44話 全部見せますから!!
「あっ、見えてきましたっ! やっとゴールですよっ、ユウさんっ!」
周囲も暗くなってきたころ――リリィが、唐突に明るい声を出す。
見覚えのある小屋がいくつか見えてきた。どうやら、行きにたどりついた拠点にたどり着いたらしい。
「随分歩いたな……皆、大丈夫か」
肉体的な疲れは感じないものの、既に日本にいたころの俺からすれば信じられないほどの距離を歩いている。
俺にはトークスキルなんてないし、無言のまま数時間を歩いてきたのもあって、今更ながら皆のことが心配になってきた。
「はい。全然疲れていないです。むしろ、すごく楽ですよ」
「私も体に異常はないが……しかし……」
半分呆けたような表情で話すシエルとナギ。
その様子だと、本当に疲れているのか気をつかっているだけなのかよく分からない。
それに、エターナル・フォースの影響がどういうものなのか……何も判明していないのだ。
「もぅ、結局助かったんだからいいじゃないですか! リリィも凄く体が軽くて、なんだかすっごく気持ちがいいですっ! さすがユウさんですっ!!」
リリィの声色からすると、本当に体に異常はないのだろう。
それならばよいのだが――なぜか嫌な予感がするのだ。
「む……リリィ! 戻ったか!!」
と、しばらく進むと拠点の方からレイグの声が聞こえてきた。
それをきいて、リリィがはねるように前へと走っていく。
「お父さん! やりましたよっ! ユウさんが魔王を倒してくれましたっ!!」
「あぁ……やはり、そうだったのか。周囲の黄金が消えていったからやってくれたのかとは思っていたが……」
――そういえば、そうだった。
エルドラーリアを倒した後の帰り道には、不自然な黄金色は完璧に消えていた。
三人のことばかり考えていたとはいえ、こうも露骨な変化に気づかないとは……少し恥ずかしい。
「ありがとう、ユウ君。実に素晴らしい功績だ。君がいなければどうなっていたことか……何からなにまで助けてもらって申し訳ない」
「お互い様ですよ。でも、さすがにもう暗いですし下山は明日でもいいですよね? ちょっと疲れたんで今日は休みたいのですが……」
肉体的な疲労はないのだが、三人のことを考えすぎたのか少し頭が疲れている。
まだ日は完全に落ちていないが、少し眠りたい気分だ。
「もちろんだ。よくやってくれた。この拠点には宿泊設備も整っている。ゆっくり休んでくれ」
そう言いながらぎゅっと俺の手を握りしめてくるレイグ。
「……そういえば、他の騎士団の方はどちらにいかれたのですか?」
「ん、あぁ……あれからこの拠点にも何回か魔物が襲撃してきてな。皆、それぞれ休んでいるよ」
「えぇっ!? 大丈夫なのですかーっ!?」
「手持ちのポーションは切れていない。皆の体力は十分だ」
「それならいいのだが……」
ほっと溜息をつくナギ。
エルドラーリアは彼女を襲うためにここ周辺の魔物を配下にしていた。
その魔物に人が襲われていたことに対して、彼女なりに思うところがあったのだろう。ナギもシエルと同じぐらい真面目な性格のようだし。
「しかし……リリィ……何かあったのか?」
「え? どういうことですか?」
ふと、レイグが投げかけた問いかけに、リリィはきょとんとした顔を見せる。
「いや……気のせいかもしれないが、リリィの雰囲気が違っているように見えてな……」
「あー……それは……」
少し気まずそうに俺に視線を移すリリィ。
俺から見ると、行きの時とリリィの雰囲気は変わらないのだが――さすがは父親といったところか。
「えっと! ユウさん、疲れているんですよね! お部屋、ご案内しないとっ!」
「あ、あぁ……そうだな。あの小屋を使うといい。あの小屋は地下階が建設されていてな。なかなか居心地が良いぞ」
「助かります。じゃあ……」
だが、何がおきたのかなんてリリィはおろか、俺にすらよく分かっていないのだ。
今はただ、休むことだけを考えるとしよう――
†
「うわ……ひっろ……」
俺が案内された小屋の地下には、まるでホテルの客室のような空間が広がっていた。
レイグいわく、俺が帰ってきた時のためにゆっくり休んでもらおうと他の騎士達はここにはいないらしい。
拠点というだけあってそれなりの設備はあるだろうと思っていたが……これでは、まるで観光施設のようだ。
「私の時代には、こんな拠点はなかった……時代の変化を感じるな」
「ここなら十分に休めそうですね。ユウ様」
「そ、そうだな……」
逆に綺麗すぎて緊張してしまうぐらいだ。
あの過酷な登山道の近くにある拠点とは到底思えない。
とにかく、近くにあったソファに腰をかけてみた。
「ユウ殿、それで……」
すると、ナギが向かい側に座り込み俺のことを見つめてきた。
それに続いて、シエルとリリィもナギの隣に座り俺に視線を送ってくる。
「……分かってる。今の皆のことだよな」
俺の言葉を受けて、ゆっくりと頷くナギ達。
「リリィ……なんとなく分かるんです。あの時、ユウさんがナギさんを助けた時につかったスキル……あの光を見たときから、とてつもない力が体の中にあって……」
「私もです。明らかに私のマナとは異質なものが体に入り込んできて……体中に染みわたっていったような……」
「この感覚は、エルドラーリアの黄金の呪いを受けたときのものと同じだ。もっとも、エルドラーリアのマナと違って、とても穏やかで……心地の良いマナだがな」
「そうか……」
それは褒められているのだろうか。
よく分からないがどうにも照れくさくて皆の顔をうまく見ることができない。
すると、リリィがぐっと体を前倒しにして俺の顔をのぞきこんできた。
「あの……ユウさん、リリィのことをアナライズしてくれませんか」
「え――」
アナライズとは――もしかしなくても、俺が前に使ったオールアナライズのことだろう。
「む? ユウ殿は鑑定士なのか?」
「そういうわけじゃないけど……でも、アナライズはできるみたいなんだ」
「なんでもできるのだな……」
「あはは……ユウ様ですからね」
「なるほど。たしかに」
何がたしかになのだろうか。
物凄く納得したような笑顔で俺のことを見つめてきているがうまく言葉が返せない。
「それなら、是非アナライズを頼みたい。ユウ殿のスキルの影響をどう受けているのか……私は知らなければならない」
「えっと……でも、皆のプライバシーが……」
「そんなの今更ですよ! リリィ、ユウさんなら全部見せますから!!」
胸を張って高らかに宣言するリリィ。
だが――多分、リリィは俺の言う問題を認識していない。
前に彼女をアナライズしたら性癖なんてものも開示されてしまったのだから。
「……私も、頼む。今私がどうなっているのか、知っておきたい」
「わ、私も……お願いできますか。ユウ様……」
ふと、ナギとシエルが訴えるような目つきで俺のことを見つめてきた。
――これはもう、変な情報を見たとしても墓場まで持っていくしかない。
どちらにせよ、エターナル・フォースの影響がどのようなものか調べるにはこれしか手段がないのだから。
「分かったよ。じゃあリリィからな。オール・アナライズ……」
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名前 リリィ・エルレッド
性別 女 年齢 14 レベル 120
状態異常 エターナル・フォース
ユウ・アカヤの習得しているスキルのうち、適正のあるスキルを強制習得する。
ユウ・アカヤの能力に応じてステータスに上昇補正。
ユウ・アカヤがマナを供給することを止めると死亡。
ユウ・アカヤが死亡すると死亡。
適性クラス 剣士 魔術師
適性スキル レベル100以上のスキル
下級剣技 基本魔法の適性無し。
不適正スキルを使うと威力・詠唱力・集中力が低減
現在の心理状態 平穏
信頼ランク 尊敬・敬愛
ストレス状況 特になし
恋愛経験 ユウ・アカヤに対する初恋の兆候。自覚なし。
処女。慢性的な劣等感。
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