18話 恥ずかしいけど……
「はい……その……えっと、気持ちいい……んですよね? 実際の体験は、その……ないんですけど……でも、私も16ですし……もう成人はしてますから……大丈夫ですっ!」
――全然大丈夫じゃないんですが、それは。
この世界では16歳は成人と扱われるのか。
というか、シエルは16歳だったのか。アウトじゃないか、完全に。
完全に言葉を詰まらせていると、シエルは焦ったように俺にから離れて、わたわたと手を振り始めた。
「あ、あの! 交配がお好みじゃなかったら……えっと! 昨日みたいにしていただければっ! 私の匂いでよければ、いつでも嗅いでくださいっ!! 尻尾も触って下さいっ!! なんでも! なんでもお応えしますからっ――!」
「え、ちょっ――シエル!?」
一生懸命に俺を見つめ、両手で強く俺の手を握りしめてくる。
そのまま、俺の手にすがるように、自分の手を胸に引き寄せるシエル。
「ユウ様程じゃないとはいえ、戦闘もできますっ……! 生活のお世話も、頑張って覚えますっ! 美味しい料理とか……色々っ! 絶対、覚えてみせますからっ!! だから……私を……私をお傍においてください……お願いしますっ……」
「シエル……」
ここまで必死に懇願されると、嬉しさよりも切なさの方が上回ってしまう。
震えてうわずったその声は、捨てられることに怯える子供の声そのものだ。
と、思っていたら、シエルはまっすぐ俺を見つめてきて大きく深呼吸をしてきた。
「今まで感じたことがないけれど……でも、こんな温かくて、切ない気持ち……他には考えられませんっ……だ、だから……私は……その、つまり……」
シエルの表情が鋭くなる。
緊張で震えた声とは裏腹に、芯の通った真摯な瞳。
それは、まるで自分が子供ではないのだと訴えているようだった。
そして――
「私は――ユウ様にべた惚れしているんですっ……!」
覚悟を決めたように、まっすぐ俺を見て言い放つ。
「…………」
そのシエルの言葉をきいた時、俺は何も言えなかった。
こんなにもまっすぐに、人から好意を受け取ったことなんて、今までの人生で一度もない。
こんなにもまっすぐに、人から好意を受け取れるような立派なことをしてきた覚えも、今までの人生で一度もない。
だから、シエルの言葉をそのまま受け取ってもいいのか――そんなことを考えてしまった。
「あ……その、だから……えっと……ユウ様もべた惚れだったら……その、私としては……えっと……あれ……な、何が言いたいんでしょう……私……」
ふと、シエルがはっとしたように俺から手を離す。
一気に弱々しくなっていく声。
「……ご、ごめんなさい……ごめんなさい……こんな醜い女に慕われても気持ち悪いですよね……う、うぅー……」
しまいには、俺から逃げるようにソファの端っこにそそくさと体を退かせてしまった。
そんな彼女を見て、苦笑する。
相手に好意を向けられているか確認するのが怖い。相手の好意を受け取るのが怖い。
その感情は、今俺が抱いているそれと同じなのだろう。
それでも、シエルは一生懸命気持ちを言葉にしてくれた。
それなら、俺も――
「――あぅっ!?」
軽く、シエルのおでこを小突いてみる。
だが、そんな僅かな刺激でも、今のシエルにとっては大きな刺激だったようだ。
びくりと体を震わせて、おそるおそる俺のことを見上げてくる。
「ユウ様……?」
「謝ったから。罰ゲーム」
「あ、うぅ……そうでしたね……あはは……」
脱力したように笑うシエル。
でも、どこか居心地が悪そうだ。
そりゃあそうだろう。俺はまだ、シエルの言葉に何も答えていないのだから。
「シエル――俺の気持ち、言うね……」
「っ――」
シエルの顔に緊張が走る。
恐怖と期待が混じったような表情。
それが、余計に俺の動悸を早くさせる。
「……シエルは可愛いよ。本当に。醜くなんてない。ていうか……一目惚れだったかも……」
「っ――!?」
シエルの耳と尾がピンとはねた。
まるで威嚇でもしているかのように、シエルの体全体に力が入っていく。
でも、嘘は言っていない。
「……だから……その……正直に話すと……昨日一緒に寝た時は……純粋な気持ちじゃなくて……下心もあって……」
「う……」
自分でも何を言っているのか分からなくなってきたが――なんとなく、話さなきゃいけないような気がした。
昨日、シエルとテントの中で寝たときには、結局何もなかったわけだが……ただ、添い寝はしてしまったわけで。
結果として、よく眠れたことは事実なのだが、変なところが起きてしまったのは――男の悲しい性なわけで。
「でも、それだけじゃないのは本当だっ――! まだ少ししか一緒にいないけど、それでもシエルが本当に優しい子なのが伝わってきて……俺は……」
シエルは何も言わない。
息を詰まらせたまま、瞳を潤ませたまま、俺の言葉の続きを待っている。
「俺は……シエルが好き……」
「っ――」
ほろりと、シエルの目から涙が零れた。
それを拭こうともせず、シエルは、そっと俺の頬に手を添えてくる。
「ほんと……ですか? 私への気遣い、ではなくて……?」
「あ、あぁ……」
「そうですか……ユウ様が……」
ほっと溜息をつきながら、俺の頬を優しく撫でてくるシエル。
「えへへ……下心、あったんですね……」
「う……」
少しからかうように微笑むシエル。
一気に顔が熱くなってくるのを感じた。
でも、シエルの手が心地よくて動けない。
「恥ずかしいけど……凄く嬉しいです……だって……実は、私もそうだったから……」
「えっ――」
「あのまま……ユウ様が私を……私を求めてくれたら……デクシアに帰らなくてもいいのかなって……その理由ができるからっ……!!」
「シエル……」
――そうだったのか。
シエルは、本当はデクシアに帰りたくなんてなかったんだ。
でも、あの時のシエルには奴隷紋が刻まれていた。
そしてなにより――俺が人が住んでいるところに案内してくれと頼んでしまった。
だから、シエルはその言葉が出せなかったんだ。
「それだけじゃない……貴方に尾を触られた時……その……すっごくドキドキして……あぅ……」
ふと、シエルの耳がぴくりと動いた。
力が抜けていくように、シエルの目が、だんだんと艶めかしくなっていく。
「貴方の気持ちが、とってもぽかぽかで……なんか、ぼーっとしてくる……」
「…………」
――沈黙。
だが、さっきまで俺が感じていた気まずい沈黙ではない。
こうするのが自然、と感じれるような――それでいて、とても穏やかで、温かい感覚。
「ユウ様……」
削除の可能性を考えて分割します(笑




