41話 あっけなかったな
「行くぞ、エルドラーリア。ワンパンで沈んでくれるなよ」
「愚かなり。驕りもその域たるや、才と認めん」
エルドラーリアの体から、黒いオーラが放出される。
輝かしい黄金には似合わない、淀んだ黒の光。
その中から現れたのは、この柱と見間違うほどの巨大な黒い槍だった。
「矮小なる族よ……万魔を創造せし余の力……その一端を拝するが良い。その命と引き換えに」
金属がこすれるような甲高い音とともに、槍の先が俺に向く。
「うわぁああっ!? なんですか、あのおっきな槍―!!」
「リリィさん! ユウ様にお任せすれば大丈夫ですっ!! それよりも、目の前の敵を!」
「あわわ……ご、ごめんなさいぃーっ! えーと、えーっと……ヒートストライクゥ!!」
若干、リリィが不安だがダメージディポートがあるから大丈夫だろう。
それよりも、まずはこの黒槍をなんとかしなければ。
「ニグレド・ランス・ダークネシア」
両腕を掲げるエルドラーリア。
手に持ったものを振り下ろすような動作で、腕を払う。
それと同時に、黒槍が稲妻のような光と轟音を纏いながら俺に向かって飛んできた。
「なるほど。かっこいい技だな。俺もこういうの使ってみたいよ」
「――!?」
人差し指をたてて、向かってきた黒槍に向ける。
黒槍が俺の指に触れた瞬間、凄まじい轟音と衝撃波が生じた。
俺に向かってきたエネルギーを問答無用に止めたことの反作用のせいだろうか。
エルドラーリアが立っていた階段は、その後ろの壁ごと崩壊し広間に大きな穴を作った。
「でもちょっと威力が低いな……もう少し強いのを見せてくれよ」
「痴れ者がっ――!」
ナチュラルに上から目線で話すヤツは煽り耐性がない。
それは元の世界もこの世界でも共通することのようだ。
「アルベド・ランス・ライトニング!」
「おっ――」
俺の指で止められた黒槍が真っ白に変色し、ドリルのように回転しはじめた。
その周囲に大量の光の粒子をまき散らしながら、俺の体を貫こうと勢いを増し始める。
だが――
「はは……おいおい、ちゃんと殺す気で来てるか?」
「……!?」
結局、状況は変わらない。
見た目の派手さとは裏腹に、エルドラーリアの槍は、俺の指の薄皮一枚すら剥がせていない。
「解せぬ――! 余の力を受けてなおっ――!」
「アンタさ……人のこと、なめすぎだよ。この程度の力でよくも『矮小なる族』なんて言えたもんだな」
「ぬっ――!?」
まぁ……俺のこの耐久力は、あの女神がくれた力なのだからあんまり大きな顔はしたくないのだが。
このぐらい堂々としていた方が、後ろで戦っている皆も安心できるだろう。
それに、エルドラーリアも相当動揺しているようだ。
フルフェイスの鎧のせいでエルドラーリアの顔は分からないが、明らかに声色が変わっている。
「愚かなりっ! 余の槍の真の威光は、白にあらず! 余の力の根源――セージ・ストーンの力をみよっ!!」
エルドラーリアの胸に埋め込まれた赤い球が再び輝きだす。
「ルベド・ランス・ノヴァフレアッ!!」
今度は、槍の色が赤へと変色していった。
槍が再び激しく回転し、その周囲を螺旋状が取り巻いている。
「っ――!」
さすがに油断しすぎたか。
槍そのものは指で止めることができても、炎の動きまでは止められない。
「ユウ様ああああああああっ!!」
視界が炎に埋め尽くされた瞬間、シエルの叫び声が聞こえてきた。
うまく周囲が見えない。この炎は周りの皆も巻き込んでいるのだろうか。
だが、三人にはダメージディポートがかけられている。
シエルには心配をかけてしまって申し訳ないが、特に焦る必要はないだろう。
それよりも、この炎から抜け出さなければ。
「よっ――」
まずは指を押し出してくる槍を手でつかみ、その回転を無理矢理止める。
そのまま腕を前に振り下ろす。
物凄い衝撃音が聞こえてきた。
しばらくすると、炎の勢いが衰えてくる。
エルドラーリアの大槍が溶けるように消えていく様子が見えた。
「なっ――!? これはっ――!?」
「よっ、満足したか。魔王様」
「ユウ様っ!!」
炎が完全に消え、視界がもとに戻ってきた。
それと同時に、シエルが俺のもとへ駆け寄ってきた。
やはり、俺の体にはダメージがない。
「ユウ殿……まさか、無傷なのか……?」
「リリィ……わ、わけが分からないです……」
振り返ると、灰と化したアンデッドの横で呆然と立ち尽くすリリィとナギの姿が目に入った。
どうやら皆は無事らしい。
「なにゆえ……余は、余の……」
「さて――魔王様。今まで散々やってくれたんだ。覚悟はいいな?」
今度はこちらの番だ。
例え魔王が相手でも不必要にいたぶる趣味は俺にはない。
一思いに、一撃で勝負をつけてやろう。
「ばかなっ――」
「フロストスピア!」
手を振り上げると、氷の槍が現れた。
エルドラーリアが投げてきた物に比べれば小さな槍だ。
でも――
「貴様ぁああああっ! 余に刃を向けるその蛮行、万死に――」
「やぁっ!!」
「ガッ――」
エルドラーリアが何かを言うその前に、氷の槍で頭を貫いた。
「ッ……矮小、ナル……ゾク……ガ……ナ……ゼ……」
歪んだ声をあげるエルドラーリア。
だが、しばらくすると、エルドラーリアは小突かれた人形のようにばたりと後ろに倒れてしまった。
「す、凄い……! 凄いですよっ! ユウさんっ!!」
「まさか……魔王を相手にここまで完封するとは……」
「……ユウ様っ!」
緊張の糸が切れたのだろうか。
皆の目には、うっすらと涙が浮かび上がっている。
「ははっ、あっけなかったな。でも皆……お疲れ様」
エルドラーリアはもう動かない。
これでローダンの危機は、ひとまず守れたのだろうか。
念のため、エルドラーリアが本当に死んだのか、確かめてみるか――?




