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15話 ついてきてくれないか

「貴方は――」


 声がした方向を振り返る。

 そこには、すらりとした体形の壮年の男が立っていた。

 美しくまとまった髭に鋭い眼光。一目見ただけで立場のある者であることが分かる立派な鎧。


「大丈夫だ。君達に敵対はしない。約束する」


 ふと、その男が俺に視線を向けてきた。

 たしかに、彼の表情は敵意を感じさせるようなものではない。

 念のため警戒はしておいたほうがいいだろうが――ゴンベルドンを殴るのはやめておこうか。


「……感謝するよ」


 と、俺が攻撃をする意思をなくしたのを察したのか、男は俺に対して微笑んできた。

 そして、ゆっくりとゴンベルドンに視線を移し、問い詰めるように言葉を続ける。


「久しぶりだな、ゴンベルドン。お前にしては随分追い込まれているようだが」

「うるせぇっ!! そいつは俺に歯向かった反逆者だ!! 俺は間違ってねぇ!!」

「……そのようだな。お前とこの青年のやりとりは途中からだが見させてもらっていた。どうやら理はゴンベルドン――貴様にあるようだ。だが、私はこの青年のような考え方を好む。それは貴様も知っているだろう?」

「なんだと? てめぇも法を犯すつもりか!」


 ゴンベルドンがそう叫ぶのを見て、男は呆れたように笑う。


「そうは言っていない。しかし……ふふ、君がその台詞を言うのか。好き勝手に横領した結果、危険な地方へ左遷された身分で――随分と皮肉なものだな」

「だ、黙れっ! どうあれ、ここは俺の領地だ。てめぇの好きにはさせねぇぜ」

「心配せずともそのつもりだ。私がここに来たのはローダンの救援要請を受けたためだ」

「ローダンだと……? なんでお前がそんなとこに」


 怪訝な表情を浮かべるゴンベルドン。

 それに対し、男は一つ呆れたようにため息をついた。


「その様子ではやはり知らなかった――というより、ただお前が気づかなかっただけのようだな。どうせ適当な仕事をしていたのだろう。また女遊びか」

「はっ――あんなのは女じゃねぇ。穴のついたただのおもちゃだ。何の価値もねぇ獣人族に価値を与えてやってるんだよ」

「そうか。それはご立派なことだ。だが、ローダンが魔物の侵攻された場合、次の侵攻場所として真っ先に候補になるのはここデクシアだぞ。ローダンの救援要請を看過した君のミスは、領主の仕事としてはお粗末に過ぎないか」

「っ……」


 男の言葉に、ゴンベルドンが顔を歪ませる。

 言葉を詰まらせている彼に対し、男は軽蔑の眼差しを向けたまま話し続けた。


「まぁいい。私の目的はお前を弾劾することではないからな。あくまでローダンの救援をすることの方が大切だ。とはいえ――ゴンベルドン、後から弾劾を受けたくなければ、今からでも必要な書類には目を通しておくべきだ。そうだろう?」

「ちっ――」


 屋敷の中を指さす男。

 それに対して、ゴンベルドンは舌打ちをすると何も言わず屋敷の中に入っていった。

 遠目から俺達のことを見つめていた警備兵達は、訳が分からないという表情で固まっている。

 それは、俺とシエルも同じだった。


「……さて、悪かったね。邪魔をしてしまって。私はレイグという。よろしく」


 そんな俺の視線に気づいたのか、男はふっと笑みを浮かべてくる。


「いえ……別に……」


 ゴンベルドンがシエルに与えた苦痛を考えるとどうも釈然としないが――俺も頭に血がのぼってしまっていたかもしれない。

 そもそも、俺には行く当てがないのだ。

 冷静になって考えてみれば、シエルを奴隷から解放したとして、シエルに安心した生活を提供できるような甲斐性もない。


 ――これから、どうしようか……


「……ふむ。君、私と共にローダンに行かないか」

「え……?」


 と、俺の内心を見透かしたように、レイグが声をかけてきた。


「途中からだが、君とゴンベルドンのやり取りは見せてもらったよ。どうやら相当腕が立つようだね。私としては、是非その力を借りたい」


 俺が警戒を解ききっていないことを見抜いているのか、レイグは一定距離を保ったまま近づいてこない。

 冷静に――かつ、穏やかに。ゆっくりと言葉を続けていく。


「もちろん、ただでとは言わない。事情はどうあれ、君はゴンベルドンに手をあげ、彼の奴隷に対する所有権を強制的にはく奪した。本来であれば罪になる行為だが――アルミード領主の地位にかけ、私が君のことを全面的に擁護しよう。当然、相応する金銭の支払いも」

「アルミード……?」

「む。君はアルミードを知らないのか」

「はぁ……すいません。この世界には疎くて……俺、遠くからきたもので」

「ほぅ――」


 レイグは、目を細めて俺のことを見定めるように見つめてくる。


「まぁ……たしかに。あそこまで強大な力を持っておきながら、この私が顔を知らないというのは、そうとしか考えられぬか……」


 少し居心地が悪い。

俺のことを疑っているわけでもなく、悪い人でもないのは分かるのだが――上司から呼び出しをされたかのような感覚だ。


「ここだと少し話辛いだろう。どれ、場所を変えようか。私が宿を用意する。ついてきてくれないか」

「……ユウ様」


 ふと、シエルが俺の傍に寄り添って頷いてきた。

 今の状況で放り出されても俺がシエルに安定した生活を提供できるわけではない。

 ここは、素直に応じておくのが得策か。


「分かりました。よろしくお願いします」


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― 新着の感想 ―
[一言] レイグが主人公を養護するって言っているけど、後ろ盾なんかなくても主人公の戦闘能力ならどうこうできないだろ。
2021/09/09 04:56 退会済み
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