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35話 殺して……

「グ……ウ……」


 血濡れの剣士を見つけたのは、シエルと再会した地点から少し川を下った先だった。

 殺さないように手加減を加えたのだが――やはり、あれは強力なスキルだったようだ。

 黄金の和装束は、彼女の血で染まっている。


「この人が血濡れの剣士ですか……彼女は、人間……?」

「ヅッ――アァッ……うああっ……!?」


 地面の近くで、もだえ苦しむ血濡れの剣士。

 ふと、彼女が俺にすがるように手を伸ばしてきた。


「あがぁあっ――こ、殺して……頼むっ……」

「えっ――」

「私を……殺せっ……!! 早くっ――!!」


 ――瞳の色がもとに戻っている。

 アメシストのような美しい紫の瞳だ。


「『黄金の呪い』がまた……その前にっ……! あ、うぁあああっ!!」


 そう悲鳴を放ちながら頭を抱えてのたうち回る剣士の少女。

 ――やはり、彼女には何か事情がありそうだ。


「……ユウ様」

「あぁ。分かってる。ホーリーブレッシング」

「っ――!?」


 俺が彼女に手をかざすと、淡い青とエメラルドグリーンの光がその体を包み込んでいった。

 この魔法は、シエルの奴隷呪術を解除したこともある。

 呪いという言葉が出てきたので試してみたが――どうだろうか。


「あ……あぅ……」


 と、剣士の少女の表情が穏やかなものへと変化した。

 金色に変化していた彼女の肌が、だんだんと人のそれへと変わっていく。


「……あぁ。誰かは知らぬが……感謝する……これで私は……あぁ……すまない……セレ……」


 すっと目を閉じる剣士の少女。

 すると、彼女の体を包んでいた黄金の和装束は、落ち着いた白と黒へと変わっていってしまった。

 そのせいで、血に染まった部分が余計に痛々しくみえる。


「……あ、あのっ! 死んじゃったんですか?」

「いえ――息はあるみたいです。眠っただけのようですね」

「あぁ。でもヒールはしておくか……痛かっただろうからな……」


 手加減したとはいえ、あのド派手な光の刃に切り裂かれたのだ。

 彼女の苦しみがどれだけのものだったのか――俺には想像することすらできない。


「とりあえず……この崖を登らないとな。よいしょっ――」

「あ……つ、連れて行くんですか……?」

「え?」


 やや怯えた様子のリリィを見て、思わず変な声が出た。

 ふと、シエルがくすりと微笑む。


「……ふふ、やっぱりユウ様は優しいのですね。敵対していた者でも救おうとするなんて」

「え……いや、だって……」


 事情は分からないが彼女は呪いに侵されていたようだ。

 何も話をしないまま人を殺すというのはさすがに抵抗がある。

 それを優しいというのは少し大げさな気もするのだが――それは、それに女神から与えられた力があるから思えることなのかもしれない。

 つい先ほどまでシエルをここまで追い詰めた敵に手を差し伸べるのは間違っているのだろうか。


「……そうですよね。見殺しにはできないです。リリィ、間違っていました。血濡れの剣士さんも事情があるみたいですし……それに、ユウさんがいますからねっ!」


 だが、そんな悩みもリリィの純粋な眼差しで吹き飛ばされてしまった。

 そうだ――彼女のことは、俺がしっかり監視していればいい。

 本当にシエル達に害をもたらすのなら、その時に覚悟を決めればいいのだ。

 何も今、冷酷になる必要はない。


「よし。じゃあレイグさん達のところへ戻ろうか」

「はいっ! でも……こんな急傾斜、リリィ……登れそうにないです……だから、リリィは一度川を下って……」


 申し訳なさそうにもごもごと口を動かすリリィ。

 一度降りたら戻れない――そんな状況でも、リリィはシエルを助けようとしてくれたのか。

 そんな真っすぐな彼女だからこそ、やはり報われてほしいと思ってしまう。


「そっか。じゃあリリィ、こっちにおいで」

「え……?」

「俺なら登れるから。よっ……」


 少し恥ずかしいがそんなことを気にしてなんていられない。

 血濡れの剣士を背中に背負いつつ、リリィの体を抱き寄せて自分の首に捕まらせる。

 うまい具合に手を差し込んで、おんぶをしながらリリィをお姫様だっこするような体勢へ。


「うええっ!? だ、大丈夫なんですか?」

「あぁ。でも、しっかり捕まってくれよ。落ちたら大変だからさ」

「うぅ……転落時の受け身ぐらいなら、リリィだってとれます。さっきだって大丈夫でしたから……」

「そっか。じゃあ安心だな。さすがリリィだ」

「…………」


 そう言うと、リリィは顔を赤くして俯いてしまった。

 やはり女の子だし、男と体を密着させるのはちょっと抵抗があったのだろうか。

 まぁ――緊急時だし、そこは我慢してもらおう。俺が意識していないようにすれば、彼女の恥ずかしさも減るはずだ。


「よし、じゃあいくぞ。シエルは一人でいけるよな?」

「……はい。問題ありません。私なら別に」

「そう? じゃあ――」

「参りましょう。はっ――!」


 と、鋭い声をあげて、シエルが跳躍する。

 さすがシエルだ。急傾斜をもろともせずに、まるで天地が逆転したかのごとく鮮やかに上へと登っていく。

そんなシエルを見て、リリィが苦笑いを浮かべてきた。


「……あー……やっぱり私、お邪魔でしたよね……」

「そんなことないって。よく頑張ったじゃないか」

「あ、いえ……そういう意味じゃなくて……」

「?」


 何かもの言いたげなリリィを見つめていると、彼女は少し呆れたように半目になる。


「うぅ……もう、ユウさんってなんかおかしいですよね?」

「え? なんでそうなるんだよ??」

「うーっ……いいですからっ、リリィ、掴まってますから、お願いしますっ!!」


 そう言って首に抱き着いてくるリリィ。

 ――まぁいいや。この体勢は正直俺も恥ずかしいから……さっさと上に行くとしよう。


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