42話 ふざけるなっ!
「倒した……よな……?」
頭部を失い、壊された彫刻のように地に伏したエルドラーリアに近づく。
鎧の中がどうなっているのか気になって見てみると、中は真っ暗になっていた。
ゲームのグラフィックで、通常は見えない部分をのぞいた時のような黒一色。
本当にさっきまでこれが動いていたのかと疑いたくなる。
だが、鎧の中は謎の黒で染まっており空洞にはなっていない。その中には確かにエルドラーリアがいるのだろう。
「……ゴ……ォ……」
ふと、金属がこすれるような音とともに、鈍い声が周囲に響く。
戦えるような状態ではないにせよ、その鎧はたしかに意思をもった生命体に動かされていた。
「嘘だろ……頭がないのに、まだ……」
なんとなく予想はしていたものの、現実にそれを見るとやはり驚かざるを得ない。
首無しの状態で這うように動く黄金の鎧。
だが、さすがにもう戦えるような――というか、生きていけるような状態ではなさそうだ。
近づいてくる最期の時に抗うように這うエルドラーリアを見ていると、自分でやったことながら憐れに感じてきてしまう。
「ユウ様……私達は……」
「あぁ、離れていてくれ」
とはいえ、万が一エルドラーリアが力を取り戻したら大変だ。
皆には近づかないように合図を送る。
「矮小なる族よ……余を……屠るか……」
「エルドラーリア……」
最初にあった時よりも、かなり弱々しい声でエルドラーリアが語り掛けてくる。
その声色は、どこか優しさすら感じるようなほど穏やかなものだった。
「フ……真に愚かたるは余の方か……万魔を統べし力を超えたその力……この世界のものなれや……」
「……人に害をなさないと約束するなら、助けるぞ」
自分でもなんでそんなことを言ったのか分からない。
だが、明確に自我をもった命が死にゆく様を見るのは――少し辛かった。
「笑止。余は魔の王。その在り方を否定して生にすがる愚行など……万死より受け入れ難し……」
「あくまでお前は人に敵対するのか」
「王に二言なし……余は王として、ここで消える……」
「……」
その覚悟については、敵ながらあっぱれと言うべきなのだろうか。
複雑な感情だ。純粋にエルドラーリアを憎むことはできないし敬うこともできない。
ただ、俺がエルドラーリアの命を終わらせたことは確かなことで――
今更ながら改めて実感する。
ここは異世界なのだということを。
「ちょっ――ナギさんっ!? どうしたんですかっ!?」
ふと、リリィの張り詰めた声がきこえてきた。
その鬼気迫った声色はただごとではない。
「……が……あ……」
「ナギ!?」
急いで振り返ると、胸を押さえて膝をつくナギの姿が目に入った。
息は荒れ、顔は真っ青になっている。
急いで彼女の下へ駆け寄った。ヒールをかけてみるが様子に変化はない。
「なんで……どういうこと……?」
「動じることはない。ユウ殿……」
強がりながらも不敵に微笑むナギ。
明らかに無理をしているような表情で、ナギは胸を押さえながら言葉を続ける。
「私はミラ・エルツとの戦いで既に死んでいる……この命は、エルドラーリアのマナが繋ぎ止めたものだ……エルドラーリアが死すれば、私も……」
「そんな……でも、黄金の呪いは解呪できたんじゃ……!」
「あぁ……おかげで自我はとりもどせた……だが、私の命をつなぎとめたのはエルドラーリアのマナだ……ユウ殿は優しいからな……おそらく、私を救おうとしたその気持ちが……私にエルドラーリアのマナが供給されることを見過ごしたのだろう……でも、それも……」
そこまで言われれば俺だってわかる。
俺がエルドラーリアを倒したことで、ナギの中にエルドラーリアのマナが供給されなくなった。
それは、彼女にとって――
「嘘だろ……いつからそのことを知ってたんだよ……」
ナギの言葉はあまりに具体的だ。
そうなることを分かっていたとしか思えない。
ナギは、エルドラーリアが倒されれば自分も死ぬことを分かっていたのだ。
「さぁな……だが、エルドラーリアが倒れた今……私の命もここで終わる。それは避けられぬ運命だ……」
「ふざっ――ふざけるなっ! なんでそれを言わなかったんだよ!!」
俺がそう叫ぶと、ナギは困ったように苦笑する。
「……やはり、ユウ殿は優しいな。いや――甘いというべきか」
「え――」
「エルドラーリアを倒すことで私が消えるとなれば……ユウ殿はここまで来なかっただろう」
「そんなの――」
当たり前だ――と言いかけてやめた。
それがナギは何も言わなかった理由なのは明らかだ。
ローダンを脅かす魔王を倒すために、ナギは何も言わなかったのだ。
自分が死ぬと分かっていても。
「私は……この手で幾人もの人を殺した血濡れの剣士だ……情けをかけるに値しない」
「でも、それは――!!」
自嘲するように微笑むナギに向って叫ぶ。
「これでいいのだ。私は既に死んでいる。もとの在り方に戻るだけだ……」
「そんな……! シエルッ……!!」
なんでそんなことをしたのか分からないが、気づけば俺はシエルへ縋るように手を向けていた。
彼女を救う方法が思いつかない。ヒールをかけても意味はなく、この状況を打開できるようなスキル名にも心当たりがない。
だが――差し出した俺の手に、シエルは悲しそうな目で首を横に振るだけだ。
当然だろう。俺だって何もできないのだから。
「ナギさん……」
「そんな……リリィ、何もできないのですか……」
二人の目からは涙が零れていた。
ナギとは出会ったばかりだが――そんなことは関係ない。
ただ何もできず、死んでいく仲間を見つめることしかできない無力感。
「おい……ふざけるなよっ! こんなところで……」
「ふふ……ユウ殿も……皆も……甘すぎる……私のために涙を流す必要などない……私は、もともと死んでいるのだから……」
そう言いながら俺の手を払うナギ。
覚悟を決めたように顔を伏せ、うずくまる。
「いや――まだだっ! 諦めてたまるか!」




