵と戦うことになるのやら……

 エルナがいう『どうせ滅びる世界』がどんなものなのか――挑ませてもらうとしよう。

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