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37話 行ってきますよ

 ナギの言葉に、皆の顔に緊張がはしる。


「バカな……魔王の手が、ここまで来ていたというのか……」

「…………」


 レイグの顔は完全に真っ青になっていた。

 剣を握りしめる手は僅かに震え、ナギに向けられた殺気も消えている。


「だが、効力が弱くなったとはいえ、ガルダーザの大結界は人類の英知の結晶だ。魔の力を強く有する者ほど、その存在を強く拒絶する。そこで、エルドラーリアは半魔の配下を作ることで、結界を内側から破壊しようと考えたのだ。人であれば、結界師に接触することも可能だからな」

「それって……まさか……」

「――それが私だ。かつてミラ・エルツを封印した場所で眠っていた私を蘇生させ『黄金の呪い』をかけた。私はエルドラーリアの傀儡として、魔王の尖兵になったのだ」


 エルドラーリアの黄金の呪い――それが、この周辺を染めていた黄金の正体だということか。


「でも……貴方は、魔物も攻撃していたのでは……?」

「私も無抵抗だったわけではない。残った力を使い『黄金の呪い』に逆らい、結界内へ逃げ込んだ。そこで、エルドラーリアは、私の意識を完全に奪うため、結界の影響を受けないような弱い魔物にも『黄金の呪い』をかけ、私を襲わせた」

「だから君は血濡れの剣士になったのか……」


 なるほど。それならばたしかに今までのことも合点がいく。

 金に染まった狼の魔物が暴れ回っていたのは、そういうことだったのか。


「しかし……血濡れの剣士か……ふふ、たしかに、今の私にはふさわしい二つ名だな……」


 そう言いながら自虐的に微笑むナギ。


「事情は分かった。だが、今の君の変わりようはどういうことだ? 『黄金の呪い』がとけたのか?」

「それは私にも分からない。ユウ殿に魔法をかけられたのは覚えているのだが……」

「……そうか。また君が」


 それだけ言うと、レイグは納得したように頷いて苦笑する。


「もう一つきこう。山頂にいたあの竜も、エルドラーリアの配下なのか?」

「あぁ……あれは、かつて封印されていたミラ・エルツが復活したものだ。だが、あの竜は魔の力が強すぎて結界を超えることができなかったようだな」

「なるほど……だが、それも時間の問題か……」


 深刻な表情をみせるレイグに、ナギが眉をひそめる。


「……どういうことだ?」

「セレン様はもう140歳だ。いつ老衰で亡くなられてもおかしくない」

「そうか……セレンはまだ頑張ってくれていたのだな……やはり、そう簡単に後継者は見つからないか……」

「む……やはりセレン様を知っているのか」

「もちろん。セレンと一緒に、私はミラ・エルツと戦ったのだから」

「っ――」


 そういえば、セレンと別れる際に『ナギ』という名前を彼女が言っていた気がする。

 それはともかく――


「……なるほど。じゃあ、俺、行ってきますよ」

「む? どこへ行く?」


 ナギが命を落とした相手であるミラ・エルツ。そしてその竜ですら配下にしてしまうという魔王――エルドラーリア。

 そんな奴らが、今まさに結界を破ろうとすぐそばにいるとなったら――もう、やることは一つしかないだろう。


「山頂です。エルドラーリアでしたっけ、そいつを倒さないと平和にならないんでしょう?」

「っ――!」


 俺の言葉に、驚愕の表情をみせるレイグ。


「バカなっ! よせっ!! 『黄金の呪い』の前では――いくら強くても意味がないぞっ!!」

「でも、ナギにかけられた『黄金の呪い』は解呪できたっぽいですよ。大丈夫だと思うんですよね」

「思うんですよねって……君はこの状況が分かっているのか?」

「はい。このまま放っておいたら、ここら辺は魔界になるってことでしょう?」

「それは――」


 悔しそうに唇をかみしめるレイグ。

 そう。彼だって状況が最悪なのはわかりきっているはずだ。

 ただ、それに抗うには、普通ではない力――チートが必要なわけで。

 それなら、もう俺がやるしかないじゃないか。


「それに、このままじゃナギの問題だって解決しないでしょう? ずっと黄金の魔物に襲われ続けてしまう。そんなの残酷じゃないですか」

「ユウ殿……貴殿は……」


 目を丸くしながら俺のことを見上げてくるナギ。


「だから――全部倒してきますよ。エルドラーリアも、ミラ・エルツとかいう竜も。そして皆でローダンに帰りましょう」

「本気で言っているのか……?」

「はは、もちろん」


 冗談で言うことではないことは俺にだって分かる。

 そもそも、こんな殺伐とした雰囲気はそんなに好きではない。

 さっさと終わらせてシエルとイチャラブな時間を過ごしたいというのも本音だ。


「……そうおっしゃると思いましたよ、ユウ様なら。私もお供させてください。必要はないとおもいますが――貴方のこと、護らせていただきます」

「シエル……」


 そんな俺の下心とは正反対の純粋な表情を見せてくるシエル。

 色んな意味で恥ずかしくなって目線を反らすと、リリィがぐっと俺の服を掴んできた。


「リ……リリィもっ! リリィは……そのっ……」

「あぁ。皆で行こう。俺達は仲間だからな」


 俺のバックには神がいるのだ。

 少し傲慢にふるまうぐらいが、この殺伐とした雰囲気には丁度いいだろう。


「ユウ君……君は……」

「大丈夫ですよ。今まで俺が負けたことなんて、ないでしょう? ってことで、行ってきますね」


 シエルとリリィに目配せして、部屋の扉に歩き出す。

 すると――


「……待ってくれ」


 ナギがゆっくりと体を起こしてきた。

 どこか思い詰めた表情で俺のことを見つめている。


「私にも……行かせてくれ……」

「……大丈夫なのか? 少し疲れているみたいだけど」


 ヒールをかけたので、俺の技で受けた傷は癒えているはずだがナギの顔色は少々悪いようにみえる。

 だが――


「頼む……私は……」


 言葉を詰まらせたまま俺のことを見つめてくるナギ。

 ――まぁ、たしかに色々と思うことはあるのだろう。

 彼女にとって因縁のある敵のようだし、ここで連れて行かないというのも逆に酷な話か。


「分かったよ。よろしくな」


 そう言ってナギにむけて手を差し出す。

 すると、ナギはきょとんとした顔で首を傾げた。


「どういうつもりだ……?」

「握手です。私達は、仲間でしょう?」

「あ、リリィも! リリィもっ!」


 俺に続くように手を差し出すシエルとリリィ。


「……仲間、か」


 自分の手を何度か開閉して、ふっと微笑むナギ。

 そして――



「あぁ……貴殿らの背中は、私が守ってみせよう。よろしく……頼む」


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