23話 はいっ!
ローダンに向かうため、俺達は馬車に戻る。
リリィは、レイグの許可のもと、俺と一緒の馬車に乗ることになった。
シエルと二人だけでも狭く感じた屋形に入れるかどうか不安だったが、リリィが小柄なおかげでギリギリ入ることができた。
しかし――
「…………」
場所の問題はともかく、コミュ力の問題はなくならないわけで。
美少女二人の間に挟まったまま、これから何時間も気まずくならない自信がない。
とはいえ、無言のままこの状況をやりすごすわけにもいかないだろう。
とりあえず、馬車が進んだ頃合いを見計らい、リリィに話しかけてみることにした。
「えーっと……じゃあ、まずリリィのことをきかせてくれるかな」
「はいっ! リリィは、リリィと言います!」
「えっと……名前じゃなくて……もっとリリィのことがよく分かる経歴を教えてくれないかな」
「分かりましたっ!」
ただでさえ狭いのに、リリィはぐいぐいと俺に近づいてくる。
……完全な密着状態だ。
かといって、逃げればシエルとぴったりになってしまうわけで――
「リリィは、お父さんの騎士団で見習いとして修業しています。14歳ですっ!」
――いけない。リリィの話に集中しないと。
邪心を振り払い、改めてリリィと顔を合わせる。
「見習いかぁ。リリィは、将来騎士になるの?」
「騎士になるかどうかは分からないですけど……リリィは、かっこいい正義のヒーローになりたいですっ! お母さんみたいな!」
「お母さんはヒーローなんだ?」
「はいっ! 魔術師としてレベル100に到達した数少ない一人で――アルミード騎士団の元隊長だったんですよ!」
元気よく答えるリリィ。
だが――どこか違和感を覚えてしまうような声色だ。
「だった……っていうのは?」
「お母さんはもう戦死しちゃったので」
「あ、そうなんだ――」
すぐに後悔する。
こんな世界だ。人が戦死することなんて、もっと簡単に予想できたはずなのに……
リリィの声に妙に違和感があったのは、敢えて元気につくったようなものだからだ。
「そんな顔しないでくださいっ! もう2年も前のことですし、リリィは平気ですっ! でも――リリィ、全然強くなれなくて。それで、ユウさんに」
少し悔しそうに苦笑いを浮かべるリリィ。
――さて、どうしたものか。
女神の恩恵のおかげか、俺はかなりの高レベルのようだ。
だが、どうやったらレベルが上がるかなんて俺には分からない。
ゲームの世界のようにステータス画面を確認することもできないし……
「……あの、さきほどダブルクラスだときいたのですが、それは本当ですか?」
俺が黙っていると、代わりにと言わんばかりにシエルが声をかけてきた。
それに対し、リリィはにこりと笑いながら明るく答える。
「はい。リリィは、剣士と魔術師の適性があります!」
「凄いですね……私、ダブルクラスの方には初めてお会いしました……」
――ダブルクラスってなんだ?
そう疑問に思っていると、シエルが察したように俺に話しかけてくる。
「そういえばユウ様の適性クラスって分からないですよね……?」
「うん。特にそういうのは……」
「え、そうなのですか?」
「……ごめん。クラスって概念も知らないというか……」
「えぇええっ!? それなのに、あんなに強いんですかっ!?」
ぱちぱちと瞬きをしながら、俺のことを見つめてくるリリィ。
それに対して言葉を詰まらせていると、シエルが助け船を出すように話しかけてくれた。
「人には適性クラスというものがあって、そのクラスのスキルしか習得していくことができません。例えば、私の適性クラスは剣士なので、魔術師のスキルを使うことはできません。通常、適性クラスは一人につき一つなのですが、まれに適性クラスを二つもっている方もいらっしゃって……リリィさんは、そういう特殊な才能をお持ちの方ということです」
「なるほど。でも、それなら普通の人より強いんじゃないの……?」
俺の言葉に、リリィは力なく微笑み返す。
「リリィ、自分のマナをうまく使うことができないです。状況判断もうまくならなくて……いつも騎士団の人たちに呆れられてます。お父さんの娘じゃなかったら、多分とっくにクビになってると思います……」
――なるほど。
スキルを習得できるかどうかと、レベルがいくつかというのは別の話というわけか。
「でも、リリィは言われた修行メニューは全部こなしています! やる気だって誰にも負けません! でも……なんでこんなに成長できないのか、皆分からないって……レベルもまだ10しかなくて……」
「10ですか……一般の方に比べれば高いのは間違いないですが……」
言いにくそうに口ごもるシエル。
シエルのレベルは85だときいている。たしかに、それと比べてしまうとお世辞にも強いとはいえないようなレベルだ。
「同じ修行をしてるのに、リリィ……他の見習いよりも弱くて……でも、それがなんでなのかよく分からないんですっ……だから、今回も、お父さんに無理を言って、見学という形で遠征についてきましたっ! もしかしたら、実戦を見ることで得られる経験があるかもって……」
「なるほど……」
彼女なりに色々悩んでいたのだろう。
表情はさほど暗くはなっていないが――それが彼女なりの精一杯の気遣いだということぐらいは俺にだって分かる。
「……そっか。じゃあ、リリィの修行のこと、考えてみるよ。まだまだ目的地まで時間がかかりそうだしな」
「あっ――はいっ! ありがとうございます!!」
さて、無言になる口実もできたことだし……色々考えてみるとするか……




