53話 私の全てを……
気づけば、俺は再びシエルに唇を塞がれていた。
さっきよりも強く抱きしめられている。
さっきよりも深く舌が潜り込んでくる。
「んぷっ……ぜぇっ……はぁっ……」
息をするのも忘れて俺のことを求めていたのだろう。
しばらくすると、シエルは絶え絶えな息をしながら俺に体を預けてきた。
「だ、大丈夫か……? 別に俺は逃げないよ」
「えぇ……そうですね……はぁっ……はぁっ……」
――正直、今度は俺がシエルを求めたくなったのだが。
息を荒くしている今のシエルに無理をさせるわけにはいかない。
抱きしめながら、何度か背中をさすってシエルの息を落ち着かせていく。
そうして一分ぐらいが経った頃――
「ユウ様……多分、こうしてゆっくりできることって……これからどんどん少なくなってきますよね……」
「え、そうかな?」
「はい。ユウ様は……色々な人に求められるでしょうから。実際に、今回の件もそうだったではないですか」
「そうかな……」
「そうですよ。自覚がないんですか?」
ない――と言えば嘘になる。
実際、オールアナライズの情報を見てしまったわけだし。
「だから……ユウ様は色々な人に囲まれて……リリィさんや、ナギさんのような綺麗な人もたくさん……だから……だんだん……」
そう言いながら言葉を濁らせるシエル。
――もしかして、俺がシエルから離れていくと心配させてしまっているのだろうか。
だとしたら、それはとても寂しいし――そんなふうに想ってほしくない。
「なぁシエル――俺とシエルは付き合っているんだよな」
「え……そう、ですね……」
俺の言葉に、きょとんとした顔を見せるシエル。
「だから私、幸せですよ……こんなに幸せでいいのかって恐くなるぐらい……」
「いいんだって。俺まで恐くなるだろ。シエルはいつか俺から離れるつもりなのか」
「え……? なんでそんなこと言うんですか?」
怪訝な顔で俺を見下ろしてくるシエル。
どう言葉を選んでいくのが正解なのかは分からないが――こういう時は素直に話すのが一番だろう。
「俺は……今まで恋人なんてできたことなかったんだ」
「…………」
俺の言葉に、シエルは何も答えない。
じっと俺のことを見つめたまま、言葉を促してくる。
「俺がもといたところでは……俺は何の取り柄もない人間だったから。だから……」
「…………」
表情を変えず、じっと俺のことを見つめてくるシエル。
そんな彼女の頬に触れながら、ゆっくりと言葉を続ける。
「俺の言っている意味が分からないならそれでいい。今は違う。どんな形であれ、シエルを守る力が俺にはある」
「っ……」
「だから一緒にいてくれ。これからも……シエルは、俺が初めて好きになった……俺を初めて好きになってくれた女の子だから……大切にするから……」
最後は、どこかすがるような言葉になってしまった。
なんでそんな言葉になったのか、俺にもよく分からない。
だが、シエルは何か察したように優しく微笑むと、俺に顔を近づけてくる。
「……くすっ、ユウ様もそんな顔するんですね」
「え――」
幼い子供をあやすように、ぴたりと額をくっつけてくるシエル。
「何か焦っていませんか? 私、そういうつもりで言ったわけじゃないですよ」
「焦ってる……俺が……?」
「うーん……正直にお話ししますとよく分からないですけど。でも……大丈夫です。私、貴方から離れたりしませんから」
「…………」
優しく俺を見つめるシエルの目を見て、ふと自分の感情を振り返る。
この世界に来たことで人並外れた力を持たされたとはいえ、もとの俺はただの無能な凡人だ。
もしかしたら――俺は自信がないのかもしれない。
この力がなかったら、シエルが俺を好きになる要素なんてないんじゃないかと。
はっきりと言語にしたわけではないが――シエルはそんな俺の内心を半ば見透かしているのだろう。
「ユウ様の力は……ユウ様の優しさは、これからユウ様を忙しくする――それ以外に他意はありません。もし忙しくなっても、私がユウ様と一緒にいれることも分かっています。ユウ様が私を大切にしてくれていることも痛いぐらい伝わっています……でも、貴方を独占できなくなるのは、少し寂しいですね」
「え、なんで……」
「なんでって……リリィさんもナギさんも、ユウ様のことが好きですよね?」
「えっ――」
それはどうか――と言葉を返すことはできなかった。
実際に、俺は彼女達の内心をアナライズしてしまったのだから。
「だから……こうして二人だけでベッドで寝る機会は減ると思います」
「そんな――でも……」
「いいんです。ユウ様は私が独占するような人ではありません。むしろ、貴方がいろんな人に愛されるのは私も嬉しい。でも……今、貴方の隣には私しかいないから……それなら……」
シエルの顔がさらに近づいてきた。
もう一度キスをするのかと思いきや――ギリギリのところでシエルは顔を近づけるのを止めてきた。
かわりに、俺のズボンへと手を伸ばし――
「最後まで……私の全てを……ユウ様に貰ってほしい……」
「っ……それって――」
言わなければ分からないのですか――と言いたげに苦笑するシエル。
その視線は、いつものシエルからは信じられないほど、情熱的で、熱いものだ。
「……違いますね。私が……私が欲しいのです……貴方のことが……」
その瞳を見ているとだんだんと理性が崩壊してくる。
そして――
ミッドナイトノベルでシーンを追加したものを掲載予定です。




