34話 後は任せろ
「……?」
刀を振り上げたと思ったら、頭を抱え込んでその場から動かないまま立ち尽くす。
あまりに隙だらけの行動だ。罠を仕掛けているのだろうか。
「…………」
警戒しながら彼女の様子をうかがっていると、彼女はゆっくりと剣を構えなおした。
――ぞくりと体に寒気が走る。
その瞳は不気味な金色へと変色していた。
「深淵薙刀」
「っ――!?」
そこから先は、何が起きたか分からなかった。
一瞬、彼女が刀を振り上げたと思ったら――いきなり視界が黒一色になったのだ。
「かはっ――!」
その直後、体が後方へ弾かれる感触がはしる。
何がなんだか分からない。私は斬られているのだろうか。
「な、なんで……目が……あ、あれ……?」
もしかして、目をやられたのだろうか?
でも、目に痛みはない。斬られてはいないはずなのに……
それよりも、胸のあたりが痛い。多分、私はそこを彼女に斬られている。
――もしかして、盲目の状態異常……?
呪術師が使うスキルの中には、相手の視力を奪うスキルがあるときいたことがある。
剣士のスキルにもそんなものがあったなんて――
「殺ス――」
と、彼女の荒々しい息遣いが聞こえてきた。
でも、一向に視界は戻らない。
「だ、だめ……勝てないっ……」
こんな状況じゃ、何も考えず剣を振り回すぐらいしか抗う術がない。
――恐い。
体がすくむ。
ガラ・ドーラに殺されかけた時だって、ここまでの恐怖を感じたことはないのに。
私は――今、命を失うのが怖かった。
「た……助け……」
私の声は震えていた。
我ながらとてつもなく情けない声。
でも――
――でも、こんなところで死にたくないっ!!
「助けてえええええええっ!! ユウ様ああああああああっ!!!」
ありったけの力をこめて叫ぶ。
せっかくユウ様に色々なものを貰ったのに。
命と、名前と、愛情と――ありったけの幸せを貰ったのに。
これから、ユウ様と一緒に色んなことができえると思ったのに――!
そんな未来を失ってしまうなんて、絶対に嫌っ――!
「――分かった。後は任せろ」
と、次の瞬間――私の目に光が戻った。
何が起きたか分からない。
でも、たしかなのは――
「だ、大丈夫ですかっ! シエルさんっ!!」
「あ、あう……」
リリィさんが私の肩をぐらぐらと揺らしている。
どうやら、私は倒れていたようだ。そんなことにも気づかずに叫んでいたなんて恥ずかしい……
「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃった」
「ギッ――ググ……」
苦笑いをしながら私のことを見つめるユウ様。
……思わず、苦笑してしまう。
いとも簡単に剣士の刀を指で止め、あまりにも余裕に満ちた表情で私に微笑みかけているのだから。
あのガラ・ドーラを瞬殺したユウ様なら当然だとは思うものの――それでも、その圧倒的な強さに驚かずにはいられない。
「ユウ様……あの……私では……」
「よく頑張ってくれたな。ありがとう」
――本当に、ユウ様にはかなわない。
私の自尊心を護ってくれようとしているのだろうか。
意図は分からないけれど、ともかくユウ様の顔を見ていると今までの戦いが嘘のように心が落ち着ていくる。
「いやー……途中の飛び出た岩のせいで、変な方向に落とされちゃって……しかもこの霧だろ? 俺、迷っちゃってさぁ」
「ユウさんっ! 笑ってる場合じゃないですよぉっ! 血濡れの剣士さんがっ!」
「あぁ、そうだった。ごめんごめん。よっ――」
「ッ!?」
と、剣士の方に振り返ると、ユウ様は軽く腕を振り払う。
あまりにもあっけなく、刀ごと飛んでいく剣士の少女……
「グ……ア……こ、殺ス……!」
でも、どうやら彼女の戦意は衰えていないようだ。
それどころか、余計にその瞳には、狂気の輝きが宿っている。
「殺スウウウウウッ!! 殺したくなイイイイイイイッ!!」
「えっ――?」
ふと、ユウ様が目を丸くした。
……私も意味が分からない。彼女の言葉は支離滅裂だ。
「アゥアアアアア……! 殺ス……次、で、おわ……リ……」
彼女の肌を締める黄金の割合がどんどん大きくなっていく。
髪も黄金へ変色し、声色も禍々しく歪んでいく。
「乱レ散レ々レ――」
と――剣士が刀を振り上げた瞬間、その刀から六色の光が放たれた。
それは花びらのような粒子へ形を変え、美しく周囲を彩っていく。
「六花繚乱!!」
剣士が空へ跳ぶ。
その姿が六つに分かれた。
その全てが陽炎のように揺らいでいる。
残像――?
仕組みはよく分からないけれど、その残像それぞれに一色ずつ、花びらのような粒子が纏われている。
「……随分、綺麗な技だな」
そう言いながら、ユウ様は不敵に笑う。
たしかにそう――彼女の剣技はとても美しく、華やかで――
「でも――こっちも負けるわけにはいかないんだよっ!」
ふと、ユウ様が私の剣をとった。
そして――
「レディアントブレードッ!」
たった一度だけ剣を振るう。
でも、ユウ様が振るった剣には、太陽のような凄まじい光が宿っていて――
「グッ――ぎゃあああああああああああああああああっ!!」
黄金に染まった彼女の姿が見えなくなるぐらいの圧倒的な光。
天にも届きそうな巨大な光の刃が、全てを薙ぎ払っていく。
「……うわ。こんなの、狙ってなかったんだけどな」
ユウ様が剣を振るった後の光景は、さっきまでとは別物だった。
完全に霧は晴れ、不気味な黄金も消えている。
本来の自然の姿は、ユウ様のように優しくて、綺麗で……
「す、凄い……たった一撃で……こんな……」
思わず体が身震いしてしまう。
本当に――ユウ様は人間なのだろうか。
「お疲れさま、シエル。大丈夫?」
ふと、そう言いながら手を差し伸べてくるユウ様。
その姿は、初めて会ったときよりもさらに優しく……かっこよく見えて……
「あはは……これで二回目ですね。ユウ様……」
どうにも、顔が熱くなってしまって――
私は、ユウ様と目を合わせることができなかった。




