表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/80

36話 気が付いた?

 もとの場所に戻ってから一時間ほどが経過しただろうか。

 俺は、レイグに案内された小さな小屋の一部屋で、眠っている血濡れの剣士を見張っていた。


 外では無数の騎士団達が金の狼の死骸を片付けている。

 シエルとリリィはその手伝いをしている。

 怪我を負った者はそれなりにいたようだが、死者までは出なかったらしい。

 レイグが精鋭と呼ぶだけのことはある。



「んっ――あぅ……」



 と、血濡れの剣士がうめき声を上げながら寝返りをうった。

 僅かに開いた目の奥に、アメシストのような綺麗な紫の瞳がある。

 その瞳は、少しの間をおいて俺の顔を向いてきた。


「気が付いた?」


 そう声をかけると、血濡れの剣士はこくりと頷く。

 やや呆けた様子だが意識はたしかなようだ。

 じっと俺のことを見つめている。


「……ここは?」

「君が襲いかかってきた場所にあった小屋だよ。あそこは騎士団の拠点だったんだ。覚えていない?」

「……覚えている。だが……あぁ……また私は……」


 少し悲しそうに眉をひそめ、目を閉じる。


「……でも、なぜ……? 私の意識が……こんな鮮明に……」

「大丈夫か? 寝てていいぞ。ここは安全だからさ」

「安全……か……貴殿が言うのであれば、そうなのだろうな……」


 どこか複雑な表情のまま、再び目を開けて儚く微笑んでくる少女。

 ――こうして落ち着いて見えると、血濡れの剣士もなかなかどうして可愛らしい。

 シエルと並べて愛でたいぐらいだ。


「……俺の名前は朱谷 悠だ。よろしくな」

「あ、あぁ……よろしく頼む……」


 名前を伝えると、彼女は少し動揺した様子で頷いてきた。

 待っていても彼女は何も話そうとしない。

 しかたなく、俺はもう一度少女に話しかけることにした。


「えっと……君の名前を教えてくれないか?」

「あぁ……ナギ・フィーリアだ」

「ナギさんか。よろしく」

「呼び捨てでかまわない。私の命は、既にユウ殿のものだ」

「そ、そう……じゃあよろしくね、ナギ」

「…………」


 ナギは、俺の顔を不思議そうにじっと見つめている。

 他意がないのは分かるのだが、美少女に見つめられるのは少し照れくさい。

 シエルと一緒にいたおかげで態度に出るほど動揺はしなくなったつもりだが――


「ユウ殿は……凄腕の剣士なのだな」


 と、ナギはふっと笑って俺に話しかけてきた。


「はは、そっかな」

「あぁ。私もまだまだ未熟な身なれど……私の奥義が全く通用しない者に出会ったのは初めてだ。それも黄金の呪いの力もあったのに……」


 ナギの言う奥義とは、最後に見せた『乱レ散レ々レ六花繚乱』のことだろう。

 たしかに、あのスキルをまともに受けていたら――俺はともかく、シエルとリリィは間違いなく殺されていただろう。

 

「……君のことをきいていいかな」

「もちろん。だが、どこから話せばいいのやら……」


 ゆっくりと体を起こすナギ。

 ――おそらく、色々なことがあったのだろう。

 俺も何からきいていいのかよく分からない。

 どうしたものかと考え込んでいると――



「では、なぜ君が『血濡れの剣士』になったのか――人魔を問わず、襲い掛かるようになった理由からきかせてもらえないか」



 背後から男の声が聞こえてきた。


「レイグさん……」


 鋭い表情のレイグ。

 その後ろには、やや緊張した様子のシエルとリリィがいる。

 部屋の中だというのに、レイグは剣を抜いている。

 今にも戦闘を開始しようとしているかのような殺気だ。


「すまないが武器は抜かせてもらうよ。失礼を承知で言うが、君を保護したのは私の本意ではない」

「承知している。そちらのお二方も構えてくれて結構だ」


 一方のナギは、とても穏やかな表情を浮かべている。

 まるで死を受け入れているかのような、儚げな笑顔すら浮かべて。


「リリィは大丈夫です。このままお話をききますよ」

「私も……まずは、貴方を信じてみようと思います。それに――ユウ様もいますから」

「……そうか。やはり、ユウ殿は信頼されているのだな」


 そう言いながら、ナギが俺に微笑みかけてくる。

 照れくさいので黙っていると、ナギは一呼吸おいてゆっくりと話し続けた。


「では早速話すとしよう。私は、かつて白竜ミラ・エルツを封印し、命を落とした剣士だ」

「なんだと――? ミラ・エルツが封印されたのは百年以上前のことだぞ。君はどうみても……」

「あぁ。私の肉体年齢は16歳だ。ミラ・エルツと戦ったときに命を落としたからな」

「…………」


 皆が絶句する。

 では、目の前にいるナギは一体なんなのか。


「あのー……でも、ナギさんは生きていますよね……?」

「今の私を『生きている』と言っていいのかは分からないが……肉体は活動している。エルドラーリアのおかげでな」

「ばかなっ――エルドラーリアだと!?」


 と、レイグが声を荒立たせた。

 目を細めるナギ。


「……その様子だと、貴殿はエルドラーリアを知っているようだな」

「無論だ。かつての人魔戦争でガルダーザ山脈に結界が出来る前――人族に対して最も好戦的に侵攻を仕掛けてきた魔国の王のことだろう?」

「魔国の王って……えぇっ!? 魔王ですかーっ!?」

「左様。エルドラーリアの振るう瘴気――通称『黄金の呪い』は、死者を蘇らせる奇跡を起こす。それだけではなく、自らの力を他者に分け与えることでその者を意のままに操ることもできる。その凶悪さから、真っ向勝負では絶対に勝てないとうたわれた、魔王の一人だ」


 魔王――そんな肩書はラスボスが持つものだと思っていたのだが。

 まさかこんなにも早く魔王の名をきくことになろうとは。


「そんな者がなぜ――」

「ガルダーザ山脈の結界の一部が弱くなったことを察し、侵攻のチャンスと考えていたようだ。エルドラーリアは、山頂の火口に神殿を建て、自らの王国の領土を拡大している」

「その山頂って……まさか……」

「あぁ。この山の山頂だ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ