表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/80

46話 何を今更――!!

「あー……また転生者、来たの? めんどくさいなぁ……」


 聞き覚えのある声がした。

 年端もいかないような、あどけない少女の声が。


「え……」


 ゆっくりと目を開く。

 真っ先に視界に飛び込んできたのは、蒼い壁だ。

 水色の線路が、まるで機械の回路のような模様となって奇妙に刻まれている。

 そんな無機質な部屋の中に、俺は大の字になって寝ていた。


「あれ……君は……」


 体を起こして前を見る。

 大きなソファに一人の少女が寝そべっていた。

 金髪の長い髪に小柄な体。

 この無機質な部屋にぴったりの、なんの飾り気もない灰色のローブ。

 見た目は十代半ばといった感じか。なんともロリロリしい美少女だ。

 そしてその美少女を俺はみたことがあった。


 ――間違いない。俺を異世界に飛ばした女神だ。


「えーっと……あんたの名前は……あれ? 朱谷 悠って――」


 気だるそうに書類を見る女神の目が俺をとらえる。

 すると、彼女は目を大きく見開いて飛び上がるように体を起こした。


「……!? な、なんでここにあんたがいるのよっ!!」

「それは――」


 うまく言葉が出てこない。

 俺はさっきまでシエル達と話していたはずだ。

 俺の方がそれをききたいぐらいだ。


「まさか、また死んだわけ? ――ん?」


 ふと、女神が目を細めてじっと俺のことを見つめてきた。

 少しの間、体を動かさず俺のことを見続ける女神。

 しばらくすると、怪訝な表情で口を開く。


「……どういうこと? あんた……ただ眠ってるだけね」

「え……?」

「なに? 自分の状況も分かっていないの? それなのに、ここにアクセスしてきたわけ?」


 首を縦に振る。

 女神は、呆れたようにため息をついてきた。


「本当に状況が分かってないみたいね……じゃあ、自分がアルカターナに転移したことは覚えてる?」

「え……あぁ。覚えていますよ」

「そう。あんたの体は、その世界に飛ばされた。そこで眠りについたことは覚えているかしら」

「はい……」


 エルドラーリアを倒し拠点に戻った後、シエル達と話して――意識が途切れたのを覚えている。

 半目で俺を見つめながら、女神は気怠そうに言葉を続けた。


「理屈は分からないけど、あんたの精神は神界にアクセスできるみたいね。そんな力、転移者にはないはずなのに。」

「そうなんですか」

「心当たりはないわけ? 例えば――アルカターナでの生活に嫌気がさして逃げ出したいと思ってた、とか」


 どこか馬鹿にするように口角を上げ、女神が俺に問いかけてくる。


「特にないです。でも――」


 異世界に転生してから、俺は自分にオールアナライズをかけたことがある。

 その時に、彼女のものと思われる言葉の記録を見たことがあった。

 だが、それが原因で俺の精神が勝手に女神のところまで飛ぶなんてこと――ありえるのだろうか。


「なに? 最後まで言ってくれる? いらつくんだけど」


 自問自答していると、女神が若干声を荒げてきた。


「すみません……エルナさん、ですよね」

「っ――!?」


 明らかな動揺。

 数秒の間をおいて、ゆっくりと声を出す女神。


「え? なんであたしの名前を知っているの……?」

「俺に残っていた残留思念に名前が記録されていたので……」

「はぁ?? まさか、あたしの残留思念を解析できたっていうの!? 人間のくせに??」


 解析なんてだいそれたことをしたつもりはないのだが。

 女神――エルナは、顔を強張らせながら俺のことを見つめている。


「どういうこと……いくら転移者でも、そんな力……」


 と、手元の紙束に視線を移し、なにかを読み始めるエルナ。

 しばらくすると、エルナは青ざめた表情で俺のことを見つめてきた。


「……嘘、なにこいつ。……マジ?」

「どうしたんですか?」

「あんた……エルドラーリアを倒したの?」


 ――そんなことも分かるのか。さすがは女神だ。

 とりあえず頷いてみると、エルナは震えた声を出してきた。


「嘘でしょ……あの世界の魔王の一柱を……しかも、こんな短期間で……こんな力、人間じゃありえない……ありえたとしても、この適合率を誇る人間を上神がこっちにまわすなんてありえない……」

「少しはやる気がでてきたかい。エルナ」


 ――ふと、背後から聞こえた声で振り返る。

 壮年の男性だ。白装束に身を包み神々しい雰囲気を漂わせている。

 彼もまた神なのだろうか。


「エターッ! あんたの仕業ねっ!!」

「睨むのはやめてくれ。これでも、適合者を探すのには苦労したんだ」

「……ふざけないでよっ!!」


 急にエルナの声が荒くなる。

 今まで気怠そうにしていたのとはうってかわり、今にも襲いかかりそうな獣のような荒々しさだ。

 だが、エターと呼ばれた男性は穏やかな表情を浮かべたままだ。


「ふざけてなんかいないさ。私は、君に救われてほしいんだ」

「何を今更――!!」

「これを見ろ」


 エターが手をかざすと、その空間に大量の魔法陣が展開される。

 光の粒子が、紙束のような形をもって連なっている。

 どうやら何かの情報が記録されているようだ。


「ここ数百年の君の態度に対する懲戒歴だ。転生者へのサポートの適当さ……これでは、今の君の地位は剥奪されてしまう」

「ハッ――あんたが神になれって誘ってきたんじゃない。随分勝手な話ね」

「そうかもしれないな……だが……」


 悲しそうに顔を伏せながらも、エターは落ち着いて言葉を紡ぐ。


「君は私の娘に似ている。世界を愛し、神に絶望し、狂ってしまったあの子と……」

「はぁ? なに言ってんの?」

「だが……あの子は変わった。救われたのだ。一人の転生者によって」

「…………?」


 その言葉の意味は、俺だけじゃなくエルナにも分からなかったのだろう。

 深刻そうなエターの表情とは裏腹に、エルナの様子はどこか呆けたものになっていた。


「エルナ。君も救われるべきだ。君のやってきた努力は、報われるべきなんだ」

「うるさいっ!!今更――! 今更期待させんなっ!!」


 その声は震え、涙声になっていた。

 エルナの体の周りに青白い閃光が現れる。


「もうこれ以上――あたしを絶望させるなああああああああああああああっ!!!」


 エルナが腕を振り払うと、その閃光は稲妻に姿を変えて俺達に襲い掛かってきた。

 それに対抗しようと身構えると、エターが俺の前に出た。


「やれやれ……今は話が通じそうにないな。場所を移すか」


 そう言いながらエターが腕を振り上げる。

 黒い穴のようなものがエターの前にあらわれた。

 ふと、エターが俺に振り返ってきた。


「君も来なさい。今の彼女とは話しても無駄だ」


 ――たしかに。

 俺にどんな力があるのかは不明だが、理由も分からずにいきなり神と戦うなんてやってられない。

 彼の方がうまく話ができそうだし、情報を得るためにもここはついていくべきだろう。


「分かりました。では――」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ