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43話 褒めてつかわす……

 何か策があったわけではない。

 ただ自分を奮わせるために反射的に吐いた言葉。

 でも、ナギをこのまま放置して死なせるのは絶対に嫌だ。

 こんなものは、俺が好きな異世界ファンタジーじゃない。


 何か見落としがあるはずだ。

 ナギを救うためのフラグ――それを俺は見つけているはずだ。

 何の根拠もないが、とにかくそう思い込んで今までの情報を思い返していく。



 ナギが黄金の呪いのおかげで命をつなぎとめることができていたのだとしたら――



「俺にもできないかな……黄金の呪い……」

「え――?」


 リリィがきょとんとした顔で俺のことを見上げてくる。

 そう――今までの経験からすれば、俺はあらゆるスキルを使うことができる。

 そして、そのスキルの名を口にすれば勝手にスキルが発動した。

 だからエルドラーリアの黄金の呪い――その真のスキル名を知ることができれば、この状況はどうにかなるかもしれない。


「でも……今までは勝手にスキル名が思い浮かんできたよな……」

「ユウ様……?」


 怪訝な顔を浮かべるシエルを横に思考を整理する。

 そう――シエルの奴隷呪術を解除する時も、リリィをアナライズした時も、俺がその状況で欲していたスキルの名が勝手に頭に思い浮かんできた。

 でも今はそうじゃない。この違いはなんだ?


 とりあえず、考えられそうな可能性をあげてみる。

 黄金の呪いはエルドラーリアのみが使うことができる特殊なスキルだった――なるほど、たしかにあり得そうだ。もしそうなら俺にはどうすることもできない。

 でも、そうだと確定していない以上、考えることを放棄するわけにはいかない。

 他に考えられそうな原因はないか――?


「スキルの発動に何か特殊な条件が必要だとか……」

「ユウ様……? 一体何を……」

「ごめん、シエル。ちょっと考えさせて」


 今の俺の思考を言語化して皆と共有するのは無理がある。

 焦る心を必死に落ち着かせ、深呼吸をしながら今までのやりとりを思い出していく。

 エルドラーリアの台詞の一つ一つ。出会った時から、全てを――


 そして、俺の頭の中に浮かんだエルドラーリアの台詞は――




『愚かなりっ! 余の槍の真の威光は、白にあらず! 余の力の根源――セージ・ストーンの力をみよっ!!』



「セージ・ストーン……!」



 思わず、声に出して叫んでしまった。

 力の根源――たしかにエルドラーリアはそう言っていた。

 そして、その言葉の直後には、あの赤い球が輝いていて――


「ナギ! 本心をきかせてくれ! 君はまだ生きたいよな?」


 咄嗟に、ナギの肩をつかんで叫ぶ。

 朦朧とした様子で俺のことを見上げてくるナギ。


「え……?」

「死にたいわけじゃないんだろ!!」

「う……私、は……」


 もう彼女の目の焦点はおぼつかない様子だ。

 だが――ナギはたしかに、俺に向かって頷いた。


「だったら! 俺はこんな結末を認めない――!!」


 それさえ確認できれば十分だ。

 急いで倒れているエルドラーリアのもとへと駆け寄る。

 胸の部分に埋め込まれた赤い球。

 それに触れた瞬間、頭に電流が走ったような感覚に陥る。

 そして――



「エターナル・フォースッ!!」



 考える間もなく、頭に浮かんだ言葉を口にした。

 その瞬間、手に触れた赤い球が虹色の光を放ち――


「なっ――!?」

「ユウ様っ、これは――」

「うわああああああああっ!?」


 周囲を全て覆いつくした。

 背後から、皆の悲鳴が聞こえてくる。

 何がどうなっているのか分からない。

 あまりの眩しさに意識を失いそうになる。


「くそっ……何が起きた……」


 しばらくして、段々と弱まってきた光の中、改めて状況を確認する。

 俺が触れた赤い球は虹色に変色しており、そのグラデーションは波のようにゆらいでいる。

 まるでオーロラが中に入っているかのような不思議な色だ。


「うあっ……ああああああっ!!」

「ユウ様っ――づっ、ううう……」

「あああああああああああああっ!!」


 ふと、皆の悲鳴で我に返る。


「皆っ!!」


 急いで振り返る。

 三人がうずくまり、その体は虹色の光で包まれていた。


「お、おいっ! 大丈夫かっ!!」


 急いで三人のもとへと駆け寄る。

 意識はしっかりしているようだが明らかに様子がおかしい。

 だが――


「あ……う……」

「…………」

「はーっ……はーっ……」


 しばらくすると、彼女達を包んでいた虹色の光は、体に吸い込まれるように消えていってしまった。


「なんだ……これは……何が起きた……?」

「ユウ様……私……」

「バカな……私は、なぜ……」


 呆気にとられた様子で自分の手を見つめるシエルとナギ。


「な、なにこれ……リリィ、こんな力……わわ……」


 リリィは目をきょろきょろと泳がせながらちらちらと俺のことを見つめている。


「どうした? 大丈夫なのか?」

「大丈夫ですけど……ユウ様……今、何をしました?」

「どういうこと?」

「感じたことのない凄まじい力を体の中に感じます。これは、ユウ様の……?」

「私もだ……こんなにも体に気が溢れているのは初めてだ……」


 さっきまでの苦しそうな表情は完全に消え、ナギはただただ呆けている。

 ――どうやら、うまくいったようだ。勢いあまって、ナギだけじゃなくシエルとリリィにも『黄金の呪い』がかかってしまったようだが。

 だが、彼女達は黄金どころか、何色にも染まっていない。まぁ、これが俺流の『黄金の呪い』ということなのだろう。


「余と……同じ力を振るうか……」

「っ――!?」


 ふと、背後からきこえてきたかすかな声に、体が震えた。

 勝手に死んでいたと思っていたが――まだ息があったらしい。

 改めて警戒をしながら倒れたエルドラーリアに近づいていく。


「セージ・ストーンの力を振るいし王は……死の理すら超え、他者に加護を与える……加護を受けし者……命を掌握されること引き換えに……王の力の一端……その写しを得る……」

「それがあんたの『黄金の呪い』の正体か」

「どう呼ばれていたかは、余の知るところではない……」


 たしかに『黄金の呪い』というのは人が使っていた通称にすぎない。

 エルドラーリアがそれを知らないのも当然か。


「矮小なる……族よ……セージ・ストーンをもってしてなお……測ること叶わぬその力……」


 エルドラーリアの腕が僅かに上がった。

 その凶器のような爪が俺の手に重なる。


「褒めてつかわす……誇……るが……いい…………」


 その直後、ずっしりとした重みが手に伝わってきた。

 首無しの鎧が軋む音がした。



「今度こそ、本当に……」



 エルドラーリアは動かない。

 改めて首のあたりを見てみる。

鎧は空洞になっていた。


「……帰るか」


 俺がそう呟くと、皆強張った表情のまま頷き返してきた。


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