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32話 殺ス――

「さ、さすがユウさんです……なんの武器もスキルも使わないで、そんな……」


 自分に襲いかかる金の狼を上空へ吹っ飛ばし続けること十数回――

 リリィが呆気にとられた様子で俺のことを見上げてくる。

 だが、とにかく敵の数が多い。

 どこからともなく次々に現れ襲い掛かってくるその様は、さながらゾンビの軍団を彷彿とさせる。


「焦るなよ。今回の敵は騎士団でも苦戦している相手だったみたいだからな。一発でも攻撃が当てられれば上等だ」

「あはは……」


 そうリリィに話しかけてはみたものの――彼女の顔はやや引きつっている。

 目の前の光景に怯えているのか、それとも自分の能力に焦っているのか。


「大丈夫、大丈夫。な?」


 どうにも放っておけない表情を見せるリリィに対して、そっと頭を撫でる。


「……はい」


 どこかすがってくるような表情で俺を見上げてくるリリィ。

 ――うーん、こう言ってはいけないのだろうが、その表情はかなり可愛らしい。

 そんな彼女の愛らしい表情に、少々見惚れていると――



「うあああああああああああっ!!」



 背後から男の悲鳴が聞こえてきた。

 ――普通の悲鳴じゃない。集団戦闘ゆえに、ここからではよく見えないが、何か異常なことが起きたのではないだろうか。

 レイグも、いつの間にか俺達の近くから離れており、ここからはその姿を確認することができない。


「……な、何が起きたんですか?」


 おそるおそるといった様子で、リリィが俺に話しかけてくる。

 だが、さっきの悲鳴の様子だとすぐに対応した方がよさそうだ。

 多少強引だが、リリィの手を引っ張って悲鳴のした方へはしる。


「リリィ、一緒に行こう。俺から離れすぎるとダメージディポートの効果がなくなる」

「は、はいっ――!」

「クロスプレッシャーッ!」


 と、リリィの返事とほぼ同時に、シエルの掛け声が聞こえてきた。

 その直後、鋭い金属音が周囲に響く。


「……衝抗斬」

「ぐっ――きゃあああっ!」


 次に聞こえてきたのはシエルの悲鳴。

 そして――


「あれは――」

「血濡れの剣士だっ! 血濡れの剣士が――ぎゃああああっ!!」


 ある男は絶叫し、ある男は無防備に走り出し、ある男は狂ったように武器を振るう。

 だが、それよりも――



「シエルッ! 大丈夫かっ!!」



 返事はない。

 きこえてくるのは、激しく金属がぶつかり合うような音だけだ。

 騎士団達と、金の狼と――様々な障害物のせいで、シエルの姿が確認できない。

 だが――


「先々の閃」

「ぐっ――あああああっ!」


 それは本当に一瞬の出来事だった。

 急にシエルの体が俺達の方へ吹っ飛んできたのだ。

 愛らしくも威厳のある、凛としたシエルの軍服は見事に割かれ、その腕からは血を垂らしている。


「シエルッ……? っ――!!」


 と、シエルを受け止めようとした瞬間――


「ユウさんっ! 後ろっ!!」


 耳をつんざくようなリリィの声が響く。

 リリィの身に何か起きたのか――と思ったが、それは俺の勘違いだった。

 俺の背後には一人の少女がいた。

 黄金に染まった和装束に、青い髪。


 彼女は、俺の背中に刀を突きさしている。

 どうやら、リリィはその様子に驚いたようだ。

 だが、その刀が俺の体を貫くことはない。


「殺ス――」


 異様な殺気を放つ少女。

 その眼光は、とても正気の人間が放つものとは思えないほど鋭い。


「君が、血濡れの――」

「業火散華」


 剣士の少女は、鮮やかに体を回転させて周囲を刀で薙ぐ。

 それと同時に荒ぶる炎が竜巻のように周囲に拡散した。

 このままでは、シエルが危ない――


「ユウ様っ! 私よりも騎士団をっ! 私は自力で処理できますっ!!」


 そう悩んだ瞬間、背後からシエルの声が聞こえてきた。

 ――芯の通った、頼りがいのある声だ。おそらく、ただのハッタリではないだろう。


「エメラルドバニッシュメントッ!」


 俺がそう叫んでてを前にかざすと、拡散していく炎と騎士団達との間に、エメラルドグリーンの光の渦が現れた。

 その光の渦は、炎とぶつかる度に強烈な閃光を放ち消えていく。


 だが――


「……殺ス」


 その強烈な光の中――視界を塞がれた隙をつかれた。

 気づけば、剣士の少女はシエルに向って走り出していた。


「なっ――待てっ! おいっ!!」

「紫電抜刀」


 俺がその少女に声をかけた時には既に遅かった。

 刀から稲妻のような光を放ち、シエルの体を居合で薙ぐ。


「うっ――あぁあああっ!?」

「烈光斬」


 凄まじく早い連続斬り。

 なんとか蛇腹剣の柄でそれを反らすも、シエルは、俺達が歩いてきた登山道の端まで追い詰められていく。

 そして、シエルは体のバランスを崩し――


「シエルッ――!!」

「ユウさ――あっ!!」


 ――あっけなく。

 あまりにもあっけなく、シエルは転落してしまった。


「シエルーーーーーーーッ!!」

「大丈夫ですっ! あの角度なら、リリィでも降りられます!! シエルさんが死ぬはずがないっ!!」


 リリィの言葉を証明するかのように、剣士の少女も自ら崖へと落ちていく。

 どうやら、シエルに追撃をしかける気のようだ。

 見た目はシエルと同い年ぐらいの可憐な少女に見えるのに――その残虐さと執拗さはどこからくるのか。


「行きましょう、ユウさんっ!」


 と、リリィの力強い声が聞こえてきた。

 まさか――リリィも自ら急傾斜の下へと落ちていくつもりだろうか。

 シエルはともかく――リリィもそんなことができるのか?


「リリィ、待てっ! 深追いするなっ!!」

「いやですっ! 私は――ユウさんの弟子なんですっ!!」


 背後からきこえたレイグの声も、俺が投げかけた視線も無視して、リリィは自分の体を急傾斜に投げる。


「なっ――リリィッ!?」

「レイグさん、すいません! 狼達は任せますっ!!」


 そうだ。悩んでいる場合じゃない。悩む必要もない。

 なぜなら、俺にはチートがあるのだから。



 ――絶対助けるからな……シエルッ……!!



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