14話 今更わめくなっ!
「ば、ばかな……! ふざけるなっ! レベル100の召喚獣だぞっ!! それなのに、なぜっ――」
ゴンベルドンは、俺の言葉に答えない。
頭を抱え込んだまま、よろけながら叫んでいる。
「そんなことよりシエルを奴隷から解放してくれないか?」
「ふざけるなっ!! こんなことをしてただで済むと思っているのかっ!」
「別にそういうわけじゃない。でも、ただで済まなかったとしても諦められないものがあるだけだ」
「は……? はは、そうか。お前、そこまでその女にべた惚れしてるのか」
「えっ――惚れ……えっ、え?」
――ちょ、それは話が飛躍していませんかね?
なんか、シエルも頭が沸騰してる感じになってるし。
……いや、まて。冷静に考えてみると俺はシエルに惚れている……のだろうか。
たしかに、シエルは凄く可愛いし、なんか一緒にいてリラックスしてたし……
ていうか――あれ? 俺、さっき『この世界で君と一緒にいたいんだ』とか叫んでなかったっけ。
――うおっ、めっちゃ恥ずかしっ!
さっきまでは、ゴンベルドンのシエルに対する態度に怒っていたため流せていたのだが、改めて指摘されると一気に顔が熱くなってくる。
「ひゃっはははははは! このクソガキがっ! ならテメェを追い詰めるのは簡単だ! おい、そこの奴隷!! そいつを殺せっ!!」
「え……? 私が……?」
「これは命令だっ! 早くそいつを殺せ!!」
「そ、そんな……私がユウ様をっ!? なんでそんなことっ――!」
悲痛に首を横に振るシエルに、ゴンベルドンは地団駄を踏みながら叫びだす。
「いいから俺の言うことをきけえええっ!!」
「い、いや……ユウ様に手を殺すなんて……そ、そんなの……」
その瞬間、シエルの顔色が一変した。
そして――
「うああああああああああっ!? ああああああああああっ!!」
「え……? シエル?」
何の前触れもなく、シエルが頭を抱え込んで絶叫をしはじめた。
同時に、シエルの体のあちこちに青白い閃光が走る。
「ひゃはははははははっ! 俺に逆らうからそうなるんだ!! 死にたくなけりゃ殺せ! その男を殺せっ!! あっひゃひゃひゃひゃ!!」
「貴様っ――シエルに何をしたっ!!」
「言ったろ、そいつは俺の物なんだよ!! さっさと消えろ、クソガキィイイイ」
「ああああああああああああっ!! 痛いっ――あああああああああああっ!!」
耳を塞ぎたくなるような悲痛な叫び。
それはさながら、狂人があげる断末魔のごとく凄まじいものだった。
蛇腹剣を投げ捨て、地面に倒れ、のたうちまわりながら涙を流すシエル。
とっさにヒールをかけてみるが、シエルの悲鳴は止まらない。
「嫌だあああああああっ!! 殺したくないいいいいっ!! 死にたくないいいいいいいいいいいっ!! 私は、私はっ――」
這いつくばりながら俺の方に手を伸ばすシエル。
そして――
「ユウ様と一緒にいたいいいいいいいっ!!」
「シエルッ――!」
――クソッ、馬鹿か俺は……!!
ようやく思い出した。
奴隷が任務に違背すると、奴隷紋が苦痛を与え、最終的には奴隷を殺すということを。
だから、単に傷を癒すヒールをかけても意味がない。
シエルが俺を殺すという行動を拒否し続ける限り、奴隷紋はシエルを苦しめる。
だったら、シエルを救うには――シエルを拘束する奴隷紋を消すしかない。
「ホーリーブレッシングッ!!」
そのことに思考がたどり着いた瞬間、頭にその言葉が浮かび上がった。
それと同時に淡い青とエメラルドグリーンの光がシエルの体を包んでいく。
すると――
「かっ――はっ!? はーっ……はーっ……! うっ……!」
あるタイミングを境に、シエルの呼吸が変わった。
悪夢から目覚めた直後のように、目を大きく見開いて肩を揺らすシエル。
「大丈夫か、シエルッ……!」
「はー……はー……え……あれ、なんで……? 私、死んでない……?」
「死んでないよ。死なれたら困る」
「ユウ様……」
荒い息のまま、そっと手を伸ばしてくるシエル。
少なくとも、体の外部に異常はない。痛みも消えているようだ。
「ごめん、シエル。首の後ろをみせてくれるかな」
「あ、はい……」
ゆっくりと起き上がり髪をたくしあげるシエル。
……やはり、奴隷紋は消えていた。
俺がさっき使った魔法は、奴隷呪術を解除するもののようだ。
「な、なんだお前……一度かかった奴隷呪術を術者でもないのに解呪しただと……? そんなこと、できるはずが……」
呆気にとられた表情でこちらを見つめているゴンベルドン。
それを見て、沸々と彼への怒りがこみあげてきた。
「もう一度いう。シエルは物じゃない。そして――もう、お前の奴隷でもない」
「な、なんなんだお前はっ……!」
後ずさりするゴンベルドン。
「誰でもいい。でも、シエルをここまで苦しめた罰は受けてもらおうか」
殺しはしない。
俺にだって良心はある。例え嫌な相手であったとしても、最低限の情けはかけるつもりだ。
だが――少なくとも、シエルの受けた痛みぐらいは受けてもらわなければ。
「ひっ――! やめろ、くるなっ! くるなああああああああっ!」
「シエルの悲鳴をききながら笑ってた奴が……今更わめくなっ!」
拳を振り上げる。
その瞬間――
「すまない。その拳、下げてもらえないかな」




