21話 待ってくださいっ!!
「やああああっ!!」
馬車の外に俺が出ると、既にシエルが蛇腹剣で多数の魔物を屠っている姿が目に入った。
どうやら狼の魔物の群れに襲撃されているらしいが――シエルの活躍は凄まじく、周囲の騎士団達も呆気にとられているようだ。
これでは本当に俺の出る幕は無いのではないだろうか。
「おぉ……ユウ君。加勢しにきてくれたのか」
と、周囲を見渡していた俺に、レイグが声をかけてきた。
彼も戦闘を行っていたようだが、シエルに出番を奪われたのだろう。
若干、ひきつったような笑みを浮かべている。
「そうなんですけど……あはは、必要なかったですかね」
シエルの活躍で、既に形勢は勝勢に近くなっている。
このままほっといてもシエルが敵を全滅させそうだ。
「シエル君のレベルは85だったか……申告通り、素晴らしい実力だね。王宮騎士団にいてもおかしくない強さだ。戦闘奴隷とはいえ、ここまでの強さを持った者はそういないだろう」
そういえば、シエルは交配奴隷なるものの候補だったと言っていたっけ。
ゴンベルドンもシエルの強さは認めていたのだろうか。
シエルは決死隊として捨て駒にされたわけだし、その本心は分からないが――
「……しかし悔しいね。シエル君の強さは、ゴンベルドンの残虐極まりない戦闘奴隷の育て方が正しいことを証明しているようだ。我が騎士団には、あそこまでの強さを持つ者はいない」
そう言いながらぎゅっと口を結ぶレイグ。
「おっと、すまない。湿っぽくなってしまったね。私も自分の仕事を果たしに行くとしよう」
だが、レイグは、すぐに表情を明るくして剣を構えると、前に歩き出していった。
シエルが無双しているとはいえ、狼の数は相当多い。シエルがカバーしきれていないところもある。
とりあえず、周囲を見渡して手薄になっているところがないか確認してみる。
すると――
「うりゃああああああっ!!」
その場所は、あっけなく確認できた。
周囲の騎士達とは全く異質の小柄の少女がいる。綺麗な黒髪のツインテールだ。見た目はシエルより少し幼いぐらいか。
その子が、大きな杖を振りかざし、一匹の狼と戦っている。
おそらく、お互いに主戦場から漏れたのだろう。この大規模な戦闘の中、タイマンで戦っている。
「せーの……! ヒートストライクぅうっ!!」
赤く輝く大きな杖を狼に叩きつけようと走る少女。
だが――
「あ、ありゃああっ!?」
いくらなんでも大振りすぎる。
予想通り、その攻撃はあっけなくかわされてしまった。
「おいリリィ! あんまり無理して戦うなっ! 安全距離から魔法で援護するだけでいいっ!」
と、前方で別の魔物と戦っている騎士が少女に向かって叫んできた。
「は、はいっ! えーっと……『荒れる炎よ、赤き光の矢となりて――』」
魔法の詠唱だろうか。なにやらぶつぶつと話している。
それにしても、安全距離からと言われた割には、魔物から全然距離をとれていない――というか、とる気がないかのように棒立ちで詠唱しているのだが。
「『穿てっ!』 ファイアボルトッ!」
そう少女が叫んだ瞬間、杖の先から赤い魔法陣が展開された。
詠唱のとおり、その中心から赤い光の矢が魔物に向って放たれる。
だが、その光の矢は、魔物に当たった瞬間、霧散するように消えてしまった。
魔物は、特に怯む様子もなく少女を睨んでいる。
「あ、あれ……あんまきいてない……あたったよね……?」
「バカッ! そいつは火属性に耐性があるって教えただろっ!! 水属性の魔法を使えっ!!」
「あ、はいっ!! えーっと……『逆巻く水よ、青き光の矢となりて――』って、うわぁあああ!?」
――だめだ。
なんか頑張っているのは伝わってきたし、水を差す気になれなかったのだが、これ以上はさすがに放置できない。
少女は、棒立ちで詠唱をしているせいで無防備だ。
そこに狼の牙が襲い掛かっている。
「ひっ――!?」
その牙が少女の体を貫く寸前、俺の拳が狼の頭を貫いた。
直後、魔物の体が銃から放たれた弾丸の如きスピードで吹っ飛んで行った。
「……いや、飛びすぎだろ……」
比喩でもなんでもなく、地平線の彼方まで消えていった魔物を見て、思わずそう呟く。
彼女を守るため、とっさに行動したからうまく力加減ができていなかったのだろうか。
「何が……起きたの……?」
少女は、ぺたりと尻餅をついて俺のことを見上げている。
呆然としているが、怪我はないようだ。
近くの魔物は、他の騎士団がしっかりと対応しているようだし――とりあえず少女の安全は確保できたと考えていいだろう。
「ユウ様―っ! こちら、戦闘終了しました! 大丈夫ですかーっ」
と、シエルの声がきこえてきた。
手を振りながらシエルが俺の方に駆けてくる。
「あぁ、大丈夫だよ! いまそっちいくー」
周辺では、数匹の魔物がまだ騎士団と戦っているが――ここまでくれば後は彼らに任せておけば大丈夫だろう。
とりあえず、周りの騎士達にヒールをかけながらシエルの方へ歩いていく。
皆、驚いていたが恩を売りたいわけじゃない。目立つのも好きじゃないし、さっさとシエルと二人で馬車に戻ることにしよう。
「あ、あの――待ってくださいっ!!」
そんな時だった。
服の裾を引っ張られ、俺の体が後ろに傾く。
「あっ……とと。いきなりすいません。大丈夫ですかっ!」
「あぁ。君は――」
さっき、リリィと呼ばれていた少女だ。
少し緊張した面持ちで俺のことを見つめている。
そして――
「あ、あのっ――! リリィを弟子にしてくださいっ!!」




