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25話 少しいいかね

 夜も更けてきたころ、俺達は騎士団のキャンプに戻り食事を終えた。

 今日寝るテントはシエルとリリィと一緒になるようにレイグが手配してくれた。

 自分の娘が男と寝るのはどうなんだ――と思ったものの、シエルがいるから安心してくれたということだろうか。

 俺自身も、昨日散々シエルとイチャついたせいで、変に緊張することもなくなっている。


 ともかく、レイグの用意してくれた携帯シャワーを浴び、シエルとリリィが戻るテントへ向かう。

 この世界に来て、久々に一人の時間を堪能することもできた。

 まだまだローダンまでの道は続く。今日はゆっくり休むとしよう――



「……ユウ君、少しいいかね」

「はい?」



 と、背後から声がかかった。

 振り返ると、神妙な顔をしたレイグの姿が目に入る。


「……君はアナライズが使えるのか」

「え?」

「隠さなくてもいい。リリィが言っていた。『自分にはレベル100以上のスキルの適性がある』と……とても嬉しそうにな。まったく……驚いたよ。君に鑑定士の適性まであったなんてね」


 そう言いながら苦笑いを浮かべるレイグ。

 何かを言いたそうな雰囲気に、緊張がはしる。


「……まずかったですか?」

「どうだろう……それを私が決めるのはおこがましいとは思うが」


 ため息をつき、レイグが近くに置いてある木箱を指さした。

 ――座って話さないか、ということだろう。

 どうも深刻そうな感じだし、ここは真面目にきいた方がよさそうだ。

 レイグに続いて木箱に座るとレイグは真剣な顔で話し続ける。


「100というレベルに到達できる者は、ほんの一握りの者だけだ。リリィがそのレベルに到達できれば素晴らしい魔法剣士になると思うのだが……そんな未来が訪れるとは、どうしても思えなくてな」


 申し訳なさそうに顔を伏せて話すレイグ。

 リリィの適性については、彼なりに色々と思うところがあるのだろう。

 リリィの適性を知るためのスキル――アナライズは、別に俺だけが使えるスキルではない。それなら、リリィから話を聞く前から、既に彼女の適性のことをレイグは知っていたはずだ。

 それにも拘わらず、リリィが自分の適性のことを知らなかったということは――?


「えっと……俺、世界のことに疎くて、初歩的な質問で申し訳ないんですけど」

「ん、どうした」

「レベル100にならないとレベル100のスキルは覚えられない……ってことであってます?」

「ふむ……」


 怪訝な顔で俺のことを見つめるレイグ。

 やはり、この質問はこの世界の常識にあたることだったのか。

 だが、レイグは特に詮索することなく俺に答えてくれた。


「厳密に言えば違う。あくまで完全に使いこなせるようになるレベルが100だというだけで、どのレベルの段階で仮の習得ができるかは個人差がある。それでも、85はないと習得は絶望的だろうな」


 ある日突然、スキルが完璧に使えるようになるわけではない――ということか。

 そこらへんはゲームのようにはいかないようだ。


「君が見た通り、リリィの適性はかなり極端でね。下級スキルへの適性が壊滅的なのだ。かといって、今のリリィがレベル100のスキルを覚えられるはずもない。どのスキルもまともに使いこなせない現況では、リリィがまともな戦闘経験を得るための手段がない。レベル85どころか、30に到達することすら難しいだろう」


 一応、今でもスキルを使うこと自体はできているようだが、実践では通用しないということか。

 不適正スキルを使うと威力等も低下してしまうみたいだし。


「リリィも来年で成人になる。そろそろ現実を見なければならない頃だ。私としては、このまま見込みのない夢を追い続けさせる方が酷だと思っていてね。リリィがまともに戦場に出たら、何もできず戦死する可能性が高い。だから、リリィの適性については黙っておいたんだ。今回、騎士団に同行を許したのも、実践の中でこの道を進むのは無理だと悟ってくれたらと思っていたのだが……」


 俺が適性スキルのことを話したせいで、リリィに夢を持たせてしまったということか。

 現実の壁を見つめたときの落差をより大きくしてしまったというのなら――たしかに、それは残酷なことだ。


「……すまない。君が善意でリリィと話してくれているのは分かっている。そのことには素直に感謝している。ただ、それとは別にリリィのことが心配でね。君と話しておきたかったんだ」


 レイグの声はとても優しい。

 リリィのことだけではなく、俺のことすら思いやっているような話し方だ。


「貴方は……良いお父さんですね」

「む、そうかな」

「はい……でも、もう少し考えてみます。才能の無い人間の苦しさは……俺も分かるつもりだから」


 頑張っても、頑張っても報われない。

 次第に頑張ることも疎ましくなってきて、無気力になっていく。

 無能は無能なりに、社会の邪魔にならない程度の人生を歩めればいい。

 次第にどんどん後ろ向きな考えになっていって――


 あれはなかなか辛いものだ。


「……変わっているね、君は」

「そうですか」

「あぁ。見知ったばかりの人間のことをそこまで考えることができる者など、そうそういない。……不思議な人間だ。君みたいなタイプは、他人をかばって真っ先に死ぬことが多いからな。気を付けたまえ」

「ははは……」


 冗談っぽく笑うレイグに、思わず顔がひきつる。

 まさにレイグの言う通り、日本では他人を庇って真っ先に死んでしまったわけだが……


「だが……親の私が言うのもなんだが、あの子は純粋でね。後で現実に絶望してしまうかもしれない……それが心配なのだ」


 言われなくても、リリィが純粋な子であることは十分に伝わっている。

 だからこそ、リリィにはぜひとも報われてほしい。


「分かりました。胸に刻んでおきます」

「……助かる。明日の出発は早い。よく休んでくれたまえ」


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