51話 他意はないっ!!
ワールの体が氷漬けにされてからというもの、ヴェネドワの声はきこえてこなくなった。
どうやら脅威は去ったらしい。
もっとも、部屋のありようは散々で、ワールに付き従っているメイドは混乱のあまり気絶してしまっているが……
「あ、あのあの……! リリィ、もしかしてこの人を殺しちゃったのですか……!?」
そんな混沌とした状況を前にして、リリィが慌てた様子をみせている。
真っ先に思い浮かぶのが敵の心配とは――彼女もなかなかにお人よしだ。
とにかく、今のワールの状態について調べてみるとしよう。
「オールアナライズ」
ワールの氷像の前に、光の幕が現れる。
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名前 ワール・ローアス
性別 男 年齢 28 レベル 80
現在の状態 瀕死。失神状態
状態異常 <フリージアローズ>
全ての行動不能。継続してダメージを受ける。
時間経過により解除。ただし、現在の体力では解除前に死亡
<カースブラッドエンゲージ>
レベル上昇。レベル100以下の魔族のスキルを使用可能。
術者の命令により自我を奪われる。理性の減退。
適性クラス 魔術師
適性スキル 火・地属性の攻撃魔法
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なるほど。どうやらこの氷像は状態異常に属するものとして扱われるらしい。
状況から見るに、カースブラッドエンゲージなるものがヴェネドワがワールにかけていたスキルと考えるべきか。
「……死んでないみたいだけど、このままだと死んじゃうな」
「そんな――! ユウさん、ど、どうすれば……!!」
「大丈夫だよ。状態異常ならなおせるから。ホーリーブレッシング」
エメラルドと淡い青の光がワールの氷像を包み込んでいく。
すると、みるみるうちに氷像が溶けていき、露出したワールがぐったりと地面に倒れ込んだ。
体力をかなり消耗しているようなので、一応ヒールもかけてみる。
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名前 ワール・ローアス
性別 男 年齢 28 レベル 40
現在の状態 失神状態
適性クラス 魔術師
適性スキル 火・地属性の攻撃魔法
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オールアナライズによって表示された光の幕から読み取れる情報も変化が生じている。
とりあえず安心してよさそうだ。
「これで大丈夫です。お二人は大丈夫ですか?」
「うむ……傷はない」
「私も大丈夫よ。シエルさんにリリィさん――それにナギも。皆、本当に強いのね」
セレンの言葉を受けて、三人はどこか照れくさそうに微笑み返す。
「ごめんなさいね、ナギ。再会を喜ぶつもりがとんでもないことになっちゃって」
「セレンが謝ることじゃない……それより、体は大丈夫なのか」
「えぇ。貴方達が何かしてくれたの?」
疑問形ではあるが、既に確信を得ているような表情だ。
まぁ……さすがに皆の力を見た後だとそうなるか。
とはいえ、話すと結構長くなる。どう伝えたらいいものか――
「はい。実は彼らは――」
そんなことを考えていると、レイグが代わりに今までのことを話してくれた。
ガルダーザ山脈を侵食していたエルドラーリアのこと。
エルド―ラリアがミラ・エルツとナギを復活させ、ナギを操っていたこと。
そのナギを解放し、俺達がエルドラーリアを倒したこと――
「……そう。エルドラーリアが……」
その全てを聞き終えると、セレンはふっと目を閉じた。
「信じられないかもしれないが――本当のことだ。私は見たのだ。ユウ殿が魔王を相手に完封していたところを……」
「……信じるに決まっているでしょう。貴方とこうしてお話しできている時点で、もう私の常識が通用しないことは分かっているわ」
どこかおそるおそるといった感じで話すナギに対して、セレンは優しくほほえみかえす。
「……すまない、セレン。私は、ローダンの同胞達を……」
「ふふ、そうね。じゃあ私が謝っといてあげる。あの世でね」
「そんな――私はっ――!」
どこか泣きそうな表情になって手を刺し伸ばすナギ。
すると、セレンは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「あらあら。そう本気にしないでくれる? どうやら――私、まだまだやれるみたいだから」
「どういうことだ……?」
「昨日から随分と体の調子が良いのよ。多分……私が結界にマナを送るのと同時に、エルドラーリアのマナが私のことを侵食していたのだと思うわ。それを私、老衰だと勘違いしていたみたい」
「ということは――」
リリィがはっと息をのみこむ。
「私、まだまだローダンの結界師としてやっていけそうってことね」
「わぁー! それじゃあ、本当にハッピーエンドじゃないですか!」
「ふふふ。そうかもしれないわね。それにしても……」
無邪気にはしゃぐリリィに向かって、微笑み返すセレン。
だが、すぐに表情を曇らせて、倒れているワールに目を向けた。
「ワール……なんて愚かで……救われない子なの。ここまで道をあやまってしまうとは……」
「……なんでこの者を弟子にしようとしたんだ?」
ナギの言葉は、皮肉でもなんでもない――ただ純粋な、疑問に満ちた声で紡がれている。
苦笑しながら言葉を返すセレン。
「ふふ……そうね。でも、この子もかわいそうなところはあるのよ。剣の才能も魔力の才能も半端で……皆から認められたかったのよ。それでこの子の罪が消えるわけではないけれど、この子だけを責めても根本的な解決にはならないわ」
そう言いながら大きくため息をつくセレン。
「……相変わらず甘いのだな。セレンは」
「そう? でもナギはそういう人が好きでしょう? 彼からも同じような雰囲気がするのだけれど――もしかして」
「なっ――! 私は、ユウ殿に命を助けてもらった恩があるだけだ。他意はないっ!!」
上ずった声で答えるナギを見て、セレンがわざとらしく口角をあげる。
「あら、あらあらあらあらあら」
「なっ――なんだ……」
「へー……そう。貴方もそんな顔をするようになったのね。良い出会いに感謝を。ユウ君、本当にありがとうね」
「話をきけっ! そういうんじゃないっ!!」
ナギがここまで動揺する姿を見たのは初めてかもしれない。
ぶっちゃけ、オールアナライズにそれらしき情報が書いてあったので、あながち的外れではないのかもしれないが――
とりあえずスルーしておこう。それがナギのプライバシーのためだ。
「……ユウ君、だったわね。貴方には随分とお世話になったわ。ありがとう」
「えぇ、まぁ……」
ナギをからかっていたセレンだったが、それも飽きたのか。
しばらくすると、セレンは表情をもとに戻し俺に視線を移してきた。
「それで――こんなことをいうのはとても申し訳ないのだけれど……新しくクエストを受けてくれないかしら」
「ヴェネドワについてですか?」
俺の言葉に、こくりと頷くセレン。
「そう……ヴェネドワの口ぶりからすると、人ならざるものがシャララドにとけこんでいた可能性が高い……ワールの事情聴取は、ローダンのギルドが責任をもって行うわ。おそらくはシャララドに手がかりがあると思うから、そこに向かってほしいの」
「分かりました。シエル――」
俺としても、このまま手をひくのは後ろ髪をひかれるというか、後味が悪いと思っていたところだ。
レイグの依頼もひとまず達成したことだし、シエルが良ければセレンのクエストを受けてようと思ったのだが――
「はい。ユウ様の仰せのままに」
わざわざ私に確認するのは野暮ですよ――そう言いたげに微笑むシエル。
それならば次の目的地は決まりだ。
シャララドに行って、ヴェネドワの手がかりを探しに行くとしよう。
「事務的な手続は私に任せてくれたまえ。君が不自由しないよう、宿も手配しておく」
「そうね――今日はローダンでゆっくりされるといいわ。その間に、レイグと話をつけておくから」
「分かりました。じゃあ、お言葉に甘えますね」
だが、今日ぐらいはゆっくり休んでもいいだろう。
また明日から忙しくなるようだし――シエルとの時間をゆっくり過ごさせてもらうとするか。




